Copyright 2007 Mams&Co. All rights reserved.


好日



『ごえもーん』
(ドラえもーん)
 五ェ門は苦笑した。耳に当てた、掌の中の小さな機械に向かって話しかけた。
「何だ」
『あのよォ』
 五ェ門は平静を保った。
『鉄釘何本入れたらいい?』
「…なんだ」
 そんなことか、と言う前に口をつぐんだ。
「豆は何袋買った」
『とりあえず二袋。丹波篠山最高級ッ』
(売るほどできるぞ)
 五ェ門はつい肩をすくめた。
「三、四本もあれば足りる」
『オケー』
「錆びておろうな?」
『ピーッカピカ』
「それでは駄目だ」
 大げさなため息が響いた。五ェ門は掌から耳を少し離した。
『ないと駄目え?』
「駄目とは言わぬが…錆びた鉄釘を入れたほうが、黒豆は色よく仕上がる」
『――アア、これで俺様のことし一年、パァ!!』
「スチールたわしを使えよ」
 五ェ門は静かに告げた。
『なにい』
「スチール・たわし・だ。なべ底の焦げ付きをこそげる」
『使えンの』
「ないより増し。…流し台の、足元の扉の中に新しい塊が入っている、うずらの卵二つ分ほどにちぎって使え。間違っても洗剤のついたものを」
『了解! ありがっと』
 電話は早々に切れた。
 手の中のデバイスを、五ェ門は黙って懐に収めた。
 山肌の突端に五ェ門は座っている。眼下を覆う雲の切れ間から、緑深い糸杉の競い並んで、天に向かっていちどきに伸びている。
 結跏趺坐(けっかふざ)の背筋をピンと立てた。
(負けじと思った時点で既に負け)





 懐が震えた。
「拙者だ」
『よおー、キントンのころもが』
(焦げたか)
『こげちまった、なーんかリカバリーの方法ってない?』
「焦げも風味のうち」
『真っ黒だ』
「それは残念」
 肩を落としたルパンの姿が見えるようだ。五ェ門は不憫に思い、次に不審に思った。
「次元は」
『今朝までその辺に』
(逃げた)
 五ェ門は眉を下げた。
「取り寄せればよかろう。なだ万でも吉兆でも」
 チチチ…と舌を鳴らすのが聞こえた。
『わーぁってないねェ。どんな高級料亭の味も、愛のこもった手料理にゃあ敵わねえのヨ!』
(腕が良ければな)
 とは言わずにおく。





 立ちのぼる木々の香気がすがすがしい。…五ェ門はまぶたを緩めた。
『雑煮の』
「うむ」
『餅は丸いの四角いの』
「つゆは味噌か出汁(だし)か」
『味噌』
「ならば」
『は入れねえ』
「四角」





 ――ぐう、と腹が鳴った。





 デバイスの電源を切ろうと思えば切れる。
 アジトへ帰ってやろうと思えば帰れる。
 こらえる。受け流す。





 悪くない、年明けの修養初め。







謹賀新年



2007年の年賀として頂きました!

拘るときはトコトン拘るなルパン。お料理もやるとなれば本格的に作りそうですよね〜(こんなルパンが大好きですv)
それを受け流し、受け入れる五右ェ門がこれまた素敵。大人っぽくて、付き合いが良くて(笑)
読んでいたら、私のおなかまで鳴って来ましたよ。つい「お雑煮作ろうかな」という気持ちになりますねv

mamsさん、ありがとうございました!
Mams&co.さんのサイトはこちらですv

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送