第4話 脱獄のチャンスは一度


誇り高き悪党

Rankingのコーナーでは、旧ルの中で一番好きな作品に選んでいるくらい、個人的に大好きな作品。
どこが良いのかといえば、ルパンがきちんと誇り高い「悪党」・アウトローとして、大変魅力的に描かれているからである。
勿論、この作品の魅力はそれだけではない。
後で語るが、次元のルパンに対する究極の信頼関係も見所であるし、またルパンが死んだと勘違いした不二子が彼の死を本気で悼んでいるシーンも見逃せない。

また、何と言ってもルパンと銭形の(特に銭形側の)愛憎相半ばした奇妙な関係が最大のポイントの1つであるとも思う。
そういう場面も、実は大好きである。

が、やはりルパンのダークな一面を前面に押し出した作品は、この旧ルですら後半はまったく見られなくなる。以後ルパン作品が次々製作されていく中で、ダークなルパンはほとんど描かれることはなくなっていく。
そういう意味で大変貴重な回である。

この作品があまり好きではないという人は、ルパンが銭形に対して、「復讐」しようとしている部分に抵抗を覚えるのかもしれない。
しかも1年もかけて執念深く!
だが、私には逆にそれが非常に魅力的なのだ。
ルパンは基本的に「悪党」なのだ。安っぽい正義感や義務感などから無縁であるからこそ魅力的な「悪党」。
そして何より、天才的であるゆえの高いプライドの持ち主。
これが傷つけられた時、失われた誇りを回復するために、その原因となった銭形に復讐しようとしてもなんの不思議もない。

やられたらやり返す。しかもやられたのと同じくらいに、または同じ方法で。
これはルパンのいつもの手である。新ル時代になってからさえも、しばしば見受けられる。
だから、まだ若き日のルパンが、唯一のライバルである銭形に、自分が味わったのと同じくらいの屈辱を味合わせたいと思うのは、いかにもルパンらしいと言えるのだ。

さらにこの脱獄劇は、ルパン自身の言っているが自分の命を賭けたスリル溢れる「ゲーム」なのだ。
生か死か。
負ければ即、死につながるゲーム。
こうしなければ、失われた誇りは回復できない。
無理をすればいつでも脱獄できたのに、敢えてそうせず、ほんのわずかなミスさえも命取りになるような、ギリギリの瞬間に賭けるゲーム。
ルパンは実際、その際どい賭けを、命がけのスリルを楽しめる男であり、またそうまでしなくては他愛のない失敗をして屈辱を味わってしまっ己を許せない、まさに誇り高い悪党なのである。


ルパン対銭形

建設中のダムの下に眠るお宝が、今回のルパンのターゲットだった。黒装束に身を包み、顔には靴墨を塗ってかなり真剣に事に臨んだルパン。
が、銭形にその作戦は完全に読まれていたようで、ルパンが宝の箱を掘り出した時すっかり周囲を囲まれてしまっていた。
銭形は遠慮なくルパンに銃弾を打ち込む。
倒れるルパン。衝撃的なシーンである。宝は次元と不二子が運び去るが、ルパンは警察の包囲の中倒れ伏したまま残される。

が、これは麻酔弾。
ルパンは生かしたまま逮捕され、護送される車の中で散々銭形にいたぶられることになる。
「どうして本当に殺さなかったんだ」
若きルパンの屈辱と怒りに満ちたこの独白に、新ルからルパンを知り、明るく軽いルパンに慣れていた私はびっくりしたものだった。

銭形にからかわれたルパンは、些細な仕返しをして銭形をヒヤヒヤさせるが、それだけでルパンの気持ちがおさまるはずもなく、1年にも及ぶ、自分の命を掛けたゲームが開始されるのだ。

ルパンの宿命のライバルであり、捕らえることだけを生き甲斐にしてきた銭形は、護送車の中でこそご満悦だったものの、次第に奇妙な焦燥感と苛立ち、不安を覚えるようになる。
なぜなら、脱獄にかけても天才的なルパンが、「自分はルパンじゃない!」と狂ったように叫ぶ以外、何一つしないからだ。

この銭形とルパンの関係も、この話以後描かれることのないくらいハードなものだ。
決してこの2人は馴れ合ったりしない。
お互いの実力を認め合っているからこそ、憎しみにさえ似た感情さえも抱く(特に銭形は)。けれども、抱く思いは相手への憎しみだけではない。

銭形は、ルパンの実力を誰よりも理解し、高く評価してきた。
敏腕警部の自分が、なかなか捕らえることが出来ず、何度も取り逃がし、苦い思いばかりさせられてきたルパン三世。
その彼が、刑務所から逃げ出そうともせず無意味に叫ぶだけ。
銭形の心中は、これ以上ないくらい複雑だったろう。

長年の苦労がようやく報われたのだから、そして「大犯罪人」が捕まり世間が少しだけ平和になったのだから、逃げられたらたまらないという、刑事としてのごく真っ当な思い……
一方、自分があれだけてこずった男が、どれだけ厳重な警備を誇る刑務所からだろうと逃げ出さぬわけがない、という奇妙な期待。
銭形は、ルパンに逃げて欲しいみたいだと刑務所職員からからかわれ、ルパンとはいえ逃げられっこないと言われると、激怒する。
不可能であればあるほど、やつは燃える、大したヤツなんだ!と叫ぶ。
死刑の時期が迫れば迫るほど、銭形の不思議な苦悩は深まってゆく。「このままでは、納得がいかん……」
銭形はやはり逃げて欲しかったのだろう。
自分の唯一のライバル、生き甲斐は、この程度のことでアッサリ死刑になったりしないのだと信じていたから。

死刑当日、ルパンが脱獄したとの声に、やはり喜ぶ銭形。
が、そこには相変わらず「オレはルパンじゃない」と叫ぶ男の姿があるだけ。
銭形は「ガッカリさせられた」と怒りと失望を隠せない。
が、ご承知のように、ルパンはこの時のためだけに、自分はルパンじゃないと叫んでも周囲が信じることが決してない状況を作り出すよう、1年かけて仕組んでいたのだ。
一年間延ばし続けていた髭と髪を利用して、そして身体検査で唯一見逃されていた刃物になっている「爪」を武器に、刑務所職員とルパンはこうして入れ替わった。

ちなみに、土壇場で、職員に化けたルパンが死刑方法について口を滑らせるシーンがある。
それがキッカケで銭形はルパンが入れ替わったと気づくのだが、これはルパンがわざとやったと思いたい。
確かに「シマッタ」という顔はしているが(笑)
そうしなくては、無関係な職員がルパンとして死んでしまうからだ。
ルパンは善人では決してないし、自分を狙った人間を殺すことに躊躇わないけれども、むやみと人を犠牲にするような残酷な人間でも、またないと思う。
それはルパンのヒューマニズムの表れというよりは、彼が盗み等の命がけのゲームをするに当たって、彼自身に課したルール、または美意識なのだと思う。


相棒

そして、絶対に見逃せないのが、和尚に化けた次元と、獄中のルパンの邂逅シーンである。
1年間ずっと、次元は相棒を信じていた。
宝の箱の鍵はルパンだけが知っているから……と不二子は何度もルパンを脱獄させようと試みる。
が、そのたびに次元は不二子を引きとめた。「ルパン様の昼寝の邪魔さ」

次元は、相棒・ルパンがきっと屈辱を味わったであろうことを察していたはずだ。だからこそ、ルパン自身が脱獄してくるまで待った。
勿論、ルパンの実力なら、手助けしなくてもいつでも抜け出せるだろうとの、絶大な信頼感があったろうし、時間がかかっているのもルパンなりの企みがあってのことと思っていただろう。
が、それ以上に屈辱を「ルパン自身の手で」晴らさなくては、誇り高い相棒が決して納得しないことも知っていた。だから、しつこいほどに不二子の邪魔をしたのではないだろうか。

それほどルパンを理解し信じていた次元だが、さすがに死刑当日となるとじっとしてはいられなかったようだ。
ルパンの元に通う坊主に目をつけ、彼に成り代わって獄中に潜入する。

そこで次元はルパンの意思を確かめる。
ルパンはただ、「ゲームを楽しんでいるんだ」というばかり。
素手では何も出来まい、と自分のマグナムを差し出す次元。だが、ルパンはそれすらも断る。
ルパンの作戦と、そして刑務所の中で1年間何があったかを知らない次元にとって、丸腰でこれから30分のうちに脱獄するなどとても不可能に思えただろう。
だが、次元はルパンの言う通りにする。

「お前は生まれつき贅沢なんだよな、好きにするさ」
カッ、カッコイイ〜〜!!
これ以上、ルパンと次元の関係を表している言葉があるだろうか。
幼馴染であり、ルパンの才能に心酔する、ルパン唯一の相棒。次元だからこそ言える台詞である。
そして、最後に次元を呼び止め、煙草を願うルパン。
ルパンが煙草を吸う間、2人は、目と目でしっかりと語り合っていた。これ以上ないくらい、しっかりと。一歩間違えば、この世で最後かもしれない邂逅。
2人が何を語っていたか、私が勝手に推測し書いてしまうと野暮になるので敢えて書かない。
だが、この2人のシーンは旧ルのNo1シーンと言いたいくらい、最高に好きなシーンである。

次元は刑務所の前で待っていた。
死地を抜け出してきたルパン、そして生還を信じて待っていた相棒・次元。再会を果たした2人の挨拶が、ごくアッサリしているのもすっごくいい。
結局、あんなに苦労して手に入れた宝は、隠しておいた場所が悪く、爆発してしまいわずかな小判が降って来るばかり。
だが、その後のルパンと次元の一服……「御仏の慈悲だ」、そして馬鹿笑いしながら楽しそうに去っていくシーンは、この重くなりがちな話のラストを、爽快にものにしてくれる。

そして忘れてならないのが、その少し前の不二子の独白シーン。
ルパンが生還したことを知らない不二子は、1人涙を流しながらルパンの死を悼む。
誰に見せるわけではないその時の涙は、不二子の真実のものであろう。
大切だったのは、貴方が一番。本当よ。
そう呟いて遺品(と思っている)ルパンの愛銃を海に捨てる。
やはり、ルパンと不二子も相当強い絆で結ばれているのである。


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