人間関係考察・対五右エ門編

不二子側から見た五右ェ門について考えてみたい。
なかなか本心の見えにくい不二子ではあるが、ところどころ素直な行動や発言があって興味深い。

「…後で面倒なことになるかもしれないわよ。いいのね、五右ェ門さん?」

(旧ル7話「狼は狼を呼ぶ」より)



五右ェ門の対不二子人間関係考察の項でも書いたけど、何度繰り返しても足りないくらいなので(笑)もう一度書いてしまうと…
不二子は五右ェ門にとって、本当に罪な女性だったと思う。
彼の命を狙う片棒を担いでいたくせに、五右ェ門好みの和風の装いをし、清純そのものの女性を演じ、五右ェ門の「がーるふれんど」の座に座っていたのだから(旧ル5話)。
彼女がルパンに語ったところによると、「危ないところを助けてもらった」ことがキッカケで五右ェ門と知り合ったような話だったが、それも怪しいものだ。最初から彼女の目的は、百地が約束していた報酬のダイヤモンドであり、企みを秘めて五右ェ門に近づいたことは間違いないからだ。
助けてもらったことは本当だとしても、それもすべて百地・不二子の仕掛けた演出だったと考えられる。

その正体を隠しつつ、かなり尖がっていた旧ル五右ェ門の気持ちを、よくまあ向けさせたものだと感心する。
もっともこの時点で五右ェ門とは初対面だったはずで、彼の好みを熟知していたのは百地の方だっただろうから、和服で髪をアップにし、清楚で可憐…という女性像は、百地プロデュースによるものなのかもしれない。
それを完璧に演じきった不二子も、見事である。

彼女を憎からず思っている男二人を焚きつけて、互いに殺し合いをさせようという作戦、考えば考えるほど私は「ひどいなぁ」と感じるが、不二子としては単なる「ビジネス」だったものと思われる。
かつては殺し屋をしていた彼女にとって、この程度は特に「ひどい」仕打ちではなかったのではないか。
(ルパンとの騙し合いにはまた少し違ったニュアンスがあるので、これは別途考えるよう置いておくが)…不二子のように、若くからアウトローな世界に生き、美貌と頭脳を武器にしている女にとっては、「騙されるほうが悪いのだ」ということになるのだろう。
だから、彼女はいたって淡々としている。騙したルパンに対しても、五右エ門に対しても。


“付き合っている”時は、ルパンが「似合いのお雛様みたいにベタベタしやがって!」とヤキモチ焼いてみせるくらい仲睦まじい様子だったようだが、その仕事が終わってしまえば、まったく別の顔を見せる。
7話では、藤波吟子という武道を嗜む女に化けて、五右ェ門が師範を務める示刀流に潜入し、斬鉄剣の秘伝書を盗み出そうとする。
これまたよくよく考えてみると、自分が手玉にとり、命を狙う手助けをした男の元に、いくら金になる(?)秘伝書があるからといって、よく顔を出せたものだと思う。
しかも「清らかな不二子ちゃん」の時とは違い、大胆に五右ェ門に侍ってみせる。
ほとぼりが冷めたとはいえないくらいの時間しかたっていないだろうに……(時間に関しては推測)。

が、先も述べたように、不二子にとっては「ビジネス」であり、(7話の時点で5話の出来事は)たぶん「過ぎたこと」だったのだから、特に思うところはないのだろう。終わった仕事について、いちいち感情を動かしていては、峰不二子は務まらない(笑)。
今更、そんな不二子相手にモラル云々でモノを言うつもりはないけれど、いい度胸だ!と感じ入ってしまう。

その7話で、彼女の計画が破れた際、五右ェ門に命乞いをしなかった。完全に失敗したことを認め、「斬ったらどう?」と開き直る。
「吟子」としては、ベタベタと五右ェ門に身を寄せ、その女性としての魅力も利用し油断させようとしていたが、いざという時にはそういう態度を取らない。
いかにも旧ル初期の不二子らしく、淡々と、そして毅然とした振る舞いと言葉である。見ようによってはふてぶてしいくらいだ(私は魅力的だと思うけど^^)

五右ェ門が「女は斬らん」と刀を引いた時に、あっさりと「ありがと」と受け入れた上(でも実際はちっとも感謝していなそう!)、さらに上記の台詞を言ってのけるのも、不二子らしい。
直前まで刀を突きつけられていたのに、挑発的ともいえる言葉。
かつて“付き合っていた”頃に、五右ェ門が女を斬らないタイプであることを見抜いていたのかもしれない。
また、百地に人質に取られた時、彼の躊躇を見てそうと知ったか。
いずれにしても、恋愛感情の有無などとは関係なく、五右ェ門が女に手を掛けられない男であると――判っていたのだろう。

「後で面倒なことになる」というのは、その後も諦めずに秘伝書を狙い続け、いずれは自分が手に入れるという予告のようなものだ。
そう宣言したからといって、ここで五右ェ門が彼女を斬らないと、確信していたと考えられる。
実際、そうなった。
すでにこの時点で、五右ェ門の、ある意味“甘さ”を不二子は正確に見抜き、把握していると言える。
彼女の部下を切り殺したばかりの刀を突きつけられても尚、静かな自信と余裕を感じるのは、そのせいだろう。
そして、この時が、本当の「峰不二子」として真正面から五右ェ門に接した初めての瞬間だった。

5話、7話いずれの時も、不二子にとって五右ェ門はまだ、利益のために近づき狙った男に過ぎず、素顔になった不二子の態度は、大胆不敵、そして非常にクールな女盗賊のものであった。

手に入れた秘伝書が贋物だと知った時、不二子はどう思っただろうか。
狡猾さに欠ける男と思いきや、案外やるじゃないかと見直しでもしただろうか?(妄想妄想^^)
不二子が頭の悪い男を好むとは思えないので、この時五右ェ門にしてやられたことが、次の8話で五右ェ門を自然に仲間扱いしている理由の一つかもしれないと、想像を巡らせたくなる。


「無事だったのね」 

(旧ル8話「全員集合トランプ作戦」より)



本来であれば、ここで不二子と五右ェ門の付き合いはなくなるのだろうが、五右ェ門がルパンの仲間になったことから、二人の縁も続くことになる。
五右ェ門はルパンの元を己の居場所と定めたようだし、不二子は不二子で、ルパンの周囲を、彼女独特の距離感で飛び回らずにいられない。
そうなると、おのずと関わらずには済まされない、というわけだ。

五右ェ門の方が旧ル時に、殆ど不二子に話しかけることがなかったことから、心の底からスッキリしているわけではなさそうだと私は勝手に推測しているが(笑)、不二子の方はあまり頓着していなそうだ。
五右ェ門が仲間になって初めての仕事で(旧ル8話)、妙齢山麓黒死館へ単身助けに乗り込んできた五右ェ門に向けた台詞が上記のもの。
その口調は案外優しく、「無事で良かった」という気持ちが現れている。
五右ェ門という救援が来たことを歓迎したという面もあろうが、「来てくれたのね」ではなく「無事だったのね」であることが、彼の身を案じていた証拠に思える。
特に五右ェ門の機嫌を取ったり媚を売ったりする必要のない場面だし、これは彼女の素直な反応だろう。

このシーンから察するに、「五右ェ門さん」という呼びかけに若干のよそよそしさはあるものの(あるいは『がーるふれんど』として呼んでいた頃の名残?)、不二子はもう五右ェ門をルパン一味として平静に受け入れ、そしてすでに仲間として気遣う気持ちまで持っているようだ。
さすがに不二子、切り替えが早い。


そしてこの時点でその萌芽が見えるように、不二子は案外五右ェ門に優しい。
旧ルの頃は五右ェ門の方が彼女を心から受け入れていなかった風なので、殆ど二人が関わることはないが、新ル以降、「不二子にしては優しい」というシーンが時折見られるのである。

例えば、新ル26「バラとピストル」。
この回不二子は日本へ行っていてルパンたちの近くにいないのだが、なんと五右ェ門のお願いで味噌と沢庵を買ってきてあげることになっているのだ。
わざわざ日本まで五右ェ門のために。
重たい味噌と匂いの強い沢庵を、あの不二子が買って運んできてあげるなんて……
このため“だけ”に日本に帰ったわけではないのかもしれないが、それにしても彼女にしては相当な優しさだと思う。
男性にプレゼントされることは多かれど、不二子みずから男性に何か買いに行ってあげることがあろうとは(←大袈裟)。
断食するほど海外の食事が口に合わず、日本食を恋しがる五右ェ門を不憫に思ったのだろうか。

また、PARTIII・29「月へハネムーンに行こう」では、五右ェ門にだけ日本土産としてダルマを買ってきてあげている。
その時同じ城にいたルパンにも次元にも、不二子がお土産を渡している様子はなかったが…。
日本を一番懐かしんでいるであろう五右ェ門には、ふと土産を買って行ってやろうという気持ちになったのか。
何の利益にもならないというのに(笑)……やはり不二子は、時々損得抜きで五右ェ門に優しい、と感じる。


但し、これはあくまでも友達感覚のように私には見える。
どこかミステリアスな男を好むと思われる不二子が、真っ直ぐな(言い換えるなら、分かりやすいタイプの)五右ェ門に、異性として惹かれるとは思えない。
ルパンのように駆け引きの多い関係でもなく、次元のように微妙に牽制しあう関係でもない。
時に五右ェ門からも「あの女」呼ばわりされ嫌われることがあるものの、それに頓着しないドライな不二子と、いつまでも悪感情を引きずらない彼とは、気安く飾らない態度で接することが出来るようだ。
敵味方含め周囲にいる曲者の男たちとは違い(笑)、卑劣さがなく、むやみと駆け引きすることもない五右ェ門は、不二子にとって信用度が高く、安心して付き合える相手なのだろう。
ある意味では、五右ェ門を甘く見ているところもあるような気がするのだが、それは決して彼を貶めているわけではなく、彼女の安心の証なのではないか。
新ル44「消えた特別装甲車」では、二人でマイアミにバカンスに行ったとされているが、ルパンと次元に隠さず、あっけらかんと旅立ってしまったところを見ると、ごく自然に友達として休暇を過ごすつもりだったのだろうと考えられる。

企みの多い不二子にとって、こうした付き合いが出来る五右ェ門は、かなり貴重な存在なのではないだろうか。



「ちょっとマザコンなんじゃない?」 

(新ル115話「モナリザは二度微笑う」より)

「わりかし気取り屋なのね」 

(新ル131話「二人五右エ門斬鉄剣の謎」より)



五右ェ門に対する不二子の人物評の面白かったものを挙げてみた。
以前、五右ェ門恋愛観の項で、不二子のこの指摘はある意味正しいのではないかと書いたことがあり、今もなかなか鋭い指摘のように感じている。
念のためここでも繰り返すが、私は、五右ェ門が世間一般でイメージされるような情けない男性像の典型の「マザコン」だと言ってるわけではない。詳しくはその項を読んでいただくとして。

ご承知のように、この台詞はレオナルド・ダ・ヴィンチの名画モナリザを見ながら言われたものである。
どうやら不二子はこの絵がそれほど好きではないらしく、世界でもトップクラスの有名絵画だというのに目の色変える様子もなく、かなり冷めた視線を向けている。
そして、「母性を湛えた美」と絶賛する五右ェ門を、「趣味が悪い」と一刀両断した上で、モナリザを「この手の女」呼ばわりをしている。
とどめは「マザコン」発言。五右ェ門が激怒するのも無理はない。
不二子が、古典的で母性的なモナリザ――要は自分とタイプの異なった美に対して冷淡なことにも、五右ェ門がそうした美しさを好むことも、どちらも非常に興味深い。

また、「へえぇ、五右ェ門にも女の美しさがわかるの」と、馬鹿にしたような口調で言っているのも、笑いを誘う。
それまでよっぽど五右ェ門を女性の美に疎い朴念仁だと思っていたことが透けて見えるし、自分が評価しない・好まない女性を、珍しくも大絶賛している五右ェ門に対して、ちょっと意地悪を言ってやりたい気もあったのではないか。
どうやったって怒るに決まっているのに、こんな事を五右ェ門の方を見てズバッと言えるのは、世界広しといえども不二子しかいないだろう(笑)
二人のこんなノリが、気兼ねのない友達的(ちょっと不二子がお姉さん風)で、個人的に好きなポイントである。
新ル136「ポンペイの秘宝と毒蛇」で、八つ当たり気味に怒りまくり、彼の首を絞める不二子と、「気持ちは分かぬでもない」と必死に宥める五右ェ門のシーンも、その手のポイントの一つとして挙げておきたい^^


新ル131話の「わりかし気取り屋」との言葉も面白い。
「気取り屋」という言葉が的確かどうかはともかく、五右ェ門は自分の行動に美学を求める性質だし、この作品中にあるように「己に降りかかった火の粉は己で払う」といったタイプの人間だ。
そんな彼を指して、不二子はかなりクールな調子で呟いていた。
その時の五右ェ門の行動に、あまり賛同している風ではない。
五右ェ門を名乗る何者かが銀行を荒し、さらにはルパンに挑戦してきた。そんな事態に、ルパンも次元も手を貸そうとしているのに、独力で対処しようとしている五右ェ門。
不二子から見れば、意地っ張りの「気取り屋」なのだろう。
非常に現実的で実利主義の不二子からすれば、仲間なんだし、カッコつけてないで力くらいいくらでも借りたらいいじゃないの、とでも言ったところか。




こんな風に、五右ェ門と不二子は好みも、行動の指針も、かけ離れている。共通点を探す方が難しいくらいだ。
だが、それゆえに二人は仲良くできるのだろう。(勿論、仲良くできるのは不二子の裏切りの虫が動き出さない時に限る)
自分と違い(笑)誠実で、卑劣さと縁遠い五右ェ門だからこそ、不二子は安心して付き合えるのだろうし、つい親切にしたくなるのではないか。

当然、五右ェ門相手だからといって、彼女が「峰不二子」であることを止めるはずもないが(彼にとって命より大事な斬鉄剣を盗んだりすることもある^^;)、
彼女にとって五右ェ門は基本的に仲間であり、また時に、損得勘定なしで付き合える貴重な男友達なのではないか。
そう考えると……不二子は長いこと少し距離を置いて付き合った後、五右ェ門の文字通り「がーるふれんど」となったのかもしれない。


(2007.4.13)

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