ルパンVS超常現象、ルパンVSコンピューター

ルパン三世はリアリストである。
極めて冷徹な現実主義者である、と思う。
ルパンは、心霊現象、呪い、奇跡等を信じない。理性と科学の及ばぬ、超常現象全般を信じようとしない。

だからと言って、ルパンは頭の固い科学礼賛主義者・他愛のない自称理論家などでもない。
現代の技術の賜物である(はず?)のコンピューターとも、超常現象と同じように、ルパンはしばしば対決している。
70年代初頭の最先端技術であった(と思われる)コンピューターの力も、ルパンは信じることはない。
完全な科学の子でもなく、決して妄信の徒でもあり得ない。
ここがルパンの奥深さであり、屈折している部分でもあり、大きな魅力でもあると思うのでこのページでは、その辺りのことを考えてみたい。

超常現象

ルパンはまったく超常現象を信用していない割には、そういう出来事によく遭遇する。

まず思い浮かぶのは「ルパンVS複製人間」の、マモーに対する態度である。
非常に不可思議な現象を起こし、かつ自在に地震を起こせるかのようなマモーに対し、ルパンはギリギリまで誇大妄想の科学者であると思っていた節がある。
あれだけの事が起きればいい加減マモーを超越的な存在かもしれないと思ってしまいそうなものだが、ルパンは決してそう思い込んだりはしないし、ましてや恐怖に駆られることもない。
あれらの現象に対しても、トリックを使っていると考えているようであった。

そして、ルパンは幽霊の存在も認めていない。
新ル113話「作戦名は忠臣蔵」で、吉良上野介の幽霊に対し、彼のことをまるでマジシャンのように扱っている。
宙に浮き、神出鬼没に現れることなど、ルパンにとっては「幽霊」という存在を認める根拠にはならないようである。
普段はとても現実的であるのに、場合によっては幽霊を認めたりそれに対して怯えている次元や不二子の態度とは対照的である。
ましてや、霊感が強く超常現象を自然に受け入れているらしき五右エ門とは正反対。PARTIII・26「ニューヨークの幽霊」も、五右エ門でなくルパンを引っ掛ける必要があったとしたら、五つ子でもそう簡単に「幽霊だ」などとルパンは信じてくれなかったあろう。

旧ル8話「全員集合トランプ作戦」でもナポレオンカードの「ツキを呼ぶ」という魔力(?)を信じていないし、ホープダイヤの呪いも何のその。不二子のために盗み出す(新ル107「結婚指輪は呪いの罠」)。
超常現象に見えて、実際は何らかのトリックや薬などを使っている、という結果のこともあるのだが(新ル「私の愛したルパン」「星占いでルパンを逮捕」「霊山ヒマラヤの泥棒教団」など)、実際本当に「理屈では説明できない現象」である場合も多い。

新ル14話「カリブ海の大冒険」では、ジャンボルピーの呪いと、正真正銘のゾンビと戦うハメに陥った。
呪いの正体は、ルビーの香りにつられてやって来るハミングバードの大群だったわけだが、ゾンビには合理的な説明がない。
黒魔術教の神によって蘇ったゾンビは、銃も斬鉄剣も効かず倒れても倒れても起き上がってくる不気味な存在であったが、神像を倒すとゾンビも滅んだ。
どうにかゾンビに勝利したルパンたちだが、こういう存在と戦っている時、リアリスト・ルパンの心境は一体どういうものであったのだろう、と考えると興味深い。

何といってもルパンと不可思議な超常現象と言えば、新ル7話「ツタンカーメン三千年の呪い」が忘れられない。
アイキャッチの「ルパンザサード♪」の所が、この回だけは「たたりじゃ〜」との台詞が入る、こういう所でも印象深い。
ご承知のようにこの話では、ルパンが完全にツタンカーメンの呪いにとり憑かれてしまうのだ。
黄金のマスクをかぶって遊んでしまったばかりに(^^;、三千年の時を越えたツタンカーメンの意識にルパンの自我がのっとられてしまい(あのルパンが!)、結局その様子を見かねた不二子たちがマスクを元通り博物館に返す事によって、ようやくルパンは正気に戻る。
この回だけは、ルパンは「呪い」に負けているのである。

基本的に超常現象なるものは、信じる人にしか通用しない理論や法則、信仰に基づくものであると思う。故に一般化されずに「超常」であるわけなのだが…。
が、まったくそういうものを信用していないはずのルパンが、ツタンカーメンの呪いだけは、身をもって体験してしまった。
とりつかれている間のことを、ルパンが覚えているのか気になるところではあるが、覚えていたとしても、ルパンのことだから素直に「呪い」だとは認めずに、何らかの説明をつけてしまうのかもしれない(^^)。

ルパンが、こうした不可思議な現象をほとんど信じようとしないことには、ルパンが幼い頃受けた泥棒の英才教育の中に、「魔術」があったことが影響を与えているのではないか、という気がする。
勿論、決して妄信することのない持って生まれた気質や、理性的な頭脳があってこそだとは思うが。

というのも、魔術は人間の物理的・精神的死角を巧みに衝き、不可能現象を現出させる技術であるからだ。
ルパンはそれを幼い頃から極めている。
人間が「見えている」と思っているものが当てにならないこと、またそう見せている裏にあるトリックの種類や技術・トリックの根底にある騙しのテクニックを知り尽くしている。
だから、一見「不可能」に見える現象、「神秘的」に見える出来事等を、「不可能」「神秘」と感じたり、信じたりすることがない。
不可能に見せかけるトリックを自分自身でも思いつくこともあるだろうし、自分が知らない・思いつかないものであっても、何らかのトリックを使えば不可思議な出来事も、かなりの範囲で演出することが可能だと、ルパンは知っているのではないだろうか。

生まれつきのIQ300を誇る天才的頭脳、そして魔術等様々なジャンルにわたる泥棒のための(ということは、人を騙すための)英才教育、そしてルパンの用心深い性格……これらが相まって、ルパンの超常現象への不信があるのではないか。

ちなみに、ルパン界ではUFO・宇宙人は「超常現象」には入らない、と思われる(笑)。
新ル95「幽霊船より愛をこめて」では巨大なUFOと遭遇しているし、劇場版「バビロンの黄金伝説」では宇宙人もれっきと存在していたのだから。さすがのルパンも「信じない」とは言わない気がする。
そして、催眠術(現実に精神医学で使うらしい『催眠』ではなく、昔の漫画等のイメージ通りの催眠術)、テレパシーなども一応その存在をルパンは認めているらしい(特に新ルでは)。

コンピューター

一方、ルパンが科学技術を信奉するかと言えば決してそういうわけでもない。
最先端の技術などは、ルパンが好きそうという気がするのだが、好きだから過信するわけではないのがいかにもルパンと言ったところ。
ルパンの天邪鬼気質を表しているというか(笑)…いや、「妄信」「過信」をすることがない、真に理知的な頭脳の持ち主であることを表しているのである。

ルパンとコンピューターが対決した主な話に、旧ル22「先手必勝コンピューター作戦」と、新ル57話「コンピューターかルパンか」がある。
どちらもコンピューターが人間の行動を完全に予測し、犯罪を防止することが出来ると信じている人間が登場する。
「先手必勝…」ではコンピューター技師のゴードン、「コンピューターか…」では犯罪心理学者のハンター教授である。
彼らに対して、ルパンはその裏をかきまんまと目的を達成するのだ。

彼ら…特にゴードンの方のコンピューターへの信頼の仕方はすごい。
実際、途中まで見事にルパンの行動を予知しており、コンピューターなど胡散臭いと思っている銭形の勝手な行動さえなければ、ルパンを逮捕できたかもしれないという所まで追いつめたのだから、信頼するのも当然かもしれないが。
旧ル本放送時(1971年頃)、コンピューターというと何でも可能な人工頭脳的イメージが強かったのではないだろうか?(私はさすがにこの頃のコンピューター事情は知らないが…)
旧ル5話では、百地が嘘の言い訳をする際「コンピューターが将来禍根となる人物を予測した」というようなことを言っているし、ゴードンもルパンの行動を予知出来るとしていることから、コンピューターにある程度のデーターさえ入れてやれば、ほぼ100%の確率で未来が分かると思われていたのだろうか。
現実ではコンピューターがどう考えられ、扱われていたかはともかく、ルパン界では「あらゆる犯罪を予測する」ものであった。

次元も五右エ門も、最新式のコンピューターと聞きどことなく乗り気でなくなっているのと対照的に、ルパンは早速挑戦状を叩きつける。
いかにもルパンらしい。
得体の知れない機械ごときに、そしてその機械を妄信するような人間に、ルパンの行動を予測し逮捕することなど出来ないと、思い知らせずにはいられなかったのだろう。
この回まで、ルパンもコンピューターについてはそれほど詳しくなかったようで、一度危うく逮捕されかかった後本で猛勉強しているが、色々な知識を得た後でも、コンピューターへ挑戦するという気持ちに変化はなかった。
いかにもアナログ人間であり、怪しげな機械だからコンピューターなど信用できないと考えていそうな銭形とは、また全然違う。
ルパンは、コンピューターを知りきちんと理解した後でもそれを破れると考えていた(本にはコンピューターの予測は99%確実だとされていたにも関わらず)。

また、「コンピューターか…」で、ルパンがハンター教授のコンピューターに挑戦する羽目になったのは、銭形に泣きつかれたことがきっかけだが、最終的には「破るのが難しいからやり甲斐がある」というルパンなりの理由で乗り出している。
この時点でも、自分に破れぬコンピューターはないと、多分考えていたのではないだろうか。

どちらの回も、ルパンは「人間」の特性を利用してコンピューターに勝利している。
「先手必勝…」では、機械であり理論で動くコンピューターに予測できない人間の気まぐれを使い、警備の裏をかいて見事次元と五右エ門を助け出す。
また、「コンピューターか…」の方では、途中までかなり追いつめられるのだが銭形が実はくすねていた古銭を利用して、ハンター教授の動揺を誘い扉を開けさせている。
両方とも、「気まぐれ」「感情」といった、コンピューターにはない人間特有のものを利用した。

ルパンは、所詮人間によって作り出された機械に負けるわけにはいかなかったし、何よりそのコンピューターを過信するような人間に敗北するわけには行かなかったのだ。
過信していればいるほど、人間の心理には穴があると知っているかのようである。

コンピューターとの対決とは少しずれるが、驚異的な科学力で時間旅行を可能にした魔毛との対決。その時の勝利も、魔毛を錯覚させ彼の隙を衝くという手段をとっているのだ。
この時間旅行に関しても最初はまったく信じていなかったルパンだが(当たり前?^^)、目の前で幾度もものや人が消えていくと、さすがのルパンもどんどん追いつめられていく。
ついにはあのルパンが逃げ出そうとまでするのだが、次元の五右エ門に対する「せいぜい江戸時代のおめぇ」という言葉でアイディアを思いつく。
魔毛の情にすがって(と見せかけ)、彼を時間旅行で過去と現在を往復させる。実際彼は現代に戻ってきているのだが、周囲の風景とルパンたちの変装によって魔毛に過去へ来たと錯覚させる。
「情」に訴えかけ計略に乗せ、時代を「錯覚」させ隙を作る。
タイムマシンという機械によって超越的存在だった魔毛も、やはり人間だったというわけである。実際機械を壊された後は、情けない様子に成り下がっていた。

超常現象も、合理的精神・技術の結実であるコンピューターも決して妄信することのないルパン。
それは、繰り返して言うようだがルパンの頭脳と生まれつきの性質が大きく影響しているとは、思う。
だがそれ以上に、ルパンが「人間」というものを知り尽くしているからなのではないだろうか。

人間には、とてつもないトリックを考え出し実行する力があることを知っている。
また一方で、人間の作った機械と、それを使う人間に完璧などはありえないことも。
そしてどれほど人間が騙されやすく、物理的・精神的死角を衝かれるとあっさりと幻惑されてしまうかを知っている。
ルパンは人間の可能性を見くびっていない代わりに、決して過度に期待することもない。
至ってシビアな、ルパンの現実認識の賜物なのではないだろうか。

(2001.11.13)


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