第9話 殺し屋はブルースを歌う


プーン

旧ルは後半に行くにしたがって、大人のムード、そして気だるげな雰囲気漂うアニメから変化して行き、明るくコミカルなノリになっていくのだが、この作品は初期の雰囲気を「本格的に」残した最後の作品となるように思える。
ルパンの不二子への気持ち、不二子のルパンへの気持ちがあちこちに溢れており、それもまたたまらない。
そして、謎の女・峰不二子の過去が描かれるという意味で、とても貴重な話でもある。
後に新ルでは、ルパンや次元には過去の出来事や過去の女の話がたびたび描かれるが、不二子にはかなり珍しい。
その不二子のかつての恋人であり殺し屋のチームを組んでいたプーンという男は、非常に魅力的で、個人的にかなり好きである。

そのプーンが日本にやって来る所からこの話は始まる。
プーンは、3年間不二子を探し続けてようやく日本にいるという情報を掴み、やって来た。どうしても彼は、不二子に会わなくてはならない。
「俺が生きるために」
プーンはそう言う。
プーンにとって、不二子と組んで殺し屋をしていた時期が、最も充実していた素晴らしい時期だったという。
彼がその充実感をもう一度味わうためには、絶対に不二子が必要なのであった。

プーンと不二子が組んでいた頃、殺し屋界では相当派手に売り出した存在であったらしい。どうやらどこかの組織に属した殺し屋チームだったようだ。
充実していたのは、きっと仕事だけではないだろう。
回想シーンの不二子とプーンは、仕事の合間に非常に幸せそうな恋人同士であったのだ。その時の事が忘れられないプーン……。

不二子と離れ離れになっていた3年間、彼は彼女を探し続け、そのためだけに生きてきたのだろうか。
「生きるため」に不二子が必要だ、という程に、今のプーンには何も残っていなかったに違いない。不二子と再会し、過ぎ去った日々を取り戻すことだけを願っているプーン。
どうしようもなく哀愁を感じさせる男である。

だが、その頃の不二子はルパンといいムードになっていた。
2人でドライブしながら、最初こそクールに仕事の話を促す不二子だが、やがてルパンが2度目に彼女の肩に回した手を、振り払おうとはせず、そっとルパンの手の上に自分の手を重ねる。
「こうしていると、ずっと昔から恋人同士だったような気がするぜ。何度も裏切られたことが嘘のような気がする……」
いつになく真剣なルパン。いつものようにすぐに飛び掛るようなマネ(笑)もせず、静かに不二子を見つめる。そして不二子も、
「私もよ、ルパン。何だか貴方が本当に好きになったみたい。ヘンね」と答えるのだ。
今回に限っては、不二子に一切の計算は感じられない。とても自然で、そして自分にもよくわからないままルパンに惹かれていることに気付いてしまった…そんな雰囲気である。
ルパンと不二子の距離が、今まで以上に近しくなっていた。ルパフジスキー、必見の名シーン!!


今回のルパンが狙うものは、時価数億の高性能電子頭脳の機密書類。
ルパンにしては珍しいものを欲しがるという気もするが、実際その書類が欲しかったわけではないように思える。
というのも、キャップは、ルパンの名を騙ってその書類を自分のものにしようと企んでいたからなのだ(ルパンに化けた不二子によってそれが明らかにされる)。
ルパンは、自分の名を騙る人間を許さない。
だから、取り立てて欲しいわけではなかったが、キャップのハナを明かすために盗んでみせたのではないか、とも思えるのだが……。(考えすぎ?)


奪取計画

アジトではルパンの帰りを、次元と五右エ門がイライラしながら待っていた。
時間に正確なはずのルパンだが、この時はやや遅れ気味らしい。(不二子とちょっとドライブで遠出でもしたか?^^)
この2人のイライラぶりから察するに、ルパンは最近女遊びばかりしていてあまり帰ってこなかったのではないだろうか(笑)。
「また」女にでもうつつを抜かしているのではないか…と予測されているし。次元のイライラも頂点に。もしそうなら、「絶交」だとかなり怒り気味。
次元と同じく、五右ェ門も相当腹を立てていたようだ。

ちょうど次元がそう言いながらダーツを投げた時ドアが開き、そこから矢を寸前で受け止めたルパンが入ってくる。
そして不二子も。
その瞬間、先にキレたのは五右エ門のほうだった。「女は必要か?」との問いに、ルパンは「必要だ」と答えるが、五右エ門は「なら降ろさせてもらう!」と怒りに任せて(?)テーブルを一刀両断すると、さっさと出て行ってしまう。
さっきまで怒っていたのは次元のほうだったのだが(笑)。
先に怒りを爆発させた人間を見てしまうと、自分の怒りは案外沈静化するものである。
次元は、ルパンと絶交することなしに次の仕事に入ることになった。
さすが、この辺は長年ルパンと付き合ってきた相棒だけあるという気もするし(やや諦め気味?^^)、五右エ門がキレたせいで、自分が怒るタイミングを単に逸してしまっただけ、という気もする。

ちなみにこの回の五右エ門は、医者から手術道具を借りてくる以外にまったく何もしない。する気もなさそうである。あくまでルパンに対する義理からちょっと手伝ったという感じだ。不二子への感情はまだ冷たそうである(^^;。

一人酒を飲んでいい気分のキャップの元に、ルパンが現れる。
そして書類を奪いにきたと言い、キャップの動きを先読みして封じていく。
だが、キャップは「書類はここにはない」と勝ち誇ってみせる。
そして……ルパンからまんまと拳銃を奪い、形勢逆転かと思いきや。
そのルパンは、不二子の変装! そして、本物のルパンは実際に書類のある第四倉庫を襲撃し、その奪取に成功していたのだった。

ちょっと余談だが、ルパンに変装し、それがバレた時の不二子の妖艶な雰囲気は最高。男装の麗人といった風情が格別である。
不二子から奪った銃を、彼女の警告を無視して撃ったキャップは、銃の仕掛けにやられて気絶。
散々キャップをからかった不二子は、その隙に退散しようとする。(ルパンが不二子を自分に変装してキャップの元へ送ったのは、キャップをからかうためとしか思えない^^;)
だが、その時不二子はプーンと思いがけずに再会する。
「プーン…」とか細い声で呟き、驚愕する不二子の表情が、非常に印象的なシーンである。

不二子がかつて組織を裏切り、組織に追われることになった時、プーンは不二子を追いつめた……そしてプーンはついに発砲、不二子は海へ消えた。
そんな回想と共にしばし見詰め合う2人。
が、キャップが目を覚ましてしまうと、不二子は慌てて目くらましの煙幕を張って逃げ出す。
キャップはそんな中で無謀にも発砲。プーンが止めたにもかかわらず弾は命中してしまい不二子は負傷、血を滴らせながらルパンのアジトへと帰っていくのだった。

不二子の傷は、思いのほか重い。
弾を早く抜かねば命にもかかわるらしい。ルパンは早速医者に手術を頼む。
重態の不二子は、しきりとうわ言でプーンの名を呼ぶ。ルパンはそれを聞きとめ、怪訝そうに眉を潜める。

プーンの名は、暗黒街事情に詳しい次元が知っていた。
ルパンは不二子と知り合って3年、それ以前の過去を知らずに来たようだが、ここで始めて不二子の過去の一端に触れるのだった。
そして彼は組織の命令通り不二子を消せなかったせいか、彼もまた組織を追われていると知る。
不二子のうわ言、そして女を殺せなかった男……ルパンはそこに、確かに不二子が愛した男、そして不二子を愛した男の存在を感じ取ったであろう。


そんな中、プーンとキャップがルパンのアジトを襲撃する。
キャップは書類の奪還が目的であり、プーンは勿論不二子を「取り戻し」に来たのである。
ルパンは書類などどうでも良さそうだが、不二子を奪われそうになると血相を変える。今、ヘタに動かしたら彼女は死んでしまうのだ。ルパンは何より不二子の命を心配していた。
が、プーンはまったく聞く耳を持たず、不二子を奪って去っていく。
頭を殴られて一瞬昏倒してしまったルパンだが、すぐに不二子を追って車を駆った。次元の「一人では無茶だ」という言葉も聞かずに。

そしてまたアジトで待ちぼうけの次元。
アジトに現れた五右エ門に対してもかなり機嫌が悪そうに対応している。プーンたちを追っていたまま、8時間も連絡を寄こさないルパンに痺れを切らしかけていたのだ。
ルパンから連絡が入り、「手を貸して欲しい」と言われた時の、次元の「そうこなくっちゃ!」は相当嬉しそう(笑)。
次元は、ルパンに迷惑をかけられることが、決して嫌いではない。むしろ、多分好きなのだ(^^)。

ルパンは、一軒の家にプーンたちを追いつめるが、近づこうとするとキャップのマシンガンから狙い撃ちされてしまうため、完全に膠着状態に陥っていた。
このままでは、不二子は死んでしまう。
五右エ門が医者を呼びに行ってくれたものの、医者は先程のキャップの襲撃に恐れをなして来てくれず、手術道具が入手できただけだった……。

プーンは一体、どうするつもりだったのだろう。
キャップの言う通り、ルパンから逃げるつもりなら重体の女など邪魔なだけである。だが、プーンのたった一つの願いは、不二子を取り戻すこと。置いて逃げるも、ルパンに渡すことも出来ない。
だが、このままでは不二子の命はそう長くない……。
ルパンが手術の必要をどれだけ説いても、プーンは決して頷こうとしない。ルパンに不二子を奪われることを、恐れているようにも見える。
ルパンに奪われるくらいなら、いっそ一緒に死のうとでも思っていたのだろうか。
「生きるため」に不二子を必要としていたプーン、だが、逆に考えれば不二子を完全に失ってはもう少しも生きていけないのである。今までも不二子を取り戻すためだけに生きてきたような男なのだから。

一方ルパンは、不二子の命を助けたいと真剣に望んでいる。何とかして不二子を奪い返し、手術を受けさせようと必死だ。
「本気で惚れたな?」という次元の冷やかしには「バカ言うな、誰があんな女」と強がって見せるものの、思い出すのは不二子と心が触れ合ったあの一瞬のことである。
「ずっと昔から恋人同士だったような気がするぜ…」。自分の台詞を、「キザなこと言っちゃって」と呟きながら自嘲してみせる。
自嘲の笑みは、その台詞に対してだったのか、それともルパン三世ともあろうものが、いつも裏切り続ける女に本気で惚れてしまったからなのか……。

ルパンとプーンのそうした静かな攻防を知らず、不二子は傷の痛みで苦しみ続ける。
そんな中、ふとした瞬間に目を覚ました不二子はプーンの姿を認める。
その時、不二子は思い出していた。3年前、プーンと別れることになった時のことを。
プーンは自分に銃を向けつつ、「逃げろ不二子」そう囁いたのだ。組織の「殺せ」という命令に背き、不二子に背後の海へ飛び込んで逃げろ、とプーンは言った。
そして不二子は涙を流す。

不二子の涙は、旧ル中たった2回だけ流される。
一度目は4話で、ルパンが死刑になったと思い込んだ時。そしてもう一度が今回である。
ルパンの元へ帰り着いたはずなのに、今不二子の傍にいたのはプーン。そのことから不二子は事情を察したに違いない。プーンが自分を奪い返したと。
どうして不二子は泣いたのだろう。プーンへの、どんな思いが、彼女に涙を流させたのだろうか。

だが、不二子の気持ちはもう決まっていたのだ。
ルパンは手術道具を送ると言ってチャンスを伺い続け、一気に奇襲をかけて不二子を奪い返す。
絶対に不二子を死なせるつもりはないルパンと、共に死ぬことを辞さないプーン。不二子を挟んで対峙する。
「女は貰っていくぜ」
そう言うと、ルパンは無防備にプーンに背をむけ去ろうとする。その背に、プーンはルガーを向けるが……
不二子の「撃たないで!」という叫びと共に、プーンは倒れた。
不二子はルパンを守るために、プーンを…かつての恋人であり相棒だった男を撃ったのだった。不二子は、ルパンを選んだのである。

結局、不二子を失っては生きていけない、なかば死んだようなプーン。
せめて不二子の手で葬られたことは、少しだけでも彼の救いになっただろうか。
そのプーンに対し、すべてが終ってからやって来た次元は、帽子を取って哀悼の意を表す。
偉大な殺し屋だった男の末路への、同情か、悲しみか、もしくは共感めいたものか?次元のこの仕草には、とても心うたれるものがある。

ルパンを選んだはずの不二子。手術も無事済んだらしく、派手にゴーゴー(時代が現れてますね^^)を踊れるまでに回復していた。
だが、ルパンとこのまま簡単に上手く行くはずもない。
次元が部屋に戻ると、ルパンは頭にタンコブを作りパンツ一丁で縛り上げられていた。調子に乗って迫ったからきっとこういうことになったのだろう(笑)
それを見た次元は大爆笑。「そんなに笑うな」と拗ねてそっぽを向くルパンが非常に可愛らしい。

決して誰のものにもならない不二子。それが彼女の最大の魅力なのかもしれない。


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