脱出不可能 (後)

「所長、ルパンを内密にどこかへ動かした方がよかないでしょうか」
不二子が潜入していた日から、さらに数日たった午後のことである。
刑務所内で唯一、豪華という言葉が似合う所長室に、二人の男が難しげな顔をつき合わせていた。

刑務所長であるカシムは、机越しに詰め寄ってくる銭形を見上げ、やや迷惑そうに目をそらした。
「しかし銭形警部……ルパンを動かすといっても。ここ以上の刑務所は他にないぞ」
顔つきこそ苦々しかったものの、カシム所長の口調にはどこか得意なものが滲む。「脱出不可能」と名高いこの刑務所を、非常に誇りにしている男なのである。
だが銭形は、お構いなしに云い返した。
「そんなことはわかっとります。しかしですね、これほど短時間に、二度もルパン奪還が企てられとるのですぞ」
「撃退しているじゃないか。お手柄ですよ、警部」
「何を呑気な! 所長はルパンと、その一味の怖さをまるでご存じないのです!」
吼えると同時に、机を両手で大きく叩く。
そして、銭形はルパン一味の手ごわさと、これまでルパンが成し遂げてきた脱獄の鮮やかさについて、熱弁を振るった。口を挟む隙を持てず、カシムはただ己のひげをひねり上げて聞き入っているほかない。
「いいですか、カシム所長。そろそろルパンのやつも、この刑務所に慣れ、脱獄の手口を思いつく頃でしょう。ヤツの仲間だって、このまま黙っちゃいないはずです。またいつ襲ってくるかわからん。そうさせないためにも、別の場所に移してしまうのが賢明です」

銭形の堂々たる長広舌を聞いていると、カシムは次第に不安がつのってきた。確かに、ここはどんな犯罪者も逃すことのない、きわめて優秀な刑務所である。しかし、その警備をかいくぐって、二度もルパン一味は刑務所内に入り込んでいるのだ。
ルパンがいまだにこの刑務所内にいることが、奇跡のような気すらしてくる。
カシムの自信が揺らいだ。
「では銭形警部。どこへ移すというのだね?」
そう問われると、銭形は急に声を潜め、さらに身を乗り出してカシムに耳打ちする。
「はい。これは極秘事項ということでお願いしたいのですが……S刑務所の地下独房に移送しようと思っとります。すでに関係各所の了解は得ております」
「うむ……」
そこも、かなり規律が厳しく、警戒厳重な刑務所の一つといえた。銭形のあまりの手回しの良さに、少し気を悪くしたけれども、それどころではないのかもしれないと思い直す。
カシムは納得して、頷いた。

「では所長、独房の鍵をお貸しください。これから、さっそく内密にルパンめを移します」
「今からかね?」
怪訝そうにしながらも、カシムは所長室の壁に備え付けてある、小型金庫の方へ歩み寄る。
彼の指紋でしか開かないその金庫の中には、今ルパンのいる独房の鍵がしまわれていた。
「早い方がいいんです。ヤツらに勘付かれたら、移動させる意味がありません。内密に、早急にやってしまわなければ」
銭形は断固として云い切った。カシムは再び頷いた。
暗証番号を押し、右手の人差し指をセンサーに認識させる。軽い電子音が響くと、金庫はゆっくりと開いた。
独房の鍵を取り出し、カシムはそれを銭形に差し出した。銭形が、大振りな鍵に手を伸ばした刹那――

「所長! 騙されてはなりませんぞっ!」
部屋中がふるえるほどの勢いで、所長室のドアが激しく開かれた。
そこから現れたのは、銭形警部であった。
部屋の中に、銭形が二人。驚愕のあまり、カシム所長は目を見開き棒立ちになった。
「そいつは次元大介です!」
たった今部屋に飛び込んできた方の銭形が、指を突きつけてもう一人の「銭形」を糾弾する。
独房の鍵が、澄んだ音をたてて床に滑り落ちた。

「バレちゃ仕方ねえ」
銭形のマスクをむしり取る。素顔をさらした次元は、素早く机を乗り越えると、カシムの背後に回りこみ、彼の身を一瞬だけ盾にする。
「おっと。ヘタに動くなよ、とっつあん」
懐に手を差し入れた銭形だったが、そのままの姿勢で止まらざるを得なくなる。じりじりと横に移動しながら、次元はニヤリと笑った。
そしてカシムの体を思いきり突き飛ばす。無防備に前のめりになったカシムは、勢いよく銭形へ体当たりする格好になった。
大の男二人が、もつれあって床に転がる。

「ま、待て!」
銭形の怒声と、窓ガラスの割れる音が、交差した。
圧し掛かっていたカシムを荒っぽく脇にどけ、身を起こしてみると、所長室の大きな窓ガラスが粉々に砕けている。次元の姿はなかった。
彼が飛び降りたことにより、外ではたちまち騒ぎが巻き起こる。やがて、銃声も聞こえてくるようになった。
すぐさま自身も飛び出して、次元を追いたい衝動に駆られた。が、銭形は、床に落ちた独房の鍵に気づくと、慌ててそれを拾い上げた。
もしかしたら、次元は「囮」なのかもしれない。
とにかくここは、鍵を死守し、また独房へ到るゲートに、誰一人近づけぬことだ。そうすれば、いくらルパンであろうとも、脱出できるはずがないのだから――
そう結論を出すと、銭形は、まだ呆然としているカシムを促して、鍵を金庫に戻させた。
金庫には、独房の鍵とそのスペアキー、合わせて二つが並んでしまわれた。

「だからあれほど云ったではないですか。ルパン一味はみんな変装が出来るのです。弁護士であろうと、ワシであろうと、どんなお偉いさんであろうと疑ってか からねばならんのです! いや、むしろ何かしら権限を持った人物こそ、要注意です。いいですか、再度それを徹底させてくださいッ」
懇々と銭形に説かれているうちに、次第に悔しさが沸いてきたのだろう。カシムはぎりぎりと歯軋りしながら、頭を抱えた。
銭形だとて気持ちは同じである。
ちょうど銭形がルパン移送の根回しをしている最中であるのを見透かしたようなタイミングであったことも、いっそう銭形を不快にさせていた。良かれと思っていたルパンの移送を、まんまと脱獄に利用されるところだったのだ。
ルパンの移送は少し見合わせた方がいいのだろうか。
彼をここに置いておき防戦一方になるよりは、とも考えたが、むしろ下手に動かす方がヤツらの思う壺にはまることにもなりかねない。
だが、ルパンたちの厄介なところは、銭形がそう考えることもすでに計算されているのではないか、とさらに裏を読んでしまいたくなるところにある。
ここに残すべきか、移送するべきか、どちらを選んでも危険が伴うことには変わりないが……。銭形の悩みは深かった。

やがて、「次元大介を取り逃がした」との報告がもたらされると、さらに銭形の表情が苦々しく歪んだ。



◆ ◆ ◆




数日後のことである。
相変わらず「砂の監獄」に定期的に詰めている銭形は、窓からのぞめる単調な砂の連なりに、漠然と視線を向けていた。
ルパンの独房から見える風景は、これと殆ど同じであろうが、彼に与えられている窓は、鉄格子付の上さらに小さい。
きっと退屈しているだろう、と宿敵の心境を想像せずにはいられない。
自分自身も、この退屈をややもてあまし気味なことに、あまり自覚はなかった。
そして、ルパンを退屈させると、ロクなことにならないのだ、と半ば確信めいた物思いにふけるのであった。

銭形の予感は当たった。
一人の刑務所職員が、部屋に駆け込んでくる。かなり狼狽した様子だった。
「どうした」
わずかに腰を浮かし、銭形は訊ねた。所員はうろたえながら、ハガキ大の布きれを差し出した。
「何だ、それは」
「きょ、今日ここに届いた郵便物の中に入っていたのです」
銭形は顔色を変えた。

それは、ルパンの予告状であった。

『銭形警部殿  この国の宝、戴いてくよ。近日参上。  ルパン三世』

紛れもなく、ルパンの字で書かれたものであった。
それだけなら格別驚きはしない。この刑務所に入る前に用意していた予告状を、ルパン一味の誰かが送りつけてきたとも考えられる。また、次元あたりならば、ルパンの文字を真似て書くことが出来るという可能性もある。
ほぼ瞬時にそこまで考えはしたが、銭形の驚愕は去らなかった。
なぜなら、やはりそれは、「獄中にいるルパン本人」にしか書けない予告状だったからだ。

予告状は、この刑務所の囚人服の一部を切り取った布切れに、書かれていたからである。

カッと頭に血が上った。
銭形は予告状を手の中に握り締めたまま、独房へ飛んでいく。
途中受けねばならない、変装防止のチェックがもどかしい。だが、ルパンに近づき、独房のドアを開ける権限がある人間すべて、毎回変装のチェックを受けねばならないと決めたのは、銭形自身であるから文句は云えぬ。
独房に辿り着いた時は、ようやく……という気持ちであった。
銭形は、ドアを叩くと大声でルパンの名を呼んだ。

寝台の上で、丸くなって寝ていたルパンは、その胴間声にビクッと身をふるわせた。古びた毛布から、のろのろと、眠たげな顔を出す。
「……なんだ、とっつあんか。ビックリさせんなよぅ。もう少し寝かせてくんない? さっき眠ったばっかりで」
「黙れッ! いいか、その場で真っ直ぐ立て!」
「へ? なんで?」
「云うとおりにせんかッ!」
今にも食いつきそうな銭形の顔つきに、ルパンは苦笑いを浮かべた。
大人しく、寝台からおり、ゆっくりと立ち上がる。
覗き窓に張られた金網に張り付き、銭形は独房を覗き込んだ。

ルパンの身に着けている囚人服の裾が、ハガキ大くらいに切り取られているのが、はっきりと見て取れた。
あの予告状を書いたのは、他の誰でもなく、ルパン三世本人なのだと、その切り口が告げているようだった。

ようやく目が覚めてきたルパンは、すべて飲み込めたという顔つきで、明るく云った。
「ああ、予告状、届いたの?」
「うるせぇッ! ふ、ふざけた真似しやがって!!」
「近いうち、仕事に復帰させたもらうから、ごアイサツしてみたまでヨ」
「……っっ!」
思わず絶句してしまうほどの、大胆さと余裕。もっとも、銭形には「ふてぶてしさ」としか感じられなかったが。

――ルパンは、自由自在に独房から外へ、出入りできるのか?
銭形は、いけしゃあしゃあとしたルパンの顔を睨み据えながら、猛烈に考えをめぐらせる。

もしそうでないなら、あの「予告状」はどうやって、刑務所のポストの中に入ったというのか。
いつも二人一組で行動させている看守らの誰かが、密かにルパンの手引きをしたとも考えにくい。
やはり、ルパンはどうにかして脱獄できているのだ。
先日潜入した次元が、一度は手にしかかった独房の鍵。あの時、鍵のコピーをとられていたのだろうか。
だが、脱獄できたのなら、どうしてわざわざここに戻ってくる必要があったというのか。
さまざまな可能性が頭の中を駆け巡る。
ルパンならばどんなことでもやりかねない、ということを、銭形は骨身に沁みているだけに、考え始めるときりがない。

(もしかしたら、捕らえられ、この刑務所に入ること、そのものがルパンの計画通りだったのか)
(そして、この独房にいることが、ヤツの企みに都合がいい……だからここに居座り続けてる、のではないか!)
「とっつあん、大丈夫?」
我に返ると、ルパンはニヤニヤと不真面目そうに銭形の様子を伺っていた。
すべてお見通し、だといわんばかりの、傲慢な表情で。
その顔つきに気づくや、銭形は決断を下した。
「ルパンをここから移す! すぐに手配しろ!」
これ以上、ルパンの思い通りにはさせぬ、という意気込みと執念が、その声にはにじみ出ていた。





こうして、ルパンは「砂の監獄」の独房を出ることになった。
後ろ手に頑丈な手錠を掛けられ、屈強な警官二人に両脇を押さえられながら、ではあったが。
彼が独房から、刑務所の裏出口まで移動する間、わずかな隙もなく看守らが周囲を固め、また銭形警部が後ろから炯炯と目を光らせながら付き従った。
「大袈裟なんだから」
そうルパンは笑ったが、銭形は忌々しげに睨み返しただけであった。
護送車が到着し、門の前につけられた。砂漠を比較的楽に横断できる特別護送車である。
銭形が促すまでもなく、ルパンは自ら進んで護送車に乗り込んだ。
同時に警官二人も乗り込む。

続いて銭形が乗り込もうと、片足をあげたその時、ふいに衝撃を感じ、視界が一転した。
次の瞬間、銭形は、自分が砂の大地に顔を突っ込んでいることに気がついた。
何が起きたのか、頭の中が一時真っ白になる。わけもわからぬまま、反射的に体を起こしてみると――
護送車が、激しくエンジンを吹かして、後部ドアも締め切らぬうちに立ち去ろうとしている光景が目に飛び込んできた。
彼を突き飛ばした警官二人は、颯爽と変装マスクを脱ぎ去った。
次元と、五右エ門である。
その間に挟まれたままのルパンは、片目を瞑ってみせた。
「悪いね、とっつあん」
「お、おい! こらっ、待て貴様らぁっ!」
遮二無二追いすがろうとするが、砂のせいで足元が心もとない。護送車との距離は遠ざかるばかりである。
ようやく異変に気づいた看守らが、慌てて発砲する。が、それも虚しかった。
「追えっ! ルパンを追うんだ!!すぐに車の準備をしろっ」
声を嗄らして叫ぶ。またしても逃げられた悔しさと、屈辱に、その面は激しく燃え上がる。
だが、刑務所に詰めている時の銭形よりも、遥かに精気に満ち、いっそ若々しくさえ見えるのは皮肉なことであった。




五右エ門の一刀で、いましめを解かれたルパンは、いかにも清々したといわんばかりに、大きく腕を回したり、伸びをしたり、しばらくの間落ち着きなく身体を動かし続けた。
「あーあ、脱獄がもう少し手こずったら、完全に体ナマッちまうところだったぜ」
「お疲れサン」
次元は、ねぎらうように煙草を差し出した。
ルパンは喜んで受け取り、ゆっくりと味わう。たちまち車内が白く煙る。
そんな様子を運転席から振り返って見つめ、不二子はからかうように笑った。
「禁煙と質素な食事……あそこにいた方が、健康的に過ごせたんじゃい?」
「ヤだねぇ、不二子は。俺の健康の秘訣は、不規則でフシダラな生活なの」
そう云って、ルパンは不二子に手を出したそうな様子を見せたが、生憎、護送車の構造上、運転席との間には金網があり、それはならなかった。

「それにしてもお前ら、銭形に次々とまあ、撃退されちゃって。情けねぇぞ!」
急に表情を引き締めると、ルパンは三人を交互に見据えながらそう云うのであった。
「何だよ、俺たちが『退却』するのも作戦のうちじゃ、なかったのか?」
次元は煙草を吹かしながら、反論する。

五右エ門の一見無鉄砲な潜入と、それに続く大勢の服や武器を切り刻むという乱闘は、ルパンの強奪よりも、誰にも気づかれぬよう囚人服の一部を切り取って持ち帰ることを主目的にしていた。
続いて不二子の潜入は、爆弾による撹乱とそれに乗じた脱獄を狙ったわけではなく、ルパンの食事の中に、そっとナイフの刃先を忍ばせることが狙いであった。
五右エ門の持ち帰った囚人服の切れッ端に、ルパンの文字を真似て予告状を書き、あたかもルパン本人が自在に独房を抜け出しているかのような演出に使ったのだ。実際のところは、あの独房から一歩たりとも出てはいなかったのだが。
また、次元の潜入と、最後の駄目押しである先ほどの「予告状」によって、「独房の鍵」の真偽に疑念を抱かせることが出来たはずだ。

だがルパンは、口元を尖らせて、
「バカヤロ、ホントはどの段階で脱獄できても良かったンだよ。ご丁寧に計画の最終段階まで演じきってくれなくたってさぁ。あの刑務所の居心地、最悪なんだぜ? 寒いし、暑いし、食事はマズイし……」
「まあ、怒るなルパン。終わり良ければすべて良し、というではないか」
五右エ門の、かすかに面白がっているかのような、だがいたって静かな声が割ってはいる。大いに次元は頷いた。
「だよな。……怒ったようなフリしやがってるけど、銭形にああいう演出してみせられて、お前も結構楽しんだンじゃねえのかい、ルパン?」
ルパンはとらえ所のない笑顔を見せると、そらとぼけて煙草でいくつも輪を作った。

運転席から、不二子が声を掛ける。
「ねえ、いつ脱獄できても良かったってことは、目的のものはすぐに手に入ったってことなのね?」
「さっすが不二子。スルドイねぇ」
ルパンは、護送車の床で荒っぽく煙草を消すと、ズボンの裾から何やら取り出した。
それは囚人服の切れッ端である。ルパンが、差し入れられた刃先で自ら切り取り、予告状に使われたと見せかけていた部分である。
そこには、奇妙な図形とも、古代文字とも見える不思議な模様が、ルパンの血によって描かれていた。それを相棒たちに示し、ルパンは軽く微笑んだ。
「何のことはない、独房の天井に残されていたよ。これが、ハイダルの宝のありかさ」

そもそもルパンが、「砂の監獄」へ入ったのは、目的あってのことであった。
数十年前、ハイダルと呼ばれた大盗賊が、居た。
一時期、各国を派手に荒らしまくり、莫大な財宝を溜め込んだハイダルとその一味であったが、最終的には捕らえられ、極刑に処されたのだった。
だがハイダルの盗んだ財宝の殆どが、まだ発見されていない。どれほど口を割らせようとしても、ハイダルは隠し場所を明かすことはなかった。

一方で、ハイダルがその一生を終えた刑務所内に、財宝の隠し場所を残して死んだ、という伝説がまことしやかに伝えられてもいた。話の出所は、極刑だけはまのがれた一味の下っ端の一人だ、ともいうが、定かではない。
ルパンは、その伝説の財宝を狙って、あの独房――ハイダルその人が最後の数年を送った独房に、乗り込んだのであった。

「一見、古くて汚ねえ独房だからさ、最初のうちは単なるキズや染みなんかと区別がつかなかったンだけっども。長いこと眺めていると、ジワ〜っと見えてくる んだわ、これが。ウマイこと天井の汚さを利用して、わかる人間にだけわかるよう、地図が描かれていたってワケさ」
それを描き写してきたものが、今ルパンの手の中にある。
次元は満面の笑みを向けた。
「やったじゃねえか、ルパン」
「まだ暗号らしいのを解かなきゃならねぇが、ま、大体の場所はわかるし。どうにかなるでしょ」
得意げに、ルパンは胸をそらしてみせる。

「素敵よルパン! じゃ、さっそく財宝の隠し場所へ向かいましょう!」
明るく弾んだ不二子の声が響く。
しかしルパンは、やや尻込みしながら訴えた。
「ちょ、ちょっと待って不二子ちゃん。まずは腹ごしらえさせてよ。ここ十日ばかり、ロクなモン食ってないんだからさぁ」
「あらン……だらしないのね」
残念そうに囁いて、背後に笑みを含んだ視線を投げかける不二子だったが、ルパンは断固として云い切った。
「まずはレストランに向かって、ゴー!」
相棒二人も笑って云った。
「腹八分目にしておくが良いぞ、ルパン」
「そうそう、後には肉体労働が待ってるぜ。どうせ財宝とご対面するには、あちこち掘り返さなきゃならねえんだろうからな」

しかしその時、砂漠のかなたから、聞き慣れた、あまりに聞き慣れすぎて嫌になるほどおなじみの声が届いた。
「ルパ〜ン、待てっ!! 逃げられはせんぞっ!」
背後には、数台のパトカーの姿が陽炎の如く立ち昇る。拡声器片手に車から身を乗り出す銭形の姿だけが、奇妙に鮮やかに映えた。
「うわぁ、相変わらずしつこいお方だこと。よっくまあ追いついたなぁ!」
「執念だろ、執念」
感心するよりも、あきれ果てたようにルパンと次元は肩をすくめた。
五右エ門が、やや同情するように呟いた。
「食事は、まだしばらく先になりそうだな」
「うう〜、腹へったぁ!」
銭形の怒声に負けじと、ルパンの叫びも砂漠に響き渡るかと思われた。

コトの発端は、in vivo/in vitroの ふなこさんの激素敵イラストを拝見したことでした(^^)。獄中で静かに微笑むルパンのイラスト(惚)!そしてその絵につけられた「予告」のルパンチック な内容に私の妄想力はものすごい勢いで燃え盛ってしまいました(笑)。また銭形に変装した「次元警部」のトップ絵まで拝見し、さらに妄想がノンストップ状 態に…。
ふなこさんの「お話聞かせて」という優しいお言葉に甘え、ついついこんな長ったらしい妄想をまとめてしまいました。
ここで改めて、イラスト・予告編の内容を元にしたお話を、私などに書かせてくださったふなこさんに、心から御礼申し上げたいと思います。本当にありがとうございました!
内容に関しては、出来る限りふなこさんの描かれたイラストと、予告内容に合ったものにしたい、またテレビシリーズっぽい「ルパン」にしたい、という思いで突っ走って書きました。完成できたのは、やはりふなこさんの素敵すぎるイラストあってのこと。
ですがトリックに関しては、やや物足りない部分があると思います。それは私の不徳の致すところ(笑)であります。ごめんなさい;
どうも私は、物理トリックの考案が苦手のようでして。(だからといって心理トリックがちゃんと思いつくってわけでもないんですけど)
テレビシリーズの「ルパン」には物理トリックも多いので、その辺が面白く書けるようになれたらいいのに、と強く思い、かつ反省しているところであります。

(04.5.11完成)

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