人間関係考察対不二子編)


五右エ門と不二子の因縁も浅からぬものがあるように思える。
ルパンという人物を軸に、かつては裏切られ、やがて共に仕事をする仲間になったりする……
五右エ門と不二子の場合は、その関係を時系列的に見ていくのがわかりやすいと思い、以下なるべくそのようにしてみたい。






「峰不二子ちゃん、つまり、それがしのがーるふれんどで」

(旧ル5話「十三代五ヱ門登場」より)



初々しい、とても微笑ましい言葉である。また考えようによっては、少し痛ましいような気もする。
登場当初、五右エ門は不二子のことを「がーるふれんど」だと思っていたのだ。
彼女のことを「清楚で可憐」だと信じ、彼女の語る「ルパンの非道」を信じ、百地に命じられていたルパン抹殺の意思を、よりいっそう強固なものにしたのだろう。

旧ルの時の五右エ門は、女の裸で動揺するといった過剰なまでに女が苦手(というか、女に免疫のなさそうな純情さ)という描写は見当たらないが、それでも武芸や殺法に明け暮れて、ストイックな生活をしていたと思しい彼は、それほど多彩な恋愛経験を経てきたとも思えない。
不二子をガールフレンドだと信じていた時、百地にそのことを突かれると「まだ一度も指先すら触れ合わない」清い仲だということを、大真面目に弁解していることからも、百地は弟子・五右エ門に堅物な生活を強いていたのでは。(女にうつつを抜かすから…と、百地は火傷を負った五右エ門を咎めているし)
もちろん、五右エ門の元々の気質や根本的な考え方が、ストイックであることを尊ぶものであるだろう。

そんな彼が、一度は不二子に心を寄せた。
清らかな女性だと信じ、そんな彼女を困らせる「触り魔」ルパンを憎む。
不二子を「ちゃん」づけで呼んでいたこと一つをとっても、不二子と付き合ってる(と信じていた)時、彼の気持ちが、普段より浮き立っていたのでは、なんて妄想してしまうほどの可愛らしい面を覗かせていた。
……考えれば考えるほど不二子が罪な女に思えてならない(笑)旧ルの不二子はそれが魅力なのだけれど。

その気持ちが裏切られていたと知った時、どんな風に感じただろうか。
「あの清らかな不二子ちゃんが。それがしには信じられん」(旧ル5話)との台詞から、ショックを受けていたように見受けられる。
師の百地が自分を抹殺しようとしていた…しかも自らの手を下さずに、卑劣な企みによって殺そうとしていた。
そのことに清楚で可憐なはずの不二子が絡んでいて、五右エ門とルパンの二人を「誘惑し」、その目的はダイヤだったというのだから、相当な不信と不快感が残っても当然だろう。

その頃五右エ門が身を置いていた世界の価値観からしてみれば、殺したっていいくらいのものではないか。
間接的とはいえ、五右エ門の命を狙うことの片棒を担いだのだから。
そもそもの出会いから、騙されていたのだ。
しかも、不二子は再度、敵対的に五右エ門の元に姿を現す。
今度は示刀流の秘伝書を狙う、「藤波吟子」として。(旧ル7「狼は狼を呼ぶ」)

安中の半次郎に化けたルパンには、まだ気づいていたなかったようだけれど(ルパンの潜入を危惧する示刀流師範に、その時点では「まさか」と答えているので…)、五右エ門は不二子に気づいていたのだろうか。
5話でルパンがエグゼクティヴ・プロデューサーとして現れた時も、そ知らぬ顔をして相手をしていたように、もしかしたら「吟子」の時も、気づかぬふりで彼女の出方を見ていたとも考えられる。
そうだとしたら、イチャついてくる「吟子」には、苦々しい思いを禁じえなかっただろうが…。

ただ、すでに恋愛感情は消えていたと、私は考える。
「清楚で可憐」で「清らか」だと思っていたから、堅物の五右エ門が心を動かされたのだ。
男を手玉に取るようなタイプを好むとは思えないし、裏切られたという事実だけでも、潔癖な五右エ門にすればそれまでの恋情がスーッと冷めていっても不思議はない。当然、その後も未練はなかったと思われる。

そして不二子が部下を引き連れて乗り込んできた時、あっという間に彼らを斬り伏せ、不二子に切っ先を突きつける。
が。五右エ門は、「女は斬らん」といって、彼女を逃がす。
特別な情が残っていたとは思えないが、やはり非情にはなりきれず、また後のトラブルが予想できたとしても、女は殺さないという己の主義を曲げようとしなかった。五右エ門らしい行動である。


「腕ごと斬りおとしてしんぜよう」

(旧ル17話「罠にかかったルパン」より)



だが。その後すぐに五右エ門が不二子に対して平常心で接していたとも思えない(笑)
五右エ門が、ルパンの仲間になったことで、「彼を裏切った女」は、「時に仲間」という、継続した関係を持たざるを得なくなってしまったのだから。
「通りすがりの女の裏切り」ならば、見逃して忘れることも出来ようが、裏切った当人と顔を突き合わせ仲間として付き合うとなると、いい気持ちはしないだろう。

「女のアクセサリー」として、(時に自分の命まで危うくなるような)裏切りを楽しむ余裕があるのは、ルパンくらいのものだ。あくまで彼は例外(笑)
次元だって、基本的に自分が心を寄せた女の裏切りを許せる気質ではない。
お堅い性格で、潔癖、また卑劣になれず、非情にもなれない五右エ門ならば、尚のことそうだろうと思う。

ルパンとは、男同士のけりのつけ方をし、気持ちを通じ合わせることが出来たが、不二子とは多分うやむやのままだったはずだ。
しかし、7話でルパンの仲間になった五右エ門は、早くも8話で彼女を含めて一緒に仕事をすることになる。
特に目立った険悪さはないものの、霊柩車内では隣に座っても、会話の間にはルパンが挟まっていたし、冷凍トラック前部に二人並んで乗っていた時、話していた気配はない。
元々口数の少ない五右エ門だし、会話がなくても特に不思議ではないのだが、トラックで何となく気まずい空気を感じるのは、私が「そういう目」で見ているからだろうか(笑)

さらに9話にいたっては、不二子が仕事に加わるとわかると、途端に不愉快さをあらわにして、仕事から降りてしまうほど。かなりの剣幕である。
「仕事に不二子が絡むのを嫌がる」というのは、後にも次元や五右エ門が示す一般的反応の一つであるが、9話の五右エ門は、あまりに強烈な拒絶の仕方ではないだろうか(ルパンを待ちわびて、この時苛々としていたとはいえ)。
前回一緒に仕事をして、女(不二子)がいると、やっぱり迷惑を掛けられるだけだと気づき、嫌な気持ちだったのでは、とまたまた余計な勘ぐりもしてみたくなるところ。

15話では再び、不二子と普通に仕事をすることになっているが、ここでは特に目立った動向はない。
前回の自分の態度を子供っぽいと反省したのか、はたまた次第に慣れてきたのか…

さらには、17話での上記の台詞。
特に不二子にだけ向けられた台詞ではないのだが、この言葉に怒った不二子が「五右エ門なんか、あっちいっちゃって!」と物をぶつけてくると、不敵に大笑いして部屋から出て行く。
この回では以後、五右エ門は本当にルパンたちを助けようともしていない。
それぞれが独立したプロフェッショナル同士という側面の強い旧ルだし、「自業自得」のルパンたちへの五右エ門の態度はまあ理解できるけれど…それにしてもクール(笑)。
この台詞、そして笑い方は、いかにも意地の悪い愉快さを表しているように見える。
9話で不二子に取った態度に比べて、はるかに余裕のある言葉と行動だ。
ちなみに、ルパン一味になって以来、五右エ門が不二子に言葉らしい言葉をかけたシーンは、ここくらいなものだろう。
やはり、見ようによっては素っ気ないし、意地悪を楽しんでいるようにも感じられる態度は、好意的とはいえない。

他23話では仲良く四人で乾杯しているシーンがあるが、基本的に不二子と五右エ門はあまり絡んでいない。
どうも旧ル時代、五右エ門は不二子の存在を「黙認」しているだけで、個人的に関わろうという気はないし、あまり好意的とも思えない。
いきさつを考えれば、至極尤もな態度ではある。

キャラクター設定がやや旧ルに近しい雰囲気(←あくまで私個の印象)の「マモー編」で、五右エ門が、ひたすら「ルパンの情け」「ルパンの下心」を責め、彼女を責めもしない代わりに個人的に口をきかなかったことも、それを表しているように感じられてならない。


「不二子は危険を冒してまで助けるほどの女とは思えぬ」

(新ル53話「狂気のファントマ・マークIII」より

「お主のような性悪女に、モナリザの良さがわかってたまるか」

(新ル115話「モナリザは二度微笑う」より)



新ル以降、彼の態度に少しずつ変化が出てくる。やはり、ルパンたちと別れて行動した「5年」という月日が、大きかったと推察できる。

新ル以降では捕らわれ役になることも多い不二子の救出に協力することに、それほど依存はないようだ。(例としては、35「ゴリラギャングを追っかけろ」、49「可愛い女には毒がある」、105「怪奇鬼首島に女が消えた」、144「不二子危機一髪救出作戦」、パートIII・1「金塊はルパンを呼ぶ」など。親身な台詞を言うこともあるほど)
が、同時に、上記53話のように、(ファントマ・マークIIIに捕らわれてる不二子を)「危険を冒してまで助けるほどの女とは思えぬ」と、かなり冷たい言葉を発したり、パートIII・29話「月へハネムーンに行こう」では、連れさらわれた不二子よりもロボットの方を心配していることもある。


五右エ門の不二子への感情・扱い方は、その時々でかなり違いがあるようだ。
基本的には、常に不信感は持っているのだろうが、ふと仲間意識を感じそれなりに親密にしてみて、また裏切られ(当事者は主にルパンなのだが)、冷淡な気持ちに戻ったりを繰り返しているように見える。

新ルでの再会後、礼儀正しく距離をとった「不二子殿」、または仲間らしく(あるいは素っ気なく?笑)「不二子」と呼ぶ五右エ門。
旧ルでは、5話で「不二子ちゃん」、7話で「峰不二子」と呼んだきり、仲間としては声を掛けていなかったことを考えると、格段の進歩(笑)だと感じられる。

だが彼女が裏切ったり、不審な行動をするや、「あの女」「あの女狐」となる(代表例・新ル134「ルパン逮捕頂上作戦」)。
原作新「キャ!!デラックス」で不二子の引き起こしたトラブルに巻き込まれた際の「この小悪魔」という呼び方も印象的。
五右エ門の場合、不二子に対して抱く気持ちの好悪が、その呼び方から非常に分りやすい。
五右エ門の気持ちのバロメータと思って、ほぼ間違いないところ。

それが一番わかりやすいのは、新ル131「二人五右エ門 斬鉄剣の謎」だろう。
自分のせいで不二子を巻き込み、誘拐されてしまったと思い込んでいた時は、「すまん、拙者のために不二子殿が」と言っていたのに(ルパンへの詫び的ニュアンスが強いが)、
彼女の裏切りが濃厚になってくるや、「あの女ならありうるかも知れん」「最初からあの女に謀られていたような気がする」と苦々しく言う。
「不二子殿」→「あの女」の、典型的なパターンである。



ただ、以前に比べれば、彼女に対する態度の根底に流れる雰囲気が、冷たくなくなっているようだ。
ルパンや次元に対しても、仲間としての「情」を感じさせるようになった五右エ門は、彼女に対する態度も軟化させている。

例を挙げるなら。
新ル61「空飛ぶ斬鉄剣」では、武士の魂の刀を、不二子に盗まれたというのに、五右エ門の下した罰は、アフリカ産の野生のイモで作った不味いこんにゃくを口の中に突っ込むことだけだったのだ。
彼からすると不本意なのかもしれないが(笑)、不二子も仲間として認め、その裏切りも「悪い癖」として、(やや茶目っ気がある方法で)罰することで水に流せる仲になったように見受けられる。

同じように「腕ごとを斬り落としてやろう」という台詞でも、旧ル17話と、新ル19話「十年金庫は開いたか」では、受ける印象が違うような気がする。新ル19話の方が、仲間内のちょっとした軽口のニュアンスが強いように私には感じられる。
何だかんだ言ってもルパンと共に居ることが楽しい五右エ門としては、その周囲に居る不二子の存在も、受け入れるようになっているのだろう。
ルパンと離れがたいから不二子の存在も認めてしまう……というこの辺の心境は、次元と近いものがあるかもしれない。


また、上記「モナリザは二度微笑う」でのやり取りは、仲の良い友達同士のもののように見えなくもない。
「マザコン」呼ばわりした不二子に対し、「性悪女」と受ける五右エ門。
その後も「あんな女と仲間になった覚えなどない」と、かなり不二子の「マザコン発言」にはご立腹だったようだが(笑)、お互いにそういった気安い応酬が出来るようになっていることが、仲間としての関係が成立したからだろうと考えられる。






また、ふとした時に、五右エ門と不二子は意外な仲の良さを見せることがある。

時に手を取って助けてあげ(新ル34「吸血鬼になったルパン」)、
時に偶然とはいえ二人だけで行動し(新ル37「ジンギスカンの埋蔵金」)、
時に気絶した彼女を膝枕し(新ル43「北京原人の骨はどこに」)、
時にマイアミで一緒にバカンスを過ごす(新ル44「消えた特別装甲車」)……。
旧ルの頃、彼女が顔を見せただけで「仕事を降りる!」と立ち去った五右エ門とは思えないほどだ(笑)
また、新ル79「ルパン葬送曲」では、クラシックを聴きに行く際、正装した自分の身なりを不二子にチェックしてもらっており、かなり微笑ましい様子も見られる。

不二子の方も、五右エ門には優しい一面を見せることもあり(それは不二子側のページで取り上げることにする)、不二子が裏切らず穏便に行っている時は、それなりにいい関係を築くことが出来たようだ。

(2005.3.27)

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送