第146話 ルパン 華麗なる敗北


天才少年

いつもこまっしゃくれた子供ゲストキャラが出るたびに言ってるし、また今回は作中でも次元がしっかり言ってくれているのだけれど…
どれほどの天才だろうと、少年とルパンが対決して、たとえ勝ったところで「ルパンの名声に箔がつくわけじゃない」。むしろ勝って当たり前、負けることなど あってはならない。子供相手に必死になっては、勝ったとしても興ざめで、要するに「対決物」としては決定的にスリルや迫力に欠けるのだ。
それがこれまで私が感じてきた事だし、今でも子供キャラとの対決には付き物のマイナス側面だと思っているが、この作品はそれを逆手にとったかのような作りになっており、勝ちを譲る大人のルパンが粋でカッコイイ。
物語の中で、「薬で作られた天才」ロマノフの境遇と、わざと負けたルパンの考えがきちんと結びついているし、作品の雰囲気が変なお涙頂戴モノになってないのも良い。


冒頭では、ナショナル銀行を襲い、金塊を強奪しようとしていたルパンと次元。地下から接近し、金塊が納められている金庫へ潜入した二人だったが、目的物はすでに別の場所に移され、金庫は空の状態であった。
しかもそこにはルパン宛のメッセージが。
金塊を金庫から移したのはその人物であり、また次に狙うのは「ルパンが一番大事にしているもの」だと手紙の中で宣言している。まさに挑戦状なのだ。

…「ルパンの一番大事なもの」と書かれ、真っ先に不二子を思い出すルパンもツボだし、この手紙の主・ロマノフも「さすがルパンと不二子のことをよくわかってる」と褒めてやりたくなる(筋違い・笑)

その不二子は、ロマノフとラスベガスのカジノで、ルーレットをしていた。しかも大当たりを連発。
五右ェ門も含めて三人でベガスまで行ったルパンは、しばしロマノフと不二子の様子を見ている(三人でバーカウンターに座ってる様子がイイv)。
次元が「不二子と一緒にいるのはガキだぜ」と言い、五右ェ門はさらに「あんな子供がお主に挑戦するとは思えん」と手紙を書いた人物として否定的発言をしているが、ルパンは「子供でも男は男だ」と答え、二人に近づいていく。
相手は子供だと分かっていても、男は男だというルパンを、大人気ないとは思わない。むしろ「生まれながらの天才」である自分が、かつて極めて油断のできな い少年だったことを思えば(原作を元に妄想)、この時点で本気で相手にしてはいなかったにせよ、子供のロマノフを頭からバカにしてかからないルパンの油断 のなさが、私は好きである。

ロマノフは手帳に鉛筆という、現在から見るとかなりアナログなモノで計算をしている。
ルパンは「計算なんかで目がわかるくらいなら、誰もギャンブルで損なんかしやしねぇやな」と、ちょっと挑戦的な言葉を吐くが、二人は相手にせず、しかもロマノフは「不二子」と呼び捨てにし、「赤の1に賭けなさい」などと、大人顔負けの生意気な態度で不二子に接していた。
不二子もそれを何の抵抗もなく受け入れている様子。

それに対して文句を言ったルパンに、不二子はさらに素っ気ないし、ロマノフに至っては「無知な人間に多い直情型タイプですね」とバッサリ。
…て、天下のルパン三世相手に「無知」とはなんだーーー!!と、子供の頃の私はここでいつもルパン以上に怒っていた。←典型的無知な直情型タイプ(笑)
ちなみに、このシーンでロマノフが薬を飲んでいるのが、この話の重要ポイントである。

ロマノフの計算には懐疑的だったルパンだが、次の目も見事的中。不二子はさらに大儲けし、頬にキスまでするほどの喜びよう。
ルパンは偶然だと言うが、ロマノフは偶然もとことんまで突き詰めれば規則性があり、それを調べるのが科学者たる自分の仕事なのだと言い切る。
ルパン相手になかなか気骨のある少年じゃないかと、改めてみると個人的にはロマノフ嫌いじゃなかったりする^^。また、感情的になったルパンにさらりと毒 舌吐いた直後に、科学に関する話になると自分もムキになって言い返してる辺り、歳相応の子供らしさもあるように見えて、そんなところも好印象。


カジノから出てテラスで話を聞いてみると、この少年、やはりタダモノではなく、すでにロシア国立アカデミーのドクターで、10の博士号を持った天才少年科学者なのだった。
だが、ロマノフが次に論文を書く予定だという「盗みの科学」について言及すると、やはり根っからの泥棒の血が騒ぐのか、ルパンは真正面から言い返す。
「盗みは科学じゃない。立派な芸術だ」と。

92話でも、(ピッコロ夫人を騙すために曖昧に、ではあったが)「時折芸術家と呼ばれることもある」といった内容の返事をしているし、133話では「盗みの美学」に言及しているルパンらしい答えなのかもしれない。
単に機械的な計算“だけ”では、大胆かつ華麗な盗みが不可能なのは、これまでのルパンの活躍を見ればわかることでもある。
何でも手帳で計算してやってのけられると思っていそうなロマノフに、思わず言い返したくなるルパンの気持ちはよくわかる。

とはいえ、こんな小さな子供の挑戦を、ルパンは当初受ける気はなかった。が、不二子が「賞品は私」だと言うや、途端に乗り気になり、すでに勝った気でデレデレした顔つきになるルパン。
すかさず、隣のテーブルから「ケッ、芸術が聞いて呆れるよ」と不満そうな声をあげたのは、もちろん次元である(笑)

そこへ、突然の襲撃があった。物陰やホテル内からの狙撃だ。
ここではルパンの早撃ちが見られて非常に良い。木陰に潜んでいた敵を素早く撃退。もちろん次元もじっとしておらず、窓からのスナイパーを的確に仕留めてい る。五右ェ門も、最も接近してきた刺客を、斬ることなくあっさりと倒し、何者か白状させようとする。三人ともカッコイイ^^

さらには謎のヘリが現れると、五右ェ門が口を割らせようとした男が爆発してしまう。
…ロマノフには襲撃者の正体はすでにわかっていた。
KGBのエージェントたちなのだった。あの男の身体に仕掛けられていた爆弾も、ロマノフが開発したもので、口を割らないように身体に仕掛けられていたものなんだとか。
KGBはアメリカへ亡命したロマノフを、国家の裏切り者として、消そうとしているのだという。
そう、平然と言ってのけるロマノフに、ルパンは軽い驚きの表情を見せていた。


負けない方法

さて。この回でちょっと意外なのが、不二子と銭形二人の面談シーンがあることである。
なぜか不二子は、銭形にロマノフとルパンが対決するという事を報告している。
勝負の話を聞いた銭形は、自分が人生を掛けて追っているルパンが、子供ごときに負けるはずはないと笑い飛ばしているが、それに対する不二子の返事が恐ろしい。
「ルパンを殺すのに拳銃はいらないわ。独善とプライドを打ち崩せばいいのよ」
ある意味、的確にルパンの性格を分析しているとも言える。
普段のルパンならば、仮にプライドをコナゴナにされたら、断固復讐を果たすはずだが(典型的な例としては、旧ル4話)、「対等なライバル」「対等な敵」で はない、見るからに格下の「子供」相手に本気で負けたら、復讐することすら恥の上塗りになるだけだし、今回ばかりは不二子の言ってることにも一理ある。

不二子は、勝負内容――日が暮れる前にどれだけの大金を集めることが出来るか──を銭形に告げ、この街で盗みを働くはずのルパン逮捕のチャンスだとけしかけている。
しかも不二子はこの勝負、ルパンの負けは確実、CIAからもそういう情報が入っているのだと、謎の言葉を残して去っていく。銭形は不二子が何か隠していることには気づくものの、そのまま彼女を見送るだけだった。

以前はこの回の不二子の考えが、個人的にはちょっと把握しにくかった。で、今回の再観賞で考えたのは……
「私はお金と強い人が好きなの」と言ってる通り、今回ばかりはロマノフに対して、ルパン以上に重きを置いていたのかもしれない。CIAから「天才を作る薬」の威力がよっぽどすごいとの情報を得て、今回はそちらに賭ける事にしたのだろう。
それで、ルパンのやる事は銭形に妨害させて、ロマノフで一儲けしようとしていたのかも。(実際カジノでは無敵だったし)
だがそれだけでなく、CIAのエージェントと接触し、ロマノフの「天才になる薬」を探し出し、どうやらそれをアメリカ側に売り渡そうとしていた気配もある(後述)。
なので、ロマノフに心情的にべったりだったわけでなく、利用できる天才少年として常にロマノフ側についていた可能性も高い。
「敗北者のルパンに興味はないわ」というクールすぎる台詞は、聞いててちょっと寂しいのだけど(もっとルパンの生まれながらの天才性を信じてよ!笑)、それだけこの時点で掴んでいたロマノフの天才ぶりの情報が、ずば抜けたものだったのだろう。

日が暮れるまでに多額の現金を集めた方が勝ち。そのルールの元に勝負開始。
ロマノフと不二子は、相変わらず天才少年の計算に基づいてカジノで勝ち続け、大金を入手しまくっている。
一方ルパンはカジノや、銀行を次々と襲っている。こんな時、泥棒のルパンの方が有利かと思いきや、その逆。
カジノで大勝したロマノフのせいで、どの銀行の金庫もすっからかんになっていたのだ。この街の銀行はどこも同じ状態だと聞き、苛立ったルパンはわずかに金庫に残ったコインにマシンガンをぶっ放す。
袋からザラザラとあふれ出したコインを見て、ルパンはひらめく。(ルパンのひらめきシーンはとっても好き!!)

実は後半のダイヤの泥棒合戦よりも、このルパンのひらめき・発想の転換がこの話の中で最も好きな箇所なのだが、それを書く前に余談をば。
銀行強盗をする際、なぜかルパンは顔の下半分をハンカチで覆ってる。27話でも銀行を襲う時にはハンカチ覆面をしている。
何か「銀行を真正面から襲うときはこのスタイル」という拘りでもあるのだろうか(笑)。ちなみに、わざと捕まる目的でやった25話の銀行強盗の際は、覆面はしていない。


で、本題。
銀行から出たルパンの元に、次元と五右ェ門がロマノフがすでに5000万ドルを集めたと伝えに来た。
五右ェ門が静かに言ったように、タイムリミットがある以上、遠くの街まで行ってお金を盗んでくる余裕は残されていない。
街に現金がまるでないのだから、ルパンといえども盗みようがない。
普通だったら、それでもタイムリミットまでどうにかして多額の現金を集めようと策を練りそうなものだが、この時のルパンはあっさり発想を転換させた。
「勝とうとさえ思わなきゃ、負けないようにする方法はいくらでもあるもんだ」と。
勝つ事にこだわりすぎて負けるよりも、「負けない」事を最優先させたのだ。
この発想方法が非常に好き。これは勝てそうもないと見切りをつける速さもさすが。プライドが高ければ高いほど、こういう切り替えは、出来そうでいざとなるとなかなかできるものではない。そう思うと、ルパンの頭の柔軟さに痺れっちゃう(笑)
そんでもって、このルパンの言葉を聞いた時、次元と五右ェ門が顔を見合わせて「え?」と小さく呟くのもツボ。

早速ルパンは次の行動を開始。カジノのスロットマシーンを破壊し、次々とコイン奪っていった。さらには、自動販売機の小銭も片っ端から吸い込んでいく。
この時、バキュームカーでコインを吸い込んでいるのだが、着用している服が明らかに旧ル16話を意識したもの。こういう遊び心も楽しい。

そこで偶然にも煙草を買おうと立ち止まった銭形と、バッタリと顔を合わせてしまう。
銭形は「いつから小銭泥棒に成り下がったんだ」と怒鳴るが、ルパンは時間がないため、銭形の相手をせずにとっとと逃げていってしまう。
当然執念の人・銭形はバキュームホースにしがみついてくるが、コインを吐き出してその勢いで銭形を撃退し、去っていく。銭形を埋もれさせた山のようなコイ ンを見るたび、「せっかく集めたのにこんなに置いていっちゃって…後で拾いに来たのだろうか」と、下らない心配をしてしまう(笑)

そしていよいよ約束の時間。ルパンはバキュームカーでなく、大型トレーラーに乗り換えて時間ちょうどに現れた。
ルパン登場の時、五右ェ門が何気にいい笑顔で迎えてるのが地味にお気に入りシーン。途中経過までは知ってる相棒たちは、ルパン不利だと知っていたはずだが、彼なら何か考え出したのだろうと、信頼の笑みのように見えるのだ(妄想しすぎ?)

ルパンは大型トレーラーの荷台から、コインを大量に溢れ出させる。
不二子はコインなんかいくらたくさん集めたって何にもならないと言い、5000万ドルを集めた自分たちの勝ちを主張したそうだったが、さすが冷静で論理的な天才少年は違った。
ロマノフは大雑把に見て10万ドル程度と見積もったが、ルパンが言うようにしっかり数えたら「もしかしたら5000万と1ドルあるかもしれない」のだ。
この量のコインを正確に数えきるには、14年と9ヶ月と18日はかかると素早く計算したロマノフは、集めた金額を正確に数えられない以上、ルパンの主張の可能性を否定しきれない。よって、勝負は引き分けだと引き下がる。

「敵ながら見事な作戦というべきでしょうねえ」と上から目線の態度には個人的に少々腹が立つが(ルパンが呟くようにガキに褒められたって嬉しくもなんともないや!笑)、公平で論理的なロマノフの態度は潔くて、なかなか悪くない。
何といってもルパンの発想が素晴らしい(何度でも絶賛!)
勝負の相手が、計算を得意とし、正確さを極める科学の信奉者だと知っていて、こうした「負けない方法」を取ったからだ。

お互い一歩も譲らない天才同士の対決に、次こそ決着をつけさせようと、不二子はさらなる提案をしてくる。
今度はダイヤの大きさで競わせようというのだ。ダイヤの大きさなら一目瞭然というわけだ。24時間後に同じ場所に、より大きいダイヤを持ってきたほうが勝ちという勝負。
ルパンとロマノフはそれに同意する。

ここで次元が、子供との対決を止めるように「勝ったところで名が挙がるわけでもねぇぞ」と口を挟む。さらに後のホテルのベランダでのシーンでも、子供とルパンの勝負にあまり乗り気でない発言をしている。
次元は普段からの態度や過去の様々な言動から察するに、とにかく「ルパン三世」という稀代の大泥棒が大好きであり、その名に相応しい仕事をして欲しい・一 緒にやりたいと思ってるので、こういう口出しをしたのだろう。確かに、子供に勝ったところで、ルパンに得るものなどないのだ。
だがルパンは、たかが子供の挑戦を受けなかったと言われるほうが物笑いのタネになると、俄然受けてたつ姿勢だ。
「男の意地だ」とも言っている。ルパンはロマノフを「子供」だと思いながらも、先も言ったとおり「子供だって男は男」として見ているし、そして才能ある男であると認めたのだろう。


この翌日、不二子はCIAのエージェントと遊園地で接触する。デートに見せかけて怪しまれないように、という事なのかもしれないが、ジェットコースターやトンネルの暗闇を怖がって大騒ぎするヘタレエージェントは、それだけで充分目立っているような気がする(笑)
ユーモラスな“デートシーン”だが、話している内容はかなり深刻。

ここでロマノフが、ロシアが開発中の「天才を作る薬」を服用して、幼くしてあれほどの頭脳の持ち主になった事が明かされる。
そして、その薬を本当にロシアが完成させたのなら、ありとあらゆる分野で天才を輩出させるだろう。となると、当然軍事的技術も格段に進歩し、アメリカとソ連という大国同士のバランスが一気に崩れてしまう。それは、世界大戦へ至る可能性すら秘める重要事項なのだ。
そのカギを握っているのが、あのロマノフ。
KGB側としては、絶対に薬の秘密をアメリカ側に渡したくなくてロマノフを亡き者にしようとしているし、CIAとしては何としてでも天才を作る薬を手に入れ、ロシアに出し抜かれないよう必死である。

また、遊園地での会話の中から、不二子はロマノフが普段から服用している薬をすべて持ち出し、CIAに渡していたことがわかる。
だが、CIAはその薬はすべて普通の抗生物質でしかなかったと答える。彼はかなりの頻度で薬を服用しているが、それは天才になる薬ではなかったようだ。

やはり今回の不二子は、ロマノフの才能を利用しカジノで大儲けすると同時に、彼の秘密を手に入れてアメリカからも利益を得ようと画策していたのだと考えられる。
この回の不二子は、単にルパンより「オイシイ」存在が現れたから、軽薄にそっちに乗り換えたという単純な考えをしていたわけでなく、女スパイのような活動もしていたのだ。
そう考えると、この回の不二子のドライな態度もまあいいかな、と思えてくる。(個人的に、自力で動き、自力であれこれ考える、自立した不二子が好きなので^^)

その話を、遊園地の汽車の背後から聞いていたのが、次元と五右ェ門。
今回はルパンとロマノフの一騎打ちなので、相棒は勝負に関しては余計な手出しをしていないが、何気に情報を集めるなどのサポートをしてくれているところがナイス。
事情を知った次元や五右ェ門が言っていたように、単なる一個人の天才同士の勝負かと思いきや、米ソの情報合戦にまでつながっていた。そのことに、驚いている様子だ。こんなことになるから不二子が持ってくる話はロクなもんじゃないと思われるんだろうけど(笑)。
…それはそうと、米ソ冷戦を背景にしたこの話、今の若い人にとっては「冷戦?歴史の授業で聞いたことがある」になってしまうのかしら(^^;


敗北

ホテルのベランダで、ルパンは優雅に日光浴をしていた(ルパンはヒルトンホテルに滞在中^^)。
そこへ戻って来た次元と五右ェ門から、ロマノフが薬で作られた天才少年だと聞いても、ルパンの態度はあまり変わらなかった。勝負も勿論、やる気である。
ロマノフの止まっているホテルの室内を双眼鏡で覗きつつ、次元はまたしてもルパンの名声に箔がつかない勝負なのだから…と、気乗りしない様子を隠さないが、ルパンの意思は固い。
「俺は生まれながらの天才よ。薬で作られた天才なんかに負けてたまるかってんだ」という台詞がいかにもルパンらしくて良い^^
そして今回の勝負は明らかに自分に有利であると説明する。

大きなダイヤの所有者は、大抵道楽か名誉のために持っているもの。そういう人間相手には、どれだけ大金を積んでも売ってくれない。
となると、盗むしかないというわけだ。そうなれば、盗みのプロ、世界一の大泥棒ルパンが勝てないわけがないのである。

一方ロマノフも自分の計算で、ルパンが狙うダイヤモンドを割り出していた。アメリカにある最も大きなダイヤモンドである「アメリカの星ナンバー1」だ、と。
どうやって数式でわかるんだろ??と、かなり不思議ではあるが(笑)、ルパンと同じ筋道で物事を考えれば「盗む」以外の選択肢はないのだろうし、また今回 の勝負にもタイムリミットがあるのだから、遠方まで盗みに行く時間もない。となると、おのずとルパンが狙うダイヤも推測できたのだろう。

2000カラットのダイヤの原石から、3つに分けてカットされたというアメリカの星。ナンバー1、2、3と三つが並んで博物館に展示されている。
名前の通り1が一番大きく、次いで2、3と小さくなっていく。要するに、ナンバー1を手に入れさえすれば勝てるのだ。


ルパンがアメリカの星を狙うと知った銭形は(またしても不二子情報なのか?)、人海戦術で待ち受けるが、現れたのはロマノフ。
単なる子供だと思い、「風邪を引かないうちに帰りなさい」と諭すと、素直に歩き去るロマノフ。不二子から子供とルパンが勝負するとは聞いていても、この少年がそうだとは気づかなかったらしい。
ルパンの変装を警戒していたが、「さすがに子供には化けられないだろうから」と、ロマノフを見過ごす。
こんな少年がアメリカの星を盗もうとしていることなど知らないから当然だろうが……しかも銭形は基本的にルパンしか眼中にないので(笑)、ロマノフはあっさり警戒中の博物館に潜入することが出来た。

ルパンはといえば、銭形が警官隊相手に変装の名人だと注意を促していたというのに、その警官隊の中にすでに潜り込んでおり、しかもこの時は素顔に制服を着込んだだけであった(笑)
ロマノフよりも先に、アメリカの星が展示されている部屋に忍び込んでおり、少年のやり口を見守っている。
そのロマノフはどうも風邪をこじらしているようで、「風邪に効く抗生物質はないとすると…」と呟きつつ、またしても手帳で何やら計算している。
そして、「時間がない」と焦りをあらわにし、その計算したページをむしりとると、丸めて捨てて、宝石の方へと向かう。
彼の計算メモを拾ってルパンが覗き込んでみると、計算式の末尾には「十」と記されていた。
ロシア人であるロマノフが、漢数字の「十」を使うことを不思議に思いつつも、ルパンはさらにじっと少年の行動を見続ける。


宝石展示台は、次のようなシステムになっていた。防犯ベルが鳴ってから特殊盗難予防装置が、10秒間隔でナンバー3、2、1の順で作動しなくなる。…ナンバー1を盗むためには、その30秒のうちの、わずか10秒の隙に賭けるしかない。
それに気づいたロマノフに何一つ手出ししないよう見守りつつ、ルパンは内心で呟く。「盗みが芸術なのは、技術だけじゃダメだからだ」と。

ロマノフはルパンに見られていることに気づかず、順調にガラスケースのネジを開けていく。
警報が鳴っても冷静に秒数を数えていたロマノフだったが、ナンバー3を手にしたところで、ルパンが突如銭形の声色を使うと、警官らがやって来たと誤解し焦ってしまう。そして辛うじてナンバー2だけは盗んだものの、ナンバー1の解除を待てずに逃げ出してしまった。

するとようやくルパンが姿を現し、警報ベルが鳴り渡っているというのに余裕で宝石に近づく。
「盗みには技量と度胸が要求される」と言い、さすが年季の違いを見せ、あっさりとアメリカの星ナンバー1と、小さいから必要ないとロマノフに残されたナンバー3も「ついでに」と持って行く。
銭形の声ごときで驚いて逃げてるようでは、盗みの本質が分かっていないというルパンの台詞も興味深い。
要するに、捕まるか逃げられるか、そのギリギリのスリルを楽しむ事が、泥棒の醍醐味であると考えているのだろう。

その時、ロマノフと同じくクシャミをするルパン。「俺まで風邪引いちゃったな、付き合い良すぎるってんだよな」などと軽口を叩きつつ、鼻紙を探してポケットから取り出されたのは、先ほどの捨てられたロマノフのメモ。
改めてそれを見た瞬間、ルパンは先ほど漢数字の十だと思っていたその記号が、十字架のしるしであることに気づくのだった。

その直後、本物の銭形と警官隊らが部屋に入ってくるが、ルパンは素早く隠れ、まんまと警官隊に紛れ込んで逃げ出す。
この程度の盗みなら、ルパンには日常茶飯事。慣れたものである。
だからこそ、最初からロマノフに先んじてさっさと宝石を三つとも盗み出したりせず、少年がどこまで出来るかを見守り、そして銭形の声にどう反応するか試してみたのだろう。
ハナから完全に、ルパンの勝ち試合だったのだ。
ここでもしも、「盗みに必要」だとルパンが考えている「度胸」をロマノフが示し、銭形の声にも怯まずあと10秒持ちこたえ、アメリカの星ナンバー1を持っ ていったら、この場合ルパンはプライドが傷つけられたりせず、案外素直にロマノフの実力を認めたのではないか、という気がする。要するに、少年がルパンの 課したテストに合格したことになるのだから。
生憎ロマノフは失敗してしまったものの、盗みについては机上の空論しか持ち合わせていない、(ルパンから見たら)ど素人の少年が、ナンバー2を手に入れただけでも見事なものだと思ったのかもしれない。

そして、それに加えて、ロマノフの十字架の意味をルパンが知ったからこそ……


またしても夕刻の時、先だっての勝負と同じ場所に集まった5人。
ロマノフはアメリカの星ナンバー2を不二子に見せる。その時厚着をしているのに震え、非常に具合の悪そうである。
ルパンはといえば、「俺としたことがドジっふんじまって」と言いながら、アメリカの星ナンバー3を取り出すのだった。
「勝った、ルパンに勝った!」と喜ぶロマノフ少年。
「良かったなァ、俺に勝ってそんなに嬉しいか」とルパンが尋ねると、ロマノフはあどけないほど素直に頷き、「僕より優れた天才がいないとわかっただけでも……」と答える。すでに意識が朦朧としているように見える。
ちょっとでもあの明晰さが残っていれば、自分の後に盗みをおこなったはずのルパンが――盗みのプロのルパンが、ナンバー1を取り残すドジを踏みそうもない ことくらい、推測できそうなものだが、その時死に掛かっていたロマノフにはそんな余裕はなく、ただただ「自分が一番の天才だった」という、ある意味子供ら しい自負心に満たされていたのだ。
そして、精魂尽き果てたように、倒れこんでしまう。不二子が抱き起こすと、ロマノフはひどい高熱を出していた。

そこへ再びKGBのヘリコプターが襲い掛かってくる。
ルパンは不二子にロマノフを任せ、先に逃げるよう指示すると、応戦を始める。ルパンがライフルで戦うというのは、結構レアかも?
ルパンも次元もそれぞれ一機ずつヘリを仕留めるが、ここの見せ場は主に五右ェ門。身軽な身のこなしがすごくカッコイイ!
不二子とロマノフの乗った車に追いすがるヘリコプターを見咎め、そうはさせじと軽々と崖から飛び降りるようにして叩き斬り、あっという間にKGBを撃退してしまうのだった。
(この辺のバトルシーンの絵だけ、この回の中でちょっと異色。詳しい方々によると、どうやら青木さんが描いてるらしい。やっぱり!)


ところ変わって太陽降り注ぐビーチ。
ルパンはそこで、またしても日光浴をしている。やって来たのは、水着姿の不二子である。顔にかけていた帽子を取られ、一瞬眩しそうに顔をしかめるところが何気にツボ。

「ハァイ、ルパン」「ハァイ、不二子」というやり取りの後、話はロマノフのことに移る。
病院で何とか命は取りとめたロマノフ。彼の体力は極限まで落ちていて、ほぼ老衰に近い状態だったのだとか。
恐ろしく体力を消耗するという「天才になる薬」の副作用だ。その薬は、人が10年かけてやることを、1年でできるようするだけのものに過ぎなかった。幼くして、彼の身体はすでに老人になっていたのである。

どういう経緯でロマノフが「天才になる薬」を服用したのかはわからないが、いずれにしても物心つくかつかないかくらいの年齢で服用したのだろう。現在のロ マノフの年齢はハッキリしないが、見た目からして10歳程度か。薬を飲んだときから、1年が10年分に相当してしまう彼の身体にとっては、もう老境に入っ てても不思議ではない。
「開発中の薬」だとCIAも言っていたし、こんな重大な欠陥がわからなかったくらいだから、ロシアでは初の人体実験台だったのではと想像させる。皮肉にも その薬のせいで天才的頭脳を持ってしまったがゆえに、その薬の欠陥にいち早く気づき、間近に迫っている自分の死を覚悟していたロマノフ。
命を懸けて「生まれながらの天才」ルパンに挑んだ少年は、「薬で天才になった」自分が勝ったと思えたことで、きっと救われただろう。

不二子は「わざと負けるなんて、見直しちゃった」と再びいつものようにルパンに接するようになっている。
この気持ちに偽りはなかったのでは…なんてルパフジスキーとしては妄想したいところではあるが(笑)、ルパンは「素直に言ったらどうだ?アメリカの星ナンバーワンが欲しいって」と、切り返す。

ルパンは、ロマノフに情けをかけた自分について、あまり触れて欲しくなかったのではないだろうか。
そんな事を自慢するようなタイプではないし、偽悪的とまではいかなくても、自分の優しさを直球で見せたがらない韜晦癖のあるルパンの事だし…(ホントに妄想一直線)。

アメリカの星ナンバー1がもらえることになって、素直に喜び、ルパンの頬にキスする不二子がとても可愛い。今回全体的に不二子がクールだっただけに、このビーチのシーンはほのぼのルパフジシーンで非常に好きである。
さらに好きなのは次のシーン。
またしてもルパンを見つけ、銭形が二人の元へやって来る。
慌てず騒がず、ルパンは「ハァイ、とっつあ〜ん」。すると銭形も「ハァイ、ルパン。……って何言わせンだ!」とノリツッコミというお笑い高等芸を披露。
二人の「ハァイ」の時のイントネーションや、指などの仕草が可愛いので、ここはぜひ何度でも見ていただきたい(笑)
我に返った銭形は当然逮捕しようと向かってくるが、いつもの如くルパンと不二子はさっさと走り出し、ビーチでパラセーリングをやってる人の足に捕まって空へと逃げていくのだった。

最後にまたしてもどうでもいい余談。
この回、いつも煙草を吸っている次元やルパンがまったく吸わず、彼らに比べれば煙草を吸う事が稀な不二子だけ吸っていたり(カジノのカードのシーン)、銭形が自動販売機で煙草を買おうとするレアなシーンがあったりする。煙草観点からは、ちょっと面白い回でもある。


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