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初夢




 絢爛なふすまを、ルパンは左右に引き開けた。
 青い畳敷きの、大広間の真ん中に、ポツンと置いてあった。片手のひらに乗るほどの、低い、末広がりの円錐だ。遠すぎて彩りは見えない。
 ルパンはずんずん近づいていった。
 近づくほどに、円錐は次第に大きくなっていった。やがて、ルパンと等身大の女雛の人形が、そこへ座しているのが知れた。
 否――ルパンは見回した。天井は大空を見上げるようだ。畳の目の隙間につま先をとられる。ルパン自身が雛人形のサイズまで縮んだのだ。
 ルパンは改めて、目の前の女雛に目をやった。
 女雛の顔はもちろん不二子だ。目にも鮮やかな猩々緋(しょうじょうひ)の下に、次々と色を重ねた十二単が似合う。玉座に広がる袖や裾を、ゆったりと引いては整えている。
 ルパンはニッコリ笑った。
 不二子はツンと澄ましている。ルパンが遅れたので機嫌を損ねたのだ。
 ルパンはいそいそと、笏を右手に握りこみ、平安装束のはかまをつまんで裾をたくし上げた。踏まないためだ。ずかずかと、不二子の隣にしつらえられた、自分の玉座に上がりこんだ。
(ヨォ、座り方は胡坐でいいんだっけか?)
 とりなすように聞いてみた。不二子は答えちゃくれない。
 ルパンは自信なく、そわそわと居住まいを正した。自分の利休鼠色の装束を、良く覗いてみると、無数に散らした鷹羽の地模様がついている。




 後ろから、ルパンの襟首がぐっとつかまれた。
(わっ、わっ)
 高々と宙につるされた。手足をばたつかせていると、弾力のある地面にチョンと下ろされた。
 ルパンは唇を尖らせた。
 ルパンを左の掌に乗せた次元は、笑いもせず、巨大な顔を近づけた。思い出したように、右手で、くわえていた巨大なタバコを口の隙間からはずした。
 リリパット・ルパンはガリバー次元をよく観察した。違和感の原因はすぐに分かった。次元は、見慣れないコニャック色のソフト帽をかぶっていた。トレンチコートを着て、醒めた目つきで、苦虫を噛み潰したように片頬を攣(つ)らせ、まるっきり例の映画俳優気取りだ。
 ルパンは噴き出した。次元は肩をすくめてつぶやいた。
 ――夢が詰まってるのさ
 そして次元は、ルパンをトレンチコートの左ポケットへ無造作に押し込んだ。




 方丈では、五ェ門がちゃぶ台を広げて、飯をむしゃむしゃ食っていた。
 ルパンの視線に気づくと、五ェ門は箸を止め、台所のほうを見た。自分の飯茶碗を持って来いという意味だろう。
 腹が減ったルパンは、おひつの蓋を開けて中身を確認した。
(おかずはヨ?)
 ちゃぶ台の上の、柿右衛門のどんぶりに、小茄子の漬物が山盛りに盛ってある。
 五ェ門は言う。


 *


「――起きぬかルパン」
 テーブルに突っ伏していたルパンは、揺り起こされて、重いまぶたをしぶしぶ開けた。
 記憶の輪郭のぼやけたところを手繰り寄せた。
(あれが噂の)
 …細かい部分で多少、定形との相違があった気はするが…確かに、初夢の吉祥夢、一フジ・二鷹・三なすび。見るのは初めてだ。
 ことさら、一年の多幸を約束されたようで、ルパンはまんざらではなかった。




 ようやくはっきりした視界には、酒瓶とグラスと徳利とぐい呑と、食い散らかしたご馳走の皿また皿が散乱していた。ルパンは上機嫌で声を上げた。
「ちぇー、だーれも片付けてねえの。おい、おまぁら後でジャンケンだかんなああ」
 部屋のドアから、次元と不二子の後姿が、大急ぎで出て行った。不二子は目の覚めるような真っ赤なセーターを着ている。
 ルパンは笑う。
「あああ、食うだけ食って飲んで、狡りーい!」
「新年早々」
 五ェ門が眉をしかめる。ルパンはおうようになだめる。
「マアマア」
「銭形が来たぞ」













*文中、次元の台詞はDVD『マルタの鷹』(販売:株式会社ファーストトレーディング)に拠りました。


2008年の年賀として頂きました。

初夢にこんなおめでたい夢を見られるなんて、さすがルパン!ですね。
仲間たちがいからもそれらしく登場しているのも、いいですよねぇv
夢の中がいかにも夢らしい雰囲気で、不条理な感覚などが本当にすごいなぁと思いました。
そして今年も、銭形に追われつつ、ルパンたちの活躍が始まるんだというワクワク感もたまりませんv

mamsさん、ありがとうございました!
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