人間関係考察・対銭形編

次元が銭形警部に向ける感情に、特筆すべきものってあったっけ?と、正直頭を悩ませた項だった(笑)
ありがちな考察に終わっているけれども、出来るだけ次元が銭形に向けた言葉を拾ってみたい。


「さすが鬼警部、いい腕だ」

(新ル97話「ルパン一世の秘宝を探せ」)



ルパンも銭形の能力を認めているのだから当然だろうが、次元もまた銭形を評価している。
まずは、腕っ節の強さという面。

新ル57話「コンピューターかルパンか」で最初に立ち会うことになった時は、銭形の強さをやや侮っていたように見えた。
五右エ門があっさり捕まってしまったのを監視カメラ越しに見ると、それが信じられずにモニターを殴って壊してしまうほど動揺する。
その直後自分が戦うことになった際も、引き続き銭形を甘く見ていたというせいもあり、すでに抜いていたマグナムを、銭形の銃弾によって何度も弾き飛ばされる。名ガンマンともあろうものが、たった一発も撃つことなく、銭形に捕まってしまった。
「夢に違いねぇ」と、次元は銭形の頬をつねって(笑)、この事態のありえなさに驚いたのだった。

ということは、この時点ではまだ次元にとって銭形は、(刑事としての能力はまた別の話として)一対一で立ち会うことになったら楽々かわせる程度の腕前だと思っていたのだろう。
まさか銃で押されるとは、夢にも思っていなかったからこそ、あれほどまでに驚いたのだ。

それから後、銭形に対する認識を改めたことがわかるのが、上で挙げた97話の台詞。
どこをとっても褒めてる。「鬼警部」という言葉も、この場合は次元特有の皮肉ではないだろう。褒めている時でもどこか斜に構えたもの言いは彼の習い癖であることだし(笑)
この時は、五右エ門が生け捕りになってしまっても57話の時のような驚愕した様子は見せない。
そういうこともありえると、すでに認めているからだ。

銭形が武器も持たずに「生け捕り」を挑んできていたからか、この時次元は得意の拳銃ではなく、五右エ門が落とした斬鉄剣で銭形に向かっている。
それは多分、素手の男に対して得意の得物で戦うことはできないという彼の矜持であって、決して侮っているからではないと思う。
銭形にとっては、手錠が何よりの“武器”なのだが……次元がマグナムで迎え撃つことはなかった。
結局、次元は五右エ門同様木に吊り下げられてしまい、またもや破れた。
もしも次元が、拳銃で本気の対決していたら…という想像をしたくなるところだが、ルパン一味として警察官を殺すつもりはないだろうから、滅多なことではそれが実現することはなさそうだ。
といって手加減して撃退するには、“本気の”銭形は腕が立ちすぎるので、いつも生け捕られる結果になるのではないだろうか。


パートIII・37話「父っつあん大いに怒る」では、怒りに燃えた銭形がルパンの射殺許可証を手にしたと聞いた次元が、率直な言葉で相棒を案じている。
「ルパンのことなら何もかもを知り尽くしているからな、殺す気になったら手強い相手だ」と。
ルパンの一番の強みは、奇想天外な手段を用いることだろうが、それについて最も熟知している銭形が危険な相手になりうることを、よくわかっていたのだ。
ルパンが易々と殺されたりしないと信じていただろうけれど。
戦う相手に関しては非常に冷静に力量を見定める次元らしく、過去二度の対戦で、本気になった銭形の力をしっかりと把握した台詞である。

ただ、次元も銭形にやられているばかりでは当然ない。
見事な銃さばきを披露して、銭形を足止めしたり撃退することもあれば(新ル13、新ル59、新ル81等)、銭形が追いつめたルパンを助け出すこともある(新ル151等)。
公平に見れば、次元だってちっとも負けてはいないのだ(^^)

「俺はあの銭形流物量作戦が嫌いなんだ」 

(パートIII・24話「友よ深く眠れ」より)



次元はまた、銭形の警察官としての能力に対しても、うんざりしながら認めているようだ。
「嫌い」とぼやくのは、相当苦労させられている、手強い、ということであり、形を変えた評価であるとも言えよう。

確かに、銭形が物量作戦を取った時は、いつも大変な困難が付きまとう。
ルパンの相棒をやっているくらいだから、次元もそうしたものを乗り越えるのを面白がる傾向も当然あるのだが、ルパンほどには挑戦とスリルを愛するタイプではないし、危険と利益のバランスを重視しがちなので、銭形の徹底した作戦は彼にとって厄介なものなのだ。

旧ル15話「ルパンを捕まえてヨーロッパへ行こう」では、銭形の徹底した警備網に苛立ち、「銭形だ!あいつさえいなければ、こんなバカな真似をするヤツはいねえんだ」と怒鳴っている。
ルパンが盗むと予告した場所に大量の人間を投入し、数をもって守ろう(あるいは取り囲もう)とするのは、銭形の得意とする手法。
ありきたりな方法ではあるが、「銭形さえ」という言い方からすれば、たぶん他の人間が指揮している場合よりも、いっそう隙がなく圧倒的数で押してくるのだろう。
物量作戦の最高峰、新ル134話「ルパン逮捕頂上作戦」を筆頭として、数々の銭形流作戦で大変な目にあってきているから、パートIIIの時期「いつものことだ」と達観しつつも、「嫌い」とぼやくようになっているのだと思われる。


その銭形の仕事っぷりに対する次元の感想が垣間見られる、別タイプの台詞としては、劇場版「ルパン対複製人間」を挙げたい。
厄介なタイミングで追ってくる銭形の血液型について、ルパンと会話をするシーン。
「O型だろうぜ」と推測していた次元。
他愛のないお遊び的推測だが、次元にとっての銭形像が透けて見えるようで面白い。
A型と推測したルパンは、多分、銭形のマメで勤勉である面に注目しているが、次元は「しつこく諦めないタフさ」を強く感じているようだ。
日頃あまり粘り強くない性質の次元からすれば(笑)、驚くべき執念…なのだろう。


また、「ウデはいいが正直すぎるね……銭のダンナは……」と呟くシーンもある(原作新「上か…下か 左か…右か…??」)。
ルパンをたった一人で捕らえた銭形と、ルパンを救出しようと待ち受ける次元が撃ち合うシーン。
一見、銭形が次元の利き腕を撃って、勝ったように見えるのだが、実は…という話だ。
次元が狙って撃ったものは銭形ではなかったことに気づかなかった――そんな銭形を評して言った台詞。
原作の次元の感情はことのほかわかりにくいので、この時どんな風に感じていたのか私にはハッキリしないのだが、真っ向勝負の銭形を嫌がっている風には感じられない。
「正直」という言葉の選択に、そこはかとなく銭形への好感を感じる……というのは、ちょっと強引だろうか?(笑)
しかし正直だけでないのも原作銭形の魅力で、ルパン相手に施していた命がけの仕掛け、その覚悟がわかった時(上記回結末部)、きっと次元も驚いたことだろう。

そうしたどこへでも追いかけてくる銭形に向けて、次元が投げかけた台詞もある。
「とっつあん、そんな性格だと友達なくすぞ」
が、それ(新ル138「ポンペイの秘宝と毒蛇」)。
この台詞をこんな風に取り上げるのもどうかと思うのだけど(笑)印象に残るものだったので。

最初に銭形のしつこさに腹を立て「イヤな性格!」と言ったのは不二子であり、彼女に「言ってあげなさいよ」と促されて、次元はこの台詞を発したのだが、何だか妙におかしい。言われた銭形が真剣に受け止めてショックを受けているから余計だ(笑)。
ただ、次元としては、それほど悪意をこめたつもりではなかったような気がする。
「友達なくす」というたとえも、何やら微笑ましくいかにも冗談っぽい。
立場上は敵である銭形に、次元がこんな調子で声を掛けること自体、親しみの表れのように思われる。


「あいつは憎めないヤツだ、なあルパン?」

(新ル44話「消えた特別装甲車」より)



次元も、ルパンと同様長い付き合いの銭形に対して、親しみの感情を持つようになっている。
一番率直な台詞が、上記だろう。
特別装甲車に閉じ込められた銭形が、酸欠状態で死に掛かっていた時、ルパンに向けた言葉。
奪った獲物を中途半端な状態で一旦諦めろとルパンに進言できるのは、さすが相棒・次元といったところ。
この言葉は、ルパンのためを思って言ったという面が強いと私は考えているのだが(詳しくは新ル44のレビューを)、銭形の身を案じ、彼を死なせたくないと思ったのもまた、次元の素直な気持ちであっただろう。


時として、次元は銭形に冷たい台詞を発することもある。
原作新「ドキュメント狂」では、銭形の死亡記事に対して「本当だとしたら万歳だ」と言っているし、新ル82「とっつあん人質救出作戦」では、「追われている俺たちが、とっつあんを助ける義理なんかどこにもないんだぞ」と言っていた。
しかし、次元のやや天邪鬼で斜に構えた態度を取りたがる気質を考えると、これはいかにも言いそうなこと。
前者の場合は薄々ニセ新聞だと気づいていた風だし、後者の場合はしんみりしたルパンの述懐を聞いた後だったから、それに対して敢えてクールな意見を言ってみせたようにも感じられる。
実際は、危険ばかりで利益にならない銭形救出を、サイの目に任せるポーズをとりつつ、自ら参加したのである(新ル82)。
ルパンと一緒にスリリングで酔狂極まるひと仕事をしてみようという気持ちもあっただろうが、何よりまず銭形への好意がなければ、次元が銭形救出作戦に手を貸すことなど、なかったはずだ。

新ル59話「マダムXの不思議な世界」では、ルパン・次元・五右エ門・銭形の四人が、マダムXによって一緒の部屋に閉じ込められる。
その時、部屋のドアを開けようとした銭形、彼の足元が地面にめり込んでいくという怪異に遭うのだが、それを真っ先に助けようとしているのは、次元だった。
「早くとっつあんを助けださねぇと」と、銭形を抱えあげようとしていた次元。
ルパンは不慣れな異常事態に力を落としているし、五右エ門は何かを感じ取ろうと必死で、銭形どころではなかったのだが、それにしても次元だけが手を貸してあげているのが、興味深く面白い(この場合、仕方ないか?笑)
やはり、冷たい言葉や斜に構えた態度にはポーズ的意味合いが強く、何だかんだいっても長い付き合いの銭形に、親しみは覚えているのだ。

考えてみれば、次元と銭形は(五右エ門も)、二度も一緒に留置所に捕らわれた仲(新ル10、新ル32)。
特に「ルパンは二度死ぬ」の時は、本来敵である銭形がルパンの死をあれほど嘆いている姿を目の当たりにしているのだ。
銭形が仕事を越え、立場を越え、ルパンに(相反するものを抱えつつとはいえ)強い感情を寄せていることに、親近感を感じたとしても不思議はない。
また、新ル66「射殺命令!!」の時には、不二子からのSOSを受けた形で、銭形がルパンのためにハワイから駆けつけた所にも居合わせている。
ルパンへの射殺命令はICPOによるものなのだから、銭形の立場からすればどれだけ不本意でも本来は黙認するしかないはずなのだ。
が、銭形はそうではなかった。間に合いこそしなかったが、ビューティーを止めるために飛んできたのだ。
そんな銭形の姿を見て、次元も彼の心情、ルパンへの思いを再び感じ取ったことだろう。
ダムダム弾を使用に対する抗議では、用語関係でかなりたどたどしかった銭形だが(笑)、次元はさり気なく銭形から言葉を引き継ぎ、ビューティーを糾弾している。そんな次元に銭形も大きく同意している。
この時銭形と次元の言いたかったことは、かなり近かった(あるいは同じだった)のではあるまいか。

世界中をどこまでも追い回し、執念深く、真っ当に、何度でも逮捕しようと挑んでくる手強い男。
そして、ルパンの命が不当に狙われた時には、ルパンのために駆けつけて来、次元とは違った方法で彼なりに救おうとする男。
次元がそんな銭形を厄介な存在だと思うのと同時に、憎めない男だと感じ、時としてどこか共感めいたものを覚えるのは、非常に良くわかる気がするのである。


(2006.1.17)


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