カリオストロの城


宮崎ルパン

「カリオストロの城」はいわずとしれた不朽の名作アニメであり、今更作品解説でもないかな、という気がする。
だから手短に個人的所感のみ書いていこうと思う。

「カリオストロの城」(以後カリ城)は、最も多くの人に認知されている「ルパン」であろうし、作品完成度も高い。
私も「アニメーション」としてのカリ城にはどこにも文句の付け所がない作品だと思っているし、好きでもある。
ものすごく好きで、ルパンの中では「マモー編」と同じくらい何度も見ている作品だ。
そうなんだけれども、単純に好きとだけ言い切れない、相反する複雑な思いを抱いている作品でもある。

どうもルパンがあまりルパンらしくない気がしていたのだ、特に子供の頃ほど。……いや、私がそう感じるのは、単に私個人が好むルパン像と離れているからなのだろう。

「宮崎ルパン」は、非常に「庶民的」「大衆的」だ。(庶民だの大衆だのという言葉好きではないけれど、これ以外表現しようがない)
明るく、正義感が強く、あくまで優しいルパン。
ルパンの魅力は、ありきたりのヒーロー然としていないところにあると思っていたかつての私には、どうもしっくりこなかった。
ルパンは超絶的なヒーローでいい。
IQ300の天才的悪党。徹底した女好き。世界中にアジトを持ち、当然金持ち。コミカルな面も大いに持ちつつ、時には非情な面も見せつける。
庶民のヒーローである必要などない。一般受け、共感などしなくてもいい。むしろ、そんなところからかけ離れているからこそ魅力的なルパン。
そんなルパンが私個人としては好きだ。「マモー編」で「神か白痴の意識に他ならない」とマモーを驚愕させた程の特別な存在が好ましい。
昔は特に、そういう気持ちが強かった。
だからどうしても、クラリスに「おじさまはここにいますよ〜」と言う、ある意味枯れているルパンを見ると、かすかに胸の奥にしっくりこないものを感じてしまっていたのだ。
(今も、ラストでクラリスを抱き寄せたくて、露骨にわかりやすく葛藤しているシーンだけは、なんだかなぁと思う。笑)

もちろん見ている最中は「おもしろい」「かわいい」と楽しく見てしまうし、そこはさすが宮崎氏だとは思う。
常人離れした活躍っぷり、幾重にもなされた周到な準備、したたかさと強さ…そうしたものを痛快に、明瞭に見せてくれるので、非常に魅力的なルパンであることは間違いない。
紳士的な態度も、大恩ある少女、お姫様であるクラリスに合わせたものであると考えれば、それすらもルパンの魅力を強めてくれるわけで。
このルパン像が「私にとっては」一番の好みではないにしても、確かに素敵ではある(笑)

次元はルパンのいいパートナーを務めていてくれて、その辺の呼吸は非ッッ常に好き。
昔は、渋さが足りないなぁという気がしていたのだが、特に最近、「カリ城」の次元の楽しそうな様子がツボにハマってきている。
王冠かぶって帰っちゃったり、「お姫さん」という言い方がいかにもだなと微笑ましいし、とにかくすべてを楽しんでいる様子が良いなぁと、思うようになった。


一方、カリ城の不二子と銭形警部は昔からすごく素敵だと思う。実は、カリ城ではこの二人が一番好きだ。
私は、不二子はルパンにおねだりばかりしている無能なお色気女ではない、と思っているので、ああやって独自に目的をもって動いている強い不二子が見られるとすごく嬉しい。
ルパンとの恋愛関係が終わっている口ぶりなのは寂しいが、それでも彼と深いつながりを感じさせるツーカーっぷりがさり気なく見られることに、遅ればせながら気づき、そこも非常に好ましい。
自分の目的(原版入手)を叶えるためという意味合いが含まれていようとも、クライマックスに向けて、ルパン・銭形へ潜入のチャンスがあることを知らせ、彼 らのやりたい事を存分にさせてあげるお膳立てをする辺り、「なんていい女!!」と思わずにいられない。ホント、カッコイイよ〜v

そして、何より銭形警部がいい!
警察官としての正義感。部下にも慕われるような統率力、判断力を持つ銭形警部。ちょっとユーモラスで、でも渋い。
そんなものを感じさせる銭形警部を、最近目に出来ないだけに(笑)、貴重だ。やはりとっつあんも魅力的だなーとつくづく思う。
もともとルパンがライバルと認めるような男なのだから、銭形警部が無能なはずはないのだ。


五右エ門に関しては、以前あまり感想がなかったのだけど……(五右エ門の出番は少ないからだろう。笑)
でも、カリ城の五右エ門の扱いは悪くないと思う。
もともと寡黙なのだから、台詞も少なくて当然かもしれない。
クラリスを「可憐だ」と言って赤くなるところはご愛嬌。純情で、清楚な女性好みの五右エ門らしい反応で良い。
もしも本当にクラリスを好きになるとしたら、ルパンではなく五右エ門だろうなという気がする。←勝手な想像
何より、ルパンと次元に呼ばれたら、修行だ何だとゴチャゴチャ言わずにやって来て、何の縁もないクラリスのために(そしてルパンのために)、一肌脱ぐ五右ェ門は、とても男前だと思う。

(※ この項、2006年秋、一部修正・追記)


クラリス

クラリスは本当に良く出来たキャラクターだと思う。

私は本来、いかにもお姫様っぽいキャラクターは嫌いである(←性格バレる^^;)。
特に外国人の書いたファンタジーなどのお姫様は、「役立たずもいいかげんにしたらどうだ!」とか「自力でどうにかしようっていう気力はないのか」等、説教したくなるタイプが多い(笑)
私は、ただひたすら運命や悪人に翻弄されて泣き崩れ、ヒーローが現われるまでメソメソイジイジと耐え、しかも逃げ出すときには必ずヒーローの足手まといになるようなキャラクター…それがお姫様だと思っていたのだ。

が、クラリスは全然違う。
だから私としては珍しく、守ってあげたい女の子タイプなのに、クラリスはとても好きだ。少なくとも私が大人になってからは。
(昔は、あまりにも清純で可憐で…理想的すぎる少女であることに違和感があり、「女の子ってもっと生々しいのになぁ」と思っていたこともあったけど・笑)

そもそも、花嫁衣裳の仮縫いの隙をついて、自分で脱出してくるところが最高にいい。
ずっと諦めずにいつかきっと逃げ出してやろうと、辛抱強く機会を狙っていたのだろう。
車の運転もその日の為にこっそり練習していたのかもしれない。
その行動力、忍耐力が最高だ。
結局ルパンが助けたにもかかわらず捕まってしまうが、とにかく一人でも何とかしてやろうという姿勢が素晴らしい。

そういう目で見ていくと、ルパンとともに結婚式場から時計塔へと逃げ続けるシーンでは、クラリスが結構頑張っていることに気づく。
兵士がルパンに向けて発砲した時は、いつもルパンをかばうようにして弾を避けさせているし、抱きかかえられている時もぼんやりルパンにしがみついているわけではなく、柱(?)に懸命に手を伸ばし少しでもルパンの役に立とうとしている。
そしてクライマックスで、ルパンを助けるために伯爵もろとも塔から落ちようとする、その勇気!
こんなすごいお姫様を嫌いになれるわけはない。
本当に育ちがよくて優しくて、しかも芯が強く勇気もある。最高のお姫様である。

こんなクラリスだからこそ、ルパンがナイトにしかなれなかったのも、納得してしまうところがある。
心の中の聖域にも似た、遠い思い出の中の恩人であったクラリス。
立派に、そして魅力的に成長した、その彼女の危機。放っておくことはできないだろう。
あんな「いい人」で「礼儀正しいナイト役に徹している」ルパンなんて??と、かつての自分の好みと照らし合わせたときはこっそり思っていたが、あのクラリスが相手ならば仕方ないか…と納得してしまうのだ。


ゴート族

カリオストロ公国の摂政であり、暗殺等公国の闇の部分を司ってきた伯爵。
残忍で欲深の権力者……いかにも典型的な悪役である。
女好きだというわりに、城内に不二子以外の女がいない、というのはちょっと不思議。そういうことは城内に持ち込まない主義なのだろうか(笑)。
ルパンに「ロリコン伯爵」といわれているが、それはあまり当たってないような気がする。
クラリスの指輪には異様な執着心を見せるが、クラリス自身にはそれほど関心がないように思える。
薬で眠っているクラリスに関心を向けるよりもまず指輪を確認しているし、ルパンが怪我をして脱出した際クラリスの指から指輪をむしり取った後、彼女を床に叩きつけるなど手荒な真似をしているからだ。
結婚するのだって、正式にカリオストロ公国を支配するための便宜だろう。

典型的な悪役は、それに相応しい最期を遂げる。ご承知のとおり時計の針に挟まってつぶれて死んでしまう。
このシーン、子供の時は結構こわかった覚えがある。

ところで、大公家と伯爵家・二つのカリオストロ家は、古いゴートの血を引いているという。(架空のゴート族なのかもしれないけれど)
昔、最初にカリ城を見た時は、特に印象にも残らなかったことだが、改めて見直してみて、ゴートの血を引いているという設定はなかなかよく出来ているものだと感心した。

ゴート族とは、ゲルマン民族の一氏族であり、もともとはバルト海に浮かぶゴトランド島に住んでいたとされる。
ゲルマン民族の大移動でドナウ川を渡り西進。ヨーロッパを縦断して南下する途中で西ゴート族と東ゴート族に分かれる。
ゴート族は最初にローマ帝国を略奪したゲルマン民族であり、ローマ帝国の滅亡に一役買った一族なのである。
東西それぞれのゴート族はガリア南西部とイベリア半島や、イタリア半島で王国を築いていた時期もある。
が、東ゴート王国は6世紀後半に、西ゴート王国は715年にそれぞれ滅亡する。

と、まあここまでが歴史のお話。
(余談:私は一応大学は史学科を出ているのだが、いざゴート族について書こうとして、あまりにも記憶が薄れていたので、本当に焦った。うーむ。専門はイギリス史だと言い訳しておこう(笑)。上の解説の適当さは目をつぶってください)
で、何がよく出来た設定だと感心したかと言うと……
歴史上のゴート族は、ローマ帝国の滅亡に深くかかわっている一方で、定住した後は非常にローマ文化に憧れた一族なのだ。
ゲルマン民族の中にはそういったものを理解せず破壊し続ける一族もいる中、ゴート族はローマの文化を取り込むことに熱心で、ローマ文化を守ろうと心を砕いていた。
ローマが滅んだ後も、ヨーロッパにローマ文化が残ったのはゴート族のおかげでもあると言われている。
カリオストロ家の先祖が、ローマの遺跡を湖の底に沈めて守りつづけていたという設定も、こうしたゴート族の(歴史上のゴーと族とイコールでなくても、その名と同じ一族)の血を引いているのなら、よりリアリティがあるのだ。
カリ城が、本当に考え抜かれた物語なのだと、再認識した次第。


とにかくカリ城には、無駄なシーンが全くない。
最初のカリオストロ公国の風景のシーンも、最後の「宝」が現われる壮大な舞台設定だ。
ルパンがクラリスの北の塔へ辿り着くまでの時間は案外長く、ヘタな脚本家や演出家が作っていたらちょっと飽きてしまうくらいなのだが、辿りつくまでの過程がものすごくおもしろく、アニメならではの躍動感溢れた動きで、本当に「魅せて」くれる。

小道具や乗り物の使い方、ちょっとした台詞、設定、風景、登場人物……どれをとっても無駄なものはなく、それぞれとても印象的なのだ。

やはりカリ城がアニメ作品として、傑作中の傑作であることに間違いはない。
これからも、繰り返し繰り返しカリ城を見てしまうだろうと思う。


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