12代五右衛門 恋物語

ある小さな村に忍者学校なるものがあり、12代五右衛門は、そこで一般教養とともに忍術・武術も教わった。
その忍者学校から一番近い学校は、夏場だけの学校であり金持ちの子供達が避暑地で夏の間だけ通うためだけに建てられた学校であった。
その学校に一際可愛らしい少女が通っているという。
噂を聞いた五右衛門とその友人達は、こっそりとその学校に忍び寄り、その少女を覗き見にいったものだった。
彼女はとある財閥の令嬢であった為、誰もが関わることはないだろうと諦めていた。

夏休みに入り、山の木々でセミが耳を劈くように鳴いている昼下がりの事だった。
五右衛門が山奥の小さな沢で泳ぎの忍術の訓練をしているときに、偶然迷い込んだ「財閥の令嬢」が、沢に落ちかけたのを助けたことがきっかけで、彼女は度々その沢に遊びにくるようになった。

彼女の名前は佐藤弘子といい、五右衛門と同じ年であった。
夏の間だけ、母親と一緒に近くの別荘に滞在しているとのことだった。

五右衛門と弘子は山の中で、昆虫を採ったり木によじ登ったりして、自然を満喫していた。
それは他の友人達にも言えない、五右衛門とだけの密かな楽しみになった。
可愛らしい彼女を独り占めに出来たような気がして、毎日が楽しかった。

そんなある日、いつものように五右衛門が沢で泳いでいると、いつもは涼しげな顔をして「私、泳げないの」と言って見ているだけだった弘子が沢に入り、泳ぎ始めた。
五右衛門は、泳ぐコツを教えた。
そうして少しだけ泳げるようになった頃、沢から彼女が上がろうとした時にバランスを崩し足を滑らせて転覆した。
五右衛門は急いで助けに行ったが二人とも溺れそうになってしまった。
そこへ偶然に通りかかった数人の村人が二人を見つけ、急いで引き上げられ助かった。
しかしたまたま仕事の都合で来ていて別荘に来ていた彼女の父親は、それを知って激怒した。

「君はうちの娘を殺す気かね?!五右衛門くん。君は彼の極悪人、石川五右衛門の子孫だそうだね。うちの娘を殺そうと考えてもおかしくない。そうか、金が欲しいからか!これはやるから(数千円を五右衛門に投げつけ)、金輪際うちの娘に近づかんでくれ!」

彼女はそう激怒する父親の横で、黙ってうなだれているだけだった。
悔しくて悔しくて、五右衛門はその帰り道、気が付くと沢に密集して生えているオオバギキョウを、いつも携帯している短刀で、がむしゃらに切ることで行き場のない怒りを堪えた。
そして彼女はそれ以降、沢には来なくなった。


夏も終わり秋になる頃、避暑地学校の生徒達は都会に帰って行く時期になった。
佐藤家の母娘もまた、都会に帰ることになった。
荷物をまとめて車に載せ、母娘も車に乗り込んだ。
滑るように走り出す車。
それを遠くで見ている五右衛門の姿があった。

五右衛門は追いかけた。
追いかけたところでどうなるわけでもないのだが・・・

一瞬だけ、後部座席の窓に張り付くようにしてこちらを見ている彼女の姿が見えた。

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