第20話 追いつめられたルパン


風が吹いたばっかりに

珍しくルパンが愚痴る。
あの時風が吹きさえしなかったらと。
そのくらい、徹底的にルパンは追いつめられてしまっていた。
天才ルパンですら、打つ手がなく、つい愚痴がもれてしまう。今回は相当に危機的状況なのだ。

古びた城にたった二人で立てこもったルパンと不二子。
周囲を戦車まで持ち出した数千人の軍隊に囲まれ、武器といえば弾の尽きかけたワルサーP38のみ。
城内に脱出装置になりそうなものはまったくなく、抜け出そうにも周囲には蟻のはいでる隙間もない。
今回はルパンも変装道具などの仕込みもしていないらしい。
ルパン得意の舌先三寸も、不二子の色仕掛けも利きそうにない。相手は狂信的に独裁者の命令に従う軍隊なのだ。
特技、武器、ともにほぼ完璧に封じられてしまった……。

事の発端は、まさに風。
ルパンたちは某軍事独裁国家に潜入していた。
ターゲットは、その国で絶大に権力を誇るハトラーの勲章についている、50カラットのルビーだ。
ハトラーは、あのヒトラーの戯画のごとく大勢の国民の前で演説をぶっている。
そこを狙い、ルパンは気球から釣り糸を垂れ、こっそりとルビーを釣り上げる予定だった。

そして、そこにあの風が吹く。
狙いの定まらなくなったルパンの釣り針は、ルビーではなく、ハトラーのカツラをつり上げてしまうのだ。独裁者がひた隠していたツルツルの頭が「大衆」の前にさらけ出される。
大衆の前で恥をかかされた独裁者は、言うまでもなくその原因となったルパンたちの抹殺を命じる。

逃げるルパンたちだが、次元が負傷してしまう。その次元を無事逃がすため、ルパンがおとりとなる。
一人戦うルパン。
そのルパンの危機に、ルパンの背後からのマシンガンが敵を一掃する。
逃げたはずの不二子が、ルパンを救いに戻ってきていたのだ。
なぜ戻ってきたとたずねるルパンに、不二子は笑ってこう答える。
「気まぐれかしら」
カッコイイ〜ッ!

ルパンのために戻ってきた不二子。こうして二人は古城に立てこもることになったのだった。


覚悟

ルパンと不二子の関係ほど、平凡な人間の私にとって難しいものはない。
特に不二子の気持ちはなかなか量りがたい。
詳しくは「Character」の不二子のページで考えることにするが、とにかく謎の女である。

しかし、この回で不二子の真の気持ちが垣間見れる。
そしてルパンの不二子への気持ちも。
ルパンは不二子だけは何としても助けようとする。犬死するのは俺一人でたくさんだと。そのためには不二子にワルサーをむけさえするのだ。
不二子はそんなことに同意はしない。が、ルパンの意志があまりに強かったため、一度はルパンの元を去り脱出しかけるが、結局ルパンたち二人とも助ける気のまるでないヘスの刺客に襲われたことによって頓挫する。
いよいよ死を覚悟した不二子は、どうせ死ぬのなら、ルパンの手で殺して欲しい。そう望むのだ。

不二子はもっともっと往生際の悪い女だと誤解していた。
ピンチになると有利な方に寝返ることなど何度やってきたことだろう。
生き残るためなら手段は選ばない。不二子はそんなしたたかにたくましい女だと思っていた。そこが好きでもあるのだが。

が、今回ばかりは寝返ることすら不可能な絶望的な状況。勿論、抵抗もせずに諦めて殺されてしまうような弱い女ではない。
出来る限り戦い抜き、殺されるにせよ一矢報いようとする、凛々しさがある。
が、それすらもとうとう限界に来た時…
そんな時に見せる不二子の散り際の美しさはどうだろう。

普段、寝返ったりする時は、可能性があるときなのだ。不二子の頭の中では常に冷静に、したたかに、生き残ることを計算している。
少しでも可能性があるうちに諦めたりしない。不二子はそんなに弱い女ではない。可能性ある限り徹底的に戦い、生き抜く。
しかし、冷静に客観的に計算した挙句、どうしても生き残れないと結論が出たとき、不二子の選んだ道は、ルパンに殺されることだった。
愛する男の手で死にたい。
ある意味女の究極の望みでもあるかもしれない。
そして不二子にそう思わせるほどの男、ルパン。
ルパンもいよいよという時には、不二子を殺して自分も死ぬ覚悟をする。
弾は2発だけ残したぜ……。ルパンはそう言って笑うのだ。

ルパンの誇り高さも非常にカッコイイ。銭形がせっかく、逮捕することで二人の命を助けようとしていてくれたのに、あっさりと撃退してしまう。
逮捕さえされれば、この窮地はとりあえず逃れられたのに。
捕まることを潔しとせず、ライバルの銭形の「助け」を拒否し、あくまで己の手で結末をつけたがるルパンなのだった。

この回の二人の関係は、個人的に理想の「ルパンと不二子」である。
裏切り、出し抜き合ってはいるが、いざという時には共に死ぬ覚悟が出来る関係。
愛し合っている、という言葉では言い尽くせない、究極の男女の関係のように思える。



次元と五右ェ門

この話のテーマは、ルパンの泥棒テクニックでも、見事な脱出劇でもない。
ひたすらルパンと不二子の関係なのだ。
この回は、非常にメリハリのきいた作りで、テーマの部分はあくまでも緊張感漂い、そして美しく。
そしてそれ以外の部分はかなりコミカルなノリになっている。

だから敵方の独裁者ハトラーは道化である。
「あんたが大将」を聞きながら、地球儀をもてあそびつつ踊り狂う。
こっけいなチョビヒゲ。ハゲた頭部をひた隠すような見栄っ張りの屈折したナルシスト。

何はともあれルパン・不二子の脱出方法は、その道化者ハトラーの、そしてそんな男に支配される独裁国の性質を生かしたものだった。

ルパンは次元たちは無事に逃れたと思い、救出をあまり当てにしていなかったようだが、何とか危機を逃れた次元と五右エ門がルパンを放っておくはずはない。
ルパンが不二子と死ぬことを覚悟していたと知ったら、次元は水臭い!と内心面白くないのではあるまいか。
相棒が助けに来ないはずはないのだ。
ルパンと不二子が戦っている間、次元と五右エ門は夜の町じゅうを駆け回り、シーツなど布切れを盗みまくる。それで脱出用の気球を作っていたのだった。

ハトラーへの徹底した崇拝を逆手に取り、デカデカとハトラーの肖像画を描いた気球。それでルパンたちを救いにくる。
軍隊は「総統」へ銃を向けることが出来ず、ただひたすら気球に向かって敬礼しつづけるのみ。(笑)
偶像崇拝に近い独裁国家のこと、ナルシスト・ハトラーは己の肖像画、写真など自分の姿を模しているならどんなものにもすべて崇拝・敬礼を義務付けていたのだろう。それを破ったものには相当厳しい処罰が科せられるに違いない。
ルパン抹殺の指令を破ることになるのがわかっていながらも、敬礼しつづける軍隊。
ルパンたちは気球に乗って、悠々と脱出していく。
あまりにも己への崇拝を義務付けたハトラーの負けである。

ルパンが無事逃げられて、今回ばかりはとっつあんも嬉しそう。
独裁者なんかに殺されてたまるか、捕まえるのは俺だという思いだろうが、心のどこかでルパンが無事だったことを純粋に喜んでいる気もする。

ちなみにこの回では次元と五右エ門の貴重なお裁縫姿が見られる。
次元は裁縫が苦手なようだ。得意じゃなくて良かった。(←なんとなく個人的感想(笑))。
そして五右ェ門。今回の殊勲賞は彼ではないだろうか。
二人の会話から察するに、気球のアイディアを考えたのは五右ェ門のようだし、あの似顔絵描きの才能!大胆な作戦を実行する度胸、意外な才能までももっている、つくづく奥の深い男である。


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