シャドウ (7)

小揺るぎもしないルパンの銃口を前に、シャドウは平然と佇んでいた。
ルパンは用心深く、一歩彼に近づこうとした。
その途端、目の前に大きな人影が覆いかぶさってくるかのように現れた。
「そこまでだ! 大人しくお縄についてもらおうか、ルパン!」
「あらま、とっつあん! どこから湧いたの?」
「人を虫みたいに云うな、バカモノ」
銭形は、紫ダイヤを載せている台の中に潜んでいたのだった。ダイヤひとつ乗せておくには大きすぎるほど豪華な台座は、中が空洞になっており、大柄な銭形でも必死に身を折れば隠れていられることを、自ら証明して見せた。

ルパンとシャドウの間に仁王立ちになり、銭形は慣れた手つきで手錠を取り出す。
「無駄な殺し合いなんぞさせん。お前はこの俺が逮捕するんだ」
大きな目でルパンを睨み、続いて背後のシャドウにも鋭く云った。
「おい殺し屋、ちょっとでも動いたら容赦しねえぞ。俺は本気だ。……ルパンに手錠をかけたら、お前も署に同行してもらうからな」
「とっつあん、カッコイイ〜」
「ふざけるな! 今日という今日は貴様のペースには乗せられんぞ」
こんな場合にも悪ふざけする事だけは忘れないルパンを、銭形は一喝した。そして重々しく命じる。
「まずは銃を下ろせ」

シャドウとの間には完全に銭形が立ちふさがってしまっている。仕方なく、ルパンはワルサーをしまった。それでもなお、近づいてくる銭形と、その背後に隠さ れたような格好になったシャドウを警戒し、全身の力を緩めない。頭だけしか見えないが、まだルパンの姿をとったまま、シャドウは何の動きも示さなかった。
だが、次の瞬間、ルパンは我が目を疑った。
「ありゃっ?」
まばたきもせずに見据えていたはずのシャドウの姿が、一瞬にして消えてしまったのだ。
「何が『ありゃ』だ、その手には乗らんと云っとるだろうが」
素っ気なく銭形が云う。だがルパンは何度も首を振った。
「いや、ひっかけようってんじゃないのよ。シャドウが消えちまったの、パッと煙みてえに」
「バカ云うな、手品じゃあるまいし」
「手品……」
ルパンがそう呟いて、考え込む様子を見せた時だった。

ずず…ん、と低く地響きがした。
ルパンと銭形は思わず顔を見合わせる。
「何の音?」
「昨日エレベーターがぶっ壊れたせいで、塔がぐらついてるのかもしれんな」
再び、巨大な石がこすりあわさせるような音が聞こえてくる。今度は、部屋も揺れたようだった。
ルパンはキョロキョロと辺りを見回した。
「わ、わ、なんかイヤ〜な音だな」
「気にするな。さっさと捕まれば、安全な監獄に入れてやるから」
振り下ろされた銭形の手錠を、ルパンは上の空で避けた。
「この期に及んで逃げるんじゃねえ!」
「あ、ついクセで」
「じっとしていろ!」
今度こそとばかりにルパンの腕を取り、銭形は喜びを滲ませて手錠を掛けようとした。
しかし、激しい揺れと軋むような轟音は、もはや無視できないまでに高まり、二人はもつれるように床に転がった。

「とっつあん、壁、壁! 動いちゃってるよ」
「何ぃ!?」
ルパンの云う通りだった。
宝物室の左右の壁が動き出し、じわじわと狭まって来ているのだった。
「なるほど、こういう仕掛けが隠してあったから、妙に部屋が狭かったんだな」
「納得している場合か! このままじゃ俺たちぺちゃんこだぞ」
すでに螺旋階段へ通じる空間には、壁がせり出し、降り口を隠してしまっている。
ごおんという音が鳴り響くたびに、両の壁は勢いを増して接近してくる。室内の四隅にあった監視カメラが叩き落され、あっさりと壊れた。
銭形は慌てて壁に飛びついて足を踏ん張り、力いっぱい押し返した。が、すぐにずるずると後退する。
「手伝え、ルパン!」
「無理だよ、とっつあん。男二人が力を合わせたくらいじゃ、この壁は止まンないよ」
「諦めるつもりか!?」
叫ぶ銭形から視線をそらし、ルパンは天井を見上げた。
紫ダイヤの宝石台の真上にある火災探知機が、実は隠しカメラであることに、ルパンは気づいていた。そしてそのカメラに向かって呼びかけた。

「そうだろう、シャドウ。いや、ルーファスと呼んだ方がいいのかな?」
反応はない。だがルパンは構わず続けた。
「警備室から、見てるだけじゃなく話も聞いてるんだろう? ……俺に化けここに現れ、消えてみせた手品のタネは、さしずめホログラム映像ってトコロかね。とっておきの切り札をギリギリまで見破られないよう、お前自身もこの場にいると見せかけたかったワケだ」
ルパンはどんどん接近してくる壁に向かって顎をしゃくってみせた。
クククク、と咽喉の奥を鳴らす笑い方が聞こえてきた。
「よくわかったね。さすがだよ、ルパン。ホログラムのことだけでなく、僕の正体まで」
「ちゃーんと隠し持ってきたはずのワイヤーロープ、俺のベルトから掏るチャンスと腕があったのはお前くらいだろう。エレベーターを落下させる事が出来たの も、やはりお前しかいないしな。何より、赤外線レーダーが壊れるタイミングが良すぎたよ。隙を作って俺をおびき寄せようとしたんだろ?」
シャドウことルーファスは、淡々と答えた。
「エレベーターのワイヤーの切り方は若干浅すぎたね。僕らしくないミスだったよ。尤も、あの時父や刑事が塔に入ってきた事も、あんたが箱の外に出てしまったのも計算外だ。とことん、悪運が強いみたいだね」
「俺は特別なもんでね」
ルパンは昂然と胸を張った。またしてもルーファスの忍び笑いが聞こえてくる。
「ああ、本当に殺すのが勿体ないよ。あんたとは本当に気が合いそうだ」
「ぜ〜んぜん、そう思わないね、俺は!」
そんな反論には耳を貸さずに、ルーファスは喋り続けた。
「あんたを殺るとしても、もっと先にするつもりだったのに、よりによって父から依頼が入るんだから驚いたよ。もっとも、あのヒトはシャドウの正体なんか知 らないけどね。でも依頼を受けたからには、生かして帰さない。あんたが狙った獲物は逃さないのと一緒だよ、ルパン」

壁はじりじりと動き続ける。ルパンと銭形が立っていられる空間は、徐々に狭くなっていった。
なぎ倒された甲冑はギシギシと音を立てて原形をとどめぬほどひしゃげ、名画は無残に破れ、床に散ったガラスや宝飾品はすりつぶされるように砕かれていく。
そんな中、ルーファスの声が少しだけ高まった。
「この壁が止まる方法がひとつあるんだけど、教えてあげようか」
「別に聞きたかないけど、お前喋りたいんだろ?」
「素直に聞いとけ、ルパン!」
銭形が割って入った。ルパンはふてくされた顔で銭形をちらりと睨む。
ルーファスは含み笑いをしつつ、云った。
「紫ダイヤを、台の上に戻すんだ。そして、二度とこのダイヤを狙わないと誓え」
「あら〜、家宝を守るんだ。パパ思いの孝行息子なのねぇ」
ルパンの軽口が、ルーファスの癇に障ったようだった。愉快そうに喋る時でもどこか棒読みのような、妙に平坦な口調だったのに、生々しいほどの苛立ちがその声には含まれていた。
「父なんか関係ない!」
だがそれも一瞬のことで、再び非人間的な淡々とした調子に戻った。
「あんたが獲物を諦めるところが見てみたいんだよ、ルパン。どうする? この世に盗めないものはなかったという世界一の大泥棒のプライドを胸に死ぬか、一旦は手にした獲物を、あんたが大嫌いな殺し屋風情に諦めさせられたという屈辱と共に生き延びるか」

壁を押し返そうと必死の努力を続け、汗まみれになり奮闘していた銭形が叫んだ。
「ルパン、云われた通りさっさとダイヤを戻せ!」
「とっつあんは引っ込んでろ!」
ルパンは鞭のように鋭く怒鳴り返した。そして、不意にニヤリと笑う。
「アジな真似してくれンじゃないの、ルーファスさんよ」
「さあルパン、僕を失望させないで……」
彼が望んでいるのはどちらなのか。だがその声には、先ほど苛立ちを表したときよりも、さらに感情がこめられていた。まるで子供が祈っているかのような、不思議に切実な声だった。
もはや壁は、のっぴきならないところまで迫ってきていた。部屋の中央に紫ダイヤの台を残し、あとはその脇にルパンと銭形が立っている幅しか残されていない。
だがルパンはルーファスに言葉で答えようとはしなかった。
ワルサーを握り締めると、天井の隠しカメラを撃ち砕いた。


「なんてことだ。肝心の場面が見られないなんて」
警備室の中でルーファスは、唇をかみ締めた。宝物室を映すモニターは、すべて砂嵐に覆われてしまっていた。だが気を取り直して独りごちる。
「まあいい、すぐにわかるだろう」
壁の仕掛けは自動操作に設定してある。ルパンに云った通り、ダイヤを台に戻せば壁は動きを止めるし、戻さなければ壁と壁がぶつかるまで動き続けるだけだ。
「さあて、ルパンはどちらを選んだかな」
頬杖をついて、ルーファスは時間が過ぎるのを待った。


カメラを撃ち壊すと同時に、ルパンは腕時計型の無線機にむかって囁いた。
「いまだ、頼むぞ」
すると、怒涛のように迫り来る轟音の中を、一筋の鋭く澄んだ音が響き渡った。
目の前の床に、ちょうど人ひとりが通れるくらいの丸い穴がぽかりと開く。
ルパンは素早く穴に滑り込むと、「とっつあんも早く!」と云い残して姿を消した。銭形も慌てて後を追う。
ちょうど一階層分、落ちる羽目になった。身構えていたルパンは楽々と着地したようだったが、銭形はわけもわからず飛び降りたため、足を滑らせ尻を打ち付けてしまった。
穴は、宝物室の真下の部屋から開けられたものだったのだ。この部屋には、使っていない古びた家具や、ダンボールが無造作に置かれている。天井に空いた穴だけが異様だった。
すでに斬鉄剣を鞘に収め、何事もなかったような顔をしているが、それが五右ェ門の一太刀であったことは銭形にもすぐにわかった。丸く切り取られた鮮やかな切り口には、ごくわずかな歪みはおろか、細かいひび割れひとつ見当たらない。

「なかなか合図しねえから、ちいっとばかし心配したぜ」
それでも煙草を吹かす余裕を見せながら、次元は笑いかけた。ルパンは軽く手を上げて受けた。
「悪りぃ、悪りぃ。シャドウちゃんがあんまり愉快なコトしてくれるもんだから」
「そういや、ルパン、ダイヤはどうした! いや、そんなことより、逮捕だ逮捕」
あまりの目まぐるしさに翻弄され、強打した尻をさすっていた銭形だったが、途端に我に返ると、手錠を振りかざした。
ルパンは、やれやれと首を振り、
「とっつあん、今日はもう疲れっちゃったでショ。あんな狭〜いにずっと閉じこもってるわ、重た〜い壁と格闘するわで。もうとっくに真夜中過ぎてるし、そろそろオネンネしたらどう?」
「何がオネンネだ」
ルパンに掴みかかろうとする銭形を、背後に回った次元が銃のグリップを向け、絶妙な力加減で殴り倒した。銭形の身体が、ゆっくりと床に沈んだ。
「とっつあん、すまねえ」
あまり済まないとも思ってなさそうな口調で云い、次元は銃を腰に戻した。
「で、ルパン、首尾の方は?」
五右ェ門が尋ね、次元も大いに興味ありげな顔を向けてくる。
ルパンはただウィンクしてみせ、
「その前に……この天井、元通りはめ直すの手伝ってチョウダイ」
と、二人をもう一仕事に駆り出すのだった。


もうそろそろケリがついた頃だと、ルーファスは静かに立ち上がった。
通り名の如くまるで本物の影のように、音もなく本館の廊下を駆け抜け、塔へと忍び込んでいく。
見張りに立っていた警官は、ローゼンタールの息子を特別警戒することなく、正規な手続きをふんで塔へ入っていくにまかせた。
むしろ、先ほどから聞こえていた轟音や塔の揺れを気にしていたのだが、決して持ち場を離れるなという銭形の命令を遵守して、律儀にその場に立っているのだった。
ルーファスは飛ぶように螺旋階段を駆け上がる。そして、最上階まで来ると、入口が壁にふさがれているのを見た。
ダイヤを台に戻しても、その瞬間の位置で壁が止まるだけで、自動的に壁が引っ込むわけではない。だからまだ、ルパンがどちらを選んだのかはわからない。
逸る気持ちを抑え、ルーファスは屈みこんで隠しボタンを探り当てた。これが、壁の仕掛けを初期段階に戻すのだ。

壁が今度は逆向きに動き出し、次第に部屋の中が見えてくる。ルーファスは求めるものを探して、素早く入っていった。
嵐が吹き荒れたように、部屋の中はめちゃくちゃに破壊されていた。だが、その部屋には、唯一壊れていないものが残されていた。
紫ダイヤを載せた宝石台である。
ガラスケースははずされたままだったが、中には輝く石が納まっている。
しばしルーファスは、それを無言で見つめ続けていた。
一見、常日頃と同様その白皙にはいかなる感情の細波も立っていないようだったが、相当の慧眼の持ち主がそのときの彼を見ていたら、相反する感情に内面を激しく揺すぶられていることがわかったかもしれない。
だが、それもごく僅かな間のことだった。
すぐにルーファスは、いつもの彼に戻り、抑揚のない声で呟いた。
「そう。ルパンも人の子だね。いいさ、僕がこの手で殺る楽しみが増えたんだから」
まだ近くにいるはずだ。殺人予告の最終日は、まだ始まったばかりなのだ。

そう考えて、ジャケットの内側から拳銃を取り出したその時。部屋がどうと揺れははじめ、ルーファスは慌ててバランスをとった。
「な……」
壁が動き始めていた。
ごごご…という唸るような音が徐々に高まってゆく。両側の壁はじりじりとせり出し、ルーファスに迫り寄った。
台座に目をやるも、そこには相変わらず宝石がのっている。台の上に宝石がある限り、壁が動くはずはない。この仕組みを作ったのは、彼自身なのである。以前塔を改修する際、父に内緒で戯れに組み込んだものだった。
それを、彼が以前から異様に執着してやまないルパンに使うことになったのも、ルーファスに何やら運命めいたものを感じさせていたところだった。
そのルパンに対して失敗は許されない。だからこそ、つい先ほどシステムの確認したばかりだし、間違いが起こるはずなどない。
一体どういうことなのか。ルーファスは驚愕に目を見開いていた。
ふと、紫ダイヤがわずかずつだが、徐々に小さくなっている事に気づく。
「まさか……!」
「そのまさかよ」
「ルパン!」
ルパンの声は、台座の脇の床に転がっている小さなマイクから聞こえてきていた。彼が置いていったものだろう。
ルーファスはそれに向かって呟いた。
「本物そっくりの紫ダイヤとすり替えて、壁を止めたんだね……その隙に」
「そう、その隙に逃げたの。脱出経路の確保は泥棒のイロハだかンね。お察しの通り、台に戻したのは贋物さ。ちょっとしたイタズラに使おうと用意してたんだ けっども、とんだところで役に立ってくれた……色合いも形も重さもまるきり同じだが、揮発性の特殊な物質を固めて作ったシロモノよ。おわかり?」
わずかな空気に触れているだけでも、紫ダイヤに見えていたそれは、徐々に気体と化してゆく。
台座が感知する重量が一定まで減った時、壁の仕掛けが作動しはじめたのだった。

もはや勢いを増した両の壁は止める術もなく、ひたすらぶつかる時を待つばかりだ。
「ふふふ、やっぱりあんたは凄いよ、ルパン。どんな場合も抜かりなしか。それでこそもう一人の僕だ」
だらりと腕を下げてルーファスは云った。無機質に整ったその面に、うっすらと満足げな笑みが漂っていた。
「あばよ、シャドウ」
もはや何も云い返さず、ルパンはぶつりと通信を切った。
ルーファスは迫り来る壁を通して、何か別のものを見ているかのように、遠い目をしたまま、立ち尽くしていた――





昼をゆうに過ぎても、ルパンはまだベッドの中でまどろんでいた。さすがの彼にも気だるさが残っており、とにかくだらだらとしていたい気分だったのだ。幸い、今日は次元が起こしに来ることもない。
しかし、華やかな笑い声が耳に届いてくると、とたんにパッと目を見開き、身を起こした。手早く身づくろいして、バタバタと部屋を飛び出していく。
広々としたリビングには、不二子と、相棒二人がくつろいでいた。
「不二子ちゃ〜ん、来てたの」
「ルパン、ずいぶんゆっくりのお目覚めね。でも仕方ないわよね、ここのところ大変だったんですって? お疲れ様」
「あらあら、どったの、不二子ちゃんたら妙に優しいんだわァ」
途端にルパンはやに下がる。それまで不二子は、次元や五右ェ門と楽しげに会話していたようだったが、ルパンは気にも留めず割り込んでいき、彼女の隣に身体をぴたりと寄せて座った。そしてわざと甘えるように云う。
「ホントにいろいろ大変だったんだぜぇ、不二子」
次元が口を挟んだ。
「あーあー本当に帰りは大変だったよな。お前さんが作ったジェットエンジンとやらを背負って空を飛ぶのは、もうこりごりだぜ」
「次元は黙ってらっしゃい」
ルパンがしかめ面してみせたが、次元は非常に機嫌が良さそうにバーボンを傾けている。
それは五右ェ門も同様で、いつもより微妙に楽しげな様子で、斬鉄剣の手入れをしている。
不二子にいたっては、艶やかな美貌をいっそう輝かせ、とろけるような微笑みを向けてくる。

ルパンは怪訝な面持ちになって、三人を見回した。
「ど、どうしたんだよ、みんな妙〜に機嫌良くない?」
「あなたのおかげなのよ、ル・パ・ン」
次元と五右ェ門が止めるまもなく、不二子が素直に口を開いた。
「俺のおかげ?」
「そ。あなたとシャドウの対決が賭けの対象になってたのは知ってたでしょ。わたしたち、あなたに賭けて儲けさせてもらったの。もちろん、あなたの方がオッ ズは低かったけど、わたし、手元にあったお金のありったけをつぎ込んじゃったから、相当な金額になったのよ」
「……」

ルパンは無言のまま不二子を見、次元に、そして五右ェ門にと順に視線を移していった。そのまなざしは、やけに冷たく威圧感に満ちていた。
あっけらかんとしている不二子とは対照的に、さすがに相棒たちの方は多少の気まずさを滲ませた。
「いや、俺たちは別に賭けようなんて全然考えてなかったんだけどよ」
「さよう。不二子殿があまりに熱心に勧めるものだから……」
「あら、わたしのせいにするつもり?」
あやうく云い争いが始まりそうになったのを、ルパンの低い声がさえぎった。
「お前らなぁ……」
うつむいたその姿は、怒りに震えているようにも、ひどく気落ちしているようにも見える。そのまま彼は、身動きひとつしなくなってしまった。
さすがに不二子もまずいと感じたらしい。三人は慌てて立ち上がり、視線だけで云い争って、ルパンをどうなだめるかで揉め始める。そろって焦り、真剣な面持ちになっていた。

だがしばらくして、ルパンが顔を上げると、そこにはしてやったりの笑みがあった。動揺していた三人の様子を見て、ケラケラと笑う。
それに気づくと、慌てふためき、あるいは罪悪感を感じていた彼らは、急に肩の力が抜ける思いを味わった。
「ルパン……」
「よくも俺をダシに賭けなんかして儲けやがったな。今日はテッテーテキに遊ぶぞ、飲むぞ! しかもぜ〜んぶお前らの奢り。わかったな」
ルパンが意気揚々と叫ぶと、三人の顔にも自然と笑みがこぼれ、大きく頷くのであった。

サイト開設7周年を記念して、小説の7回連載をやろうと言う事は、一年も前から考えていました。せっかく7日にわけて更新するのだから、「ルパンたちの1週間」として、1回分のUPが1日の出来事に相当するようにと構想。
だけど、漠然とルパンたちの日常を1週間分追ってもつまらないので、というか、自分にはそれを面白く書く器量がないので、対決モノにしました(こっちも難しいんですが;)。それを決めたのは、今年に入ってから。
でも対決する敵役像がなかなか浮かばず、しかも体調崩して入院することになっていたので、企画倒れで終わるかなぁと思ってたんですが、入院中にお見舞いに 来てくださった某お二方とお話できたことでルパン熱・妄想熱が燃えまくり(感謝!!)、ルパンと対決する人物像が思い浮かびまして。そうすると後はトント ンとストーリーが決まっていきました。
このシャドウという人物、ルパンを知って勝手に執着して、やり口を真似た殺し屋。作中では説明過多になりすぎないよう、彼の生い立ちや気持ちはなるべく少なめに書いたつもりなのですけど……その辺のさじ加減が一番難しかったです。
ここで補足するなら、彼はある意味非常に歪んだルパンマニアでして、きっとルパン関連の記事は漏らさず集め、ルパンの本とかもたくさん読んでいて(新ル 152話で次元研究本が登場しているので、ルパン研究本もきっとありますよね。笑)、真似るための努力もしていたのではないかと思われます。良かれ悪しか れやけに人を惹きつけてしまうという、ルパンのカリスマ性が悪い方へ出たパターンということで。
それと。銭形とノイマンのあからさまな対立シーンも、実はあったんですが、ルパンVSシャドウがぼやけるかな、と泣く泣く削除。銭形警部、出番減らしてごめんなさい(笑)
次元と五右ェ門は今回サポートに回ったので、調査役が多かったですね。次元・五右ェ門両探偵の活躍は各自想像してくださいまし^^

何はともあれ、一週間の連載にお付き合いくださってありがとうございました!「待ち遠しい」とメッセージ頂いたことが、本当に励みになりました。もちろんまとめて読んでくださった方にも熱い感謝を捧げますv

(08.4.17完成)

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送