ルパン三世の嗜好を探る

さすがに主人公だけあって、ルパンの「好き」「嫌い」は、数多く登場し印象的なものも多い。
ルパンのポリシー的なものにも触れつつ、ちょっと考察してみたい。

タコと殺し屋

ルパンの嫌いなもの、といって最も有名なのは、何と言っても「タコ嫌い」ではないだろうか。
私の母までしっているくらい有名なエピソード(笑)。
「魔術師と呼ばれた男」(旧ル2)に登場した、タコ嫌いの設定は、その後もたびたび登場する。
「復讐はルパンにまかせろ」(新ル84)では、みずから「タコと、血を見るのが好きな殺し屋は大嫌い」と言っているし、「マイアミ銀行襲撃記念日」(新ル143)ではルパンのタコ嫌いを利用してか、銭形警部がタコを手錠代わりにルパンを捕らえようとしている。

ルパンは日本人の血を引いていながらも、生活習慣のベースはどうも西欧のものである。
ルパンの過去は定かではないし、原作に登場するルパン帝国の設定や、子供の頃の泥棒英才教育を受けた場所など、謎も多いので一概には言えないのだが…
やはり主に、タコを食べる習慣のない場所で育ったのではないだろうか。
北フランスやドイツ、イギリスなどでは一切食べない。もともと内陸部という土地柄と、タコが南に生息するせいもあり、北の方に位置するヨーロッパでは食べる習慣が生まれなかったという。
さらにはあの見た目。グロテスクな吸盤!
それ故「悪魔の魚」と言われ、食べる習慣のない土地では、非常に忌み嫌われていたようだ。

ルパンもそうした土地で育ったため、タコ嫌いになったのではないだろうか。
まあ、タコを食べる習慣のある日本で育った私も、あの吸盤を見るとゾッとするので、育った土地柄のせいだけでは、勿論ないのだろうが。
旧ル2話でルパンは、タコを見ただけでジンマシンが出来る、というのだから、強烈なタコ嫌いである。
むしろ、タコアレルギーと言った方がいいくらいの重症だった。

だが、それは少しずつ治って来ている。
「ルパンVS新撰組」では、沖田総司の操る巨大タコを間近に見ているが、その時は特別激しいタコ嫌いのリアクションは示さなかった。(それどころじゃなかった、というせいもあるだろうけど)
そしてタコ手錠で、頭を捕まれてしまった時も、ジンマシンはとりあえず出ていなかった。
タコ嫌い、少なくともタコアレルギーの方は克服しつつあるルパン。
やはり、常に誰かから狙われている身としては、そうした露骨な弱点をいつまでも持ち続けているわけにはいかないのだ。

そして、ルパンの嫌うものに、「血を見るのが好きな殺し屋」という存在がある。
実際、常に誰かから狙われ続けているルパンにしてみれば、殺し屋を好きになる道理もないのだが。
ただ、ルパンは人を殺すことを、倫理的に悪いことだからと、嫌っているわけでは勿論ない。
ルパンも、時として人を殺す。
「ルパン」の名を騙った者・汚した者、また、ルパンの命を狙った者には容赦がない。身を守るためにやむを得なくという場合も多いが。
女と警官は殺さない、という主義のルパンだが、時として女といえども手を下す場合すらある(ザクリーヌ等)。
こういうルパンであるから、善悪の問題から嫌いだと言っているわけではない。

殺し屋の中でも、特に「血を見るのが好きな殺し屋」と表現している辺りから、ルパンの嫌うポイントがよく分かる。
「血を見るのが好き」とは、むやみやたらと残忍な性質を持った殺し屋のことではないだろうか。
他人を殺すことによって、お金を得ているのが殺し屋である。
その中でも、その殺し自体を楽しみ、自分の残虐性を満足させ、しかもその行為によってお金という報酬を得ている、「血を見るのが好きな」タイプ。
そこには、誇りも哀しみもない。
残忍な殺人者を、粋なスリルを楽しむ泥棒であるルパンが嫌うのも無理はない、と思う。
ルパンは、殺さねばこちらがやられる場合、躊躇するような温情というか、甘さ?はないが、だからといってむやみやたらと他人を傷つけたい、殺してやりたいといった残酷な部分は持ち合わせていない。
自分も、他人を殺さなくてはならない場合が多々あるだけに、そうしたことを喜んで行う人間に、一層嫌悪感を抱くのではないだろうか。

同じような理由で、「戦争屋」も性に合わないと言っている(TVSP「ルパン暗殺指令」)と思われる。
血を見るのが好き、という直截的残忍さを持っているわけではないが、戦争屋…死の商人は大量に人が死ぬ戦争によって、利益を得る人間である。
「ルパン」の中に出てくる戦争屋は、大抵自分は安全な立場にいつつ、わざと戦争を起こしたりそれをコントロールしたりして、莫大な金を儲けている。
人の死というものに、むしろこちらのタイプの人間の方が、無感覚に見える。傲慢で、無機質な残忍さとでも言おうか。
ルパンとは、気が合いそうにない。

元・殺し屋という経歴を持つ次元・五右エ門だが、ルパンはこの辺のことをどう思っているのだろう、とつい考えたくなる。
まあルパンは、あまり人の過去に頓着するようなタイプではなさそうだが。

次元は、不必要に残酷なことを好む人間では、勿論ない。
むしろ、次元の本質は残酷からは程遠い。
五右エ門も同様である。殺し屋をしている時からすでに、非情さが決定的に足りなかった。生き残るためのズルさすらもない。
相棒二人は、元殺し屋であるにも関わらず、ルパンが嫌う「血を見るのが好きな殺し屋」とは本質的に違っている。
だからこそルパンは、相棒たちを信用し続けるのだろう。

意外な?「好き

最近個人的に気になるルパンの「好き」は、メロドラマ好きということである。
新ルでは、次元とチャンネル争いを繰り広げ、断固としてメロドラマの続きを見たがっていたり(新ル53話)、一人ドラマ(映画?)を見ていたりする場面(新ル125話)が散見できる。
だいたいいつもルパンが見ている番組は、恋愛モノのドラマなのである。それも、古典的な。

新ルDVD-BOXに入っていた解説書によると、ルパンが125話で見ていた映画は「哀愁」風ということらしい。
確かに映っていた橋の雰囲気や、キャラクターの感じが、言われてみればそんな感じもする。その後エプロン姿の次元(笑)に電話で呼ばれ、それに出る時「ハイ、ロバート・テイラー」と言っていることからしても、それが窺える。
また、47話でも、ウォータールブリッジの付近で「『哀愁』の舞台だ」と言っているし…
もしかしたら、ルパンは「哀愁」ファンなのか。

ご承知の通り、「哀愁」はロバート・テイラーとヴィヴィアン・リー主演の映画。
第一次世界大戦中のロンドンが舞台。
生きるエネルギーに溢れた、強引でちょっとだけワガママなところも魅力の主人公と、若く可憐な女性ダンサー。ウォータールーブリッジで出会い、空襲から逃れるために、一緒に逃げたことがキッカケで、恋が生まれる。
会ってすぐに結婚まで決めてしまうのだが(この辺のロバート・テイラーの強引さがカッコイイ^^)、戦争のせいで式が挙げられぬまま、男は戦場へ行くことに。
そこから、どんどん女の運命が狂ってしまい……という、お話である。

個人的には、ヴィヴィアン・リーがすごく好きだったりするので、非常に楽しめた映画だったが、ルパンがこの映画のファンだとしたら、すごく似合うような気もする反面、ちょっとだけ意外なような気もした。
非常に強引でポジティヴな男に共感していたのか、それとも男を深く愛しつつも身をひく以外になく、それ以上生きていられなかった女に魅力を感じていたのか。
それとも、その後もずっと女を忘れずに生き続けている男の哀愁に? 悲劇的結末に?

本質的にはかなりシビアではあるが、ルパンは(特に新ルでそれが顕著だが)、不二子との付き合いで、ロマンチックな雰囲気を重視したりすることが多い。
また、「不二子危機一髪救出作戦」(新ル144)では、不二子を助けるために、ルパンロックを解かねばならないという状況に陥るが、その時ルパンは「女のために命を捧げるのは、色男の宿命」ということを言い(笑)、愛に殉じる男を演じたりして不二子を泣かせている。

勿論、ルパンには死ぬつもりなどなかった。
多分、彼は女のために命を捨てるタイプではない。ルパンは、ロマンを非常に好みはするものの、多分真のロマンチストにはなりえない。
女の命か、自分の命か、との選択を迫られたとしても、ルパンはそんな選択を強要した人間を倒して、二人で助かろうとギリギリまで考える人間である、と思う。
女性との付き合いにおいても、ロマンチックな演出をしつつも、実際は即コトに及ぼうとしたりして(笑)不二子によく怒られている。
やはり自分自身はそういうタイプにはなれないからこそ、ロマンチックなものに憧れたりするのだろう。
本質的にロマンチストであり、やや自己犠牲をしてしまいがちな次元。そんな彼の好む映画が、マカロニ・ウェスタン風だったり、またハードボイルドものであるのと比べてみると、とても興味深いところである。

ルパンの好むものに、もう一つヘミングウェイがある。ルパンもヘミングウェイを「わが心の『パパ』」と呼んでいるようだ(新ル66)。
ルパンは意外にも文学青年なのだという。
ちなみにどうでもいいことだが、文学少年だったようにに全然見えないのに、実は本をたくさん読んでいるという男性に、非ッ常にヨワイ私。ますますルパンスキーになってしまう今日この頃(笑)。
ヘミングウェイは、今更説明するまでもないが、ロスト・ジェネレーションの代表的作家。
日本の血が入っていても、生活の基礎は西欧風のルパン。「論語」は知らなくても(新ル93)、ヘミングウェイは読んでいて不思議はない。
ルパンがメロドラマ風や悲恋モノのドラマや映画が好きなのだとしたら、お気に入りの作品は「武器よさらば」辺りだろうか(と勝手に推測してみたり)。
ヘミングウェイ作品に流れている、虚無感と生命力。うまく言い表せないが、ルパンが惹かれるのが何となく分かる気がする。

そういえばルパンは、ラジオでも次元とチャンネル争いをしていた(新ル48)。
ルパンが聞きたがった音楽は、ロック。
クラシカルな趣味の次元と五右エ門(演歌もある意味古典的?^^)と比べると、ルパンの方はわりと新しいもの好きな面がある。
新ル放送当時流行っていた「スーパーマン」に夢中になったり(新ル94)、インベーダーゲームにムキになったり(新ル19)…また原作ではルービックキューブに没頭している時もある(「一宿一殺」)。

盗みの小道具も新しいもの好きで、次々と色々な道具を開発したり、購入したりしている。
TVSP「ルパン暗殺指令」で、奇妙なものばかり売っている市場を、楽しげに見て歩くルパンの姿は印象的である。(うさんくさそうな様子で見ている次元とは、ここでも好対照)
そして、ルパンはブルーベリー味のガムがお気に入りなのだ(V−18)。
パートV放送当時、ブルーベリーガムは発売されたばかりの、新しい味だったような気もする(違ったかな)。
そういう意味でも、新しいもの好きと考えても良さそうだ。


そして、最も有名なルパンの好きなものは、レースではないだろうか。ルパンはレースに目がない。(旧ル1話)
ミスターXがルパンを呼び寄せるために、莫大なお金をかけてレース場を建設し罠を仕掛けたのも、ルパンがレース好きで、自動車レースならば招待に応じる確率が高かったからだと思われる。
それだけ、ルパンのレース好きは有名なのだろう。

旧ル1話以外でも、ルパンはよくレースに出場している。(新ル11「モナコGPに賭けろ」、73「花も嵐も泥棒レース」、TVSP「ナポレオンの辞書を奪え」等)
「花も嵐も泥棒レース」では、この大会に勝つと三連覇とアナウンスされていたので、あのレースの常連のようだ。
レース以外に目的がある場合も多いけれども、ルパン自身A級ライセンスを所持しているし、やっぱり車の運転・その技術やタイムを競うレース自体が好きなのは間違いないところだと思う。

「挑戦」に生きているルパンにとってみれば、レースも、盗みとはまた形の違った「挑戦」なのかもしれない。
レース中のトラブルの克服、競い合うスリル、わずかなミスが命取りにもなるスピード……いかにもルパンが挑戦し甲斐を感じるそうなものである。
そもそも、ルパンの何よりも好きなものは、多分「挑戦」そのものなのである。
不可能だと思われること、罠だと分かっていることに、敢えて挑み、自らの力と才覚で乗り切り、不可能を可能にする。
そんな挑戦を愛し、挑戦がルパンの人生そのものだと言っても過言ではない。

ルパンは、あの気質から考えても嫌いなことをイヤイヤでもやるタイプではない。
実際、「盗み以外にはモノグサなヤツだ」と次元に評されているルパン(新ル1話)。
あまり好きでないこと、興味のわかないことには、とことん動かない様子が想像できる(笑)。
ルパンは自分の力で、自分の好きなことだけをする人生を選んでいるわけで…そう考えると、なお一層ルパンをカッコイイと思ってしまうのであった(^^)。

(2002.2.19)


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