石川五右エ門の恋愛観を探る

いかにも禁欲的で、常に修行に励みつづける五右エ門だが、思いのほか恋多き人間である。
というよりも、寧ろ惚れっぽいのでは?という気もする。
何と言っても五右エ門は、ルパン一家の中で初めて結婚を決意した男である。
(一応「風魔…」は、旧ル後、新ルの前のエピソードと仮定)
そのお相手であった紫をはじめとし、五右エ門と関わった女性は多い。
不二子(手も握らぬまま騙されたことが発覚しているが)、浜中ナミ(新108)、イザベル(TVSP)、チンジャオ(劇場)、桔梗(TVSP)…等等。
彼女達とのエピソードから、五右エ門の好みのタイプ、恋愛観を考えてみたい。

純情剣士

五右エ門も案外、色々なタイプの女性と関わっている。

五右エ門は普段から禁欲的な生活をし、剣の道に生きている。女性のいる店には飲みに行こうともしない。
一見、次元以上の女嫌いだが、そういうわけではない。
ルパンがナンパに成功した「カワイコチャン」をすっぽかした時、五右エ門が「それならそれで拙者が代わりに行ったのに…」と呟いたりしている(新45「殺しはワインの匂い」)ところを見ると、煩悩がないわけではない。
寧ろ、(最近の作品では)惚れっぽいような気がする。

惚れっぽさの原因はただ1つ。五右エ門がウブだということである。
女性にあまり免疫がなく純情な男性は、えてして惚れっぽくなってしまうことが多い。
ふとしたことで感じた性的なときめきを、たやすく恋愛にスライドさせてしまうからだ。
五右エ門は、パンチラを見る、胸の谷間を見る、キスされる等、とにかくそういった性的な刺激を受けるともういけない(苦笑)、たちまち惚れてしまうのだ。ルパンが女性にそうしたことをされて鼻の下を伸ばすのとは根本的に違っている。
(こうした態度を見せるのは、主にテレスペ作品だから…この五右エ門像はここ最近のものだともいえる。個人的にはもう少し、五右エ門は大人の男性であるほうが好ましいと思っている)
ルパンが女性にそうしたことをされて鼻の下を伸ばすのとは根本的に違っている。

テレスペを取り扱わない当サイトで例に挙げるのはナンなのだが……「燃えよ斬鉄剣」桔梗の時がいい例だ。
確かに昔一緒に修行した桔梗に、親愛の情はもっていただろうが、再会した後の桔梗は五右エ門の本来の好みのタイプとは違っているような気がする。
が、ウブな五右エ門は、桔梗の胸の谷間攻撃(笑)や、思わせぶりな態度にすっかりドキドキしてしまっている。
イザベルの場合、意外に五右エ門のタイプだなという気はするが(後で考察)、これも好きになったきっかけは彼女の「お礼」…お色気たーっぷりのキスの嵐からだった。

そう、五右エ門が弱いものがもう1つあった。
人情話である。
どうも五右エ門は苦労している女性、肉親思いの女性にかなり弱いらしく、瞬く間に感情移入してしまう。
感情移入してしまうと、五右エ門のようなタイプの場合、そこから恋愛感情に発展することは容易である。
ナミの場合、そして菊子の場合がそうである(笑)。
菊子は言うまでもなく男だったというオチなのだが、彼の作り出したデタラメのお涙頂戴話にまんまと乗せられ、菊子を「心根のやさしい方」だと誤解してしまっている。
義理人情を重んじ、肉親を大切にする「心根の優しい」女性が好みなのだろう。

それにしても騙され易い五右エ門。自分が人を欺くことを知らないため、五右エ門はあまり他人を疑ってかかるようなマネはしないのだろうが……。

だが、勿論五右エ門は女なら誰でもいいような、単なる経験不足の情けない男ではない(断言)。

澄んだ瞳

五右エ門の好みについてはルパンが言及している回がある。
「そう、あの子の目はお前さん好みに澄んでいた」。
原作新「五右エ門星」における、ナミを指して言うルパンの台詞だ。
言うまでもなく新ル108話「哀しみの斬鉄剣」の元となった話で、108話の方でも同様の台詞がある。
五右エ門の好みは、目の澄んだ女の子なのだ。

目の澄んだ女性……。
目には想像以上にいろいろなものが表れるものだ。
五右エ門好みの目が澄んだ女性というのは、要は心も澄んでいるような女性、きれいな心根の持ち主ということであろう。

五右エ門好みと言われた浜中ナミは、祖父思いの女子高生。
余命わずかの祖父の宿願を叶えるために、体を張って斬鉄剣の秘密を盗もうとする。五右エ門が好きなのは、いくら心がキレイでも、ただ無垢で何も知らない人形のようなタイプではなく、どこかひたむきで一途なものを秘めた女性なのかもしれない。

次のポイントは、清楚で可憐であること。
古きよき時代の日本を愛する五右エ門は、女性像にもそういうものを求めている。昔ながらの日本女性的な清楚な美しさを好むようだ。
不二子が五右エ門を騙して「がーるふれんど」におさまっている時、彼は不二子のことを「清楚」な女性だと信じていた。
指先さえ触れ合わぬ清い仲であることを殊更大切に思っていたような五右エ門。
女の色気にてきめんに弱い割に、さすが剣一筋だけあって好きなタイプは一応「清楚」なのである。
寧ろ、自分が色仕掛けに弱いと自覚しているからこそ、清楚なタイプを好むのだろうか?
そして「カリ城」では、クラリスと言葉を交わした後、名台詞「可憐だ……」と呟いて赤面している。
クラリスは、どちらかといえばルパンよりも五右エ門の好みのタイプだと個人的に思うのは、こうした点からだ。
それにしても、自身を「清楚」だと五右エ門に思い込ませた不二子の手腕はたいしたものである。

だが、単に清楚で可憐なだけでは五右エ門と恋愛はできないだろう。
と言うのも、五右エ門はあの調子でストイックであることを尊ぶ気質のある男。
そんな人と曲がりなりにもちゃんとした「恋愛」をしようと思えば、女性のほうから多少は積極的に打って出なくてはならないだろう。でなければ、状況はいつまでたったも平行線を辿りつづけてしまう恐れもある。
決して下品にならぬ程度に、可憐な積極性を持った女性が五右エ門には似つかわしい。

これらの条件にピタリと当てはまるのは、やはり五右エ門が一度は結婚を決意した、墨縄紫であろう。
じっくり時間をかけて知り合い、結婚を決意するまでに至る。
制服姿で登場しているから、紫は高校生だと考えられるが、式を挙げる頃は卒業していたのだろうか。
いずれにしても若い2人の結婚である。(この時点で、私の勝手な推定では五右エ門もまだ20代前半)
それだけお互い真剣だったし、2人の仲もかなりうまくいっていたのだろう。
紫は、見た目も清楚で可愛らしいし、五右エ門とともに洞窟に赴いたときには健気に振る舞える。
そして、ちょっと五右エ門にキスをねだったりもできる女の子。
五右エ門にはお似合いの相手だといえよう。
そして、恋愛が律儀に結婚に結びついているあたりも五右エ門らしいと言えるかもしれない。

母性

不二子が五右エ門のことを「マザコンじゃないの?」と大問題発言をしたことがある(新115「モナリザは二度微笑う」)。
実は私、これには多少同意できるのである。
が!あくまでも世間一般に広まっているイメージ、「マザコン」=冬彦さん的男(古;)という意味で言っているのではない。
マザコンというと、何を決めるにも自分では出来ず、いつまでたっても母離れの出来ない甘ったれた未熟な男というイメージがある。困った時には何歳であろうとも「ママァ〜」と言いかねないような(苦笑)。
そこまで重症ではなくても、いくつになっても母親の強い支配下にあり、というかその状況を嬉々として受け入れているようなタイプ。
ドラマやマンガによる影響も大きいだろう。
厳密に「マザー・コンプレックス」という言葉がどういう状態を指し示すのか、私は正直よく知らないのだが、一般的なイメージはそんな感じであろう。

繰り返して言うが、私が五右エ門「マザコン」説に多少同意できると言ったのは、上に書いたようないわゆる「マザコン」であるという意味では決してない。
……といってもどうもうまい言葉がずっと見つからないのだが。

こんなことを書くのも、五右エ門の好みのタイプで最大の条件は、「母性」なのではないかと推定しているからなのだ。
勿論、ロコツに母親っぽい女性という意味ではない。
むしろ五右エ門は自分が女性をリードし、何かあったときは命に代えても守り抜く人間だろう。
自他共に認める昔気質である五右エ門は、女性との付き合いも昔気質で清く正しく美しくを実践しているようだし(あくまでも描かれたエピソードに登場した女性とは)、結婚したら亭主関白を希望するはずだ。
実際そうできる男であろうし、また物理的な面では五右エ門ほど頼りになる無敵な男もそうはいない。

だが、五右エ門が好きになったひとは、いい意味でみんな母性豊かな女性のように思えるのだ。
結婚しようとした紫や、好みのタイプのナミなどは、五右エ門より年下ではあるがそんなタイプにみえる。
母性豊かかどうかというのは、実年齢とはあまり関係ないことも多い。
包み込むような優しさ、穏やかで細やかな愛情、守るべきもののためにはなりふり構わぬその一途さ、女性ならではの激しさ……

一見異質なイザベルも同様だろうと思う。
単にイザベルの色仕掛けと美貌にコロッと参っているようにも見える五右エ門だが、そうとばかりはいえない。
イザベルというのはやたらと複雑な要素を持ち合わせた女性で、クールな知性派であり、魔性の美貌の持ち主であり、初恋の男性を思い続ける純で寂しげな女であり、彼との子であるマイケルを産んだ「母」でもある。
最初は彼女の美貌と色っぽさに惹かれていただろうが、一緒にいるうちに、五右エ門はイザベルのそういった色々な面に気づいたのではないだろうか?
単純に母性豊かな女性とはいえないほど複雑なイザベルだが、最後は母として死んでいったし、作品中自由の女神に比されている彼女は、やはり五右エ門好みの女性であったように思われてならない。

桔梗が五右エ門のタイプではないと書いたのは、この推測に基づく。
世界征服を望んでいたのはイザベルと似ているのかもしれないが、私には2人の根底に流れているものがまったく違っているように感じられる。

ルパン一家の中では、いつも無口で落ち着いている五右エ門だが、その実一番自我に不安定なものを抱えているのは彼である。
そんな五右エ門を慕い、盛り立てつつも、彼の精神的な支えになりうるのは、やはり母性的な女性だと思う。


五右エ門は一度この人と決めたら、たぶん生涯その女性と共に生きるタイプである。現実はともかくとして、本質的には。
そういう意味ではルパン一家+銭形の中で誰よりも信用できそうな人間だ。
他の女性の色仕掛けにクラクラすることはあるかもしれないが(笑)、結婚したら女性への免疫も出来るだろうし、何よりあの意志と倫理観の強さで浮気はしそうもない。

紫と結婚を決めた時、五右エ門は石川家の名と代々続いた泥棒家業のすべて捨ててしまう覚悟だったようだ。
結局己の未熟さゆえに紫のもとを去ってしまうけれども。
五右エ門にとって、結婚するに値する女性と巡り合ったら、それだけで自分のすべてだったものを捨ててしまえるのだ。
彼には、恋愛、そして結婚とはそれほど真剣なものなのかもしれない。いつも何事にも生真面目なほど全身全霊で向かう五右エ門らしい。
そんな風に愛される女性も幸せだろう。

だが、あのまま紫と結婚していたら、どうなっていたのだろう。
案外平和に暮らしていきそうな気もするが、でもやはりいずれ血が騒ぐ時がくるのではなかったか。
分身である斬鉄剣とは決して離れられないであろう五右エ門。
剣士としての自分は捨てられまい。そしてスリルに満ちた命がけの日々も。

五右エ門の中では、結婚したら物騒なことからすべて身を引いて、妻と平和に暮らすのが理想だったのかもしれないが、やはりそういう星の下には生まれついていそうもないルパン一家の面々。
五右エ門の結婚も当分は先の話であろう。

(2001.7.3)

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