第7話 ツタンカーメン三千年の呪い


黄金マスク

新ル史上、最大の怪作の1つ。
昔この作品を見た時、結構「怖い」と思ったような記憶がある。「たたりじゃ〜」の声もそうだが、目の下に紫のクマをつくった、ルパンの呪われた顔が、やたらと怖くて印象的。
何といっても、この作品ではルパンがツタンカーメンの呪いに負けてしまうのだ。
いつも合理的手段で、あらゆる敵に勝ってきているルパンが、である。

ツタンカーメンの呪いについては、昔いろいろと本を読んだハズなのに、情けないことにいまやすっかり忘れてしまった(^^;。
だが、ツタンカーメンの発掘に携わった人間(カーナボン卿や発掘員など)が死んでいることは、次元が作中で言っている通りだったと思う。
史実としてのツタンカーメンの呪いがあったかどうかはともかくとして…この7話では確かに呪いは存在し、ルパンはその呪いに破れてしまうのであった。
また、これ以外にもさまざまな見どころ、オイシイ場面が多く、極めて印象深い作品である。

名高いツタンカーメンの黄金のマスクを盗もうと持ちかけたのは、不二子のようだ。
4人でカイロ博物館に下見に来、ルパンに「お気に召して?」と問いかけている。
ルパンは、一目でその黄金のマスクが気に入ったらしい。珍しく(?)あつ〜い視線をマスクに投げ掛けていた。
一方、博物館にいる時から気乗りしなかったのは五右エ門。
墓からの発掘物に満ちたエジプトの博物館に、五右エ門は何やらアヤシイ気配を感じまくっていた。(さすがエスパーゴエ(笑))。

下見を終えたルパンは、厳重な警備の盲点を早くも発見する。
だが、相棒2人はまるで乗り気ではない。「聞いてンのか、五右エ門!」と怒鳴るルパンに、五右エ門は「聞くともなしに…」と気のない返事(笑)。
斬鉄剣に「死相が出ている」と、五右エ門は不吉な予言をする。
同じく次元も水パイプをふかして、まったく話に乗る様子が無い。
理由は「水虫」。
次元の水虫がうずく時、必ず良くないことが起こるというジンクスがあるのだそうだ。ちなみに、次元が初めて警察に逮捕された時も、同じように疼いたという。

不二子は「何なの、水虫くらいで!」とご立腹(笑)。
どう言ったところで、次元と五右エ門はこの仕事に乗ってこないらしい。
結局、次元・五右エ門の言う不吉な予感らしきものをまったく信じないルパンと不二子の二人で、ツタンカーメンのマスクを盗むことになった。

この話では、不可思議現象に対するそれぞれの対応の仕方が明確に見て取れるのが興味深い。
五右エ門はのちに(新ル59)エスパーじみた活躍をするだけあって(笑)、極めて霊感などが強そうだ。
五右エ門はもともと神秘的なものへ不信感はあまりなく、斬鉄剣の曇りや博物館で感じたモノを信じ、その直感に従ってこの仕事から降りている。
次元は、神様などは信じないと公言しているし、普段は現実主義者らしい行動をとるタイプなのだが、実はルパンほどは徹底したリアリストではない。
ジンクスという、あまり科学的根拠の無いものを信じ、またいざツタンカーメンの呪いを目の当たりにすると、「呪いだなんて」とバカにしたり、意固地になることなく結構素直に「呪い」だと受け入れているように見える。
ツタンカーメンの墓に書かれていた「死の翼もて……」という言葉を言ってみたり、「インシャラー」という台詞を繰り返したり……次元は、心のどこかでは神秘的なものを信じる心の余地を持っている人間のような気もする。
不二子は、お宝が絡むと自分の欲のほうを優先させる。もともと不二子も現実的な女なのだろうが、とにかく欲望の前には呪いも恐れはしない。
が、不二子も実際の呪いにかかったルパンを見てしまうと、やがて呪いの存在を受け入れ、そこからルパンを助けようとするのだった。


呪い

ルパンが目をつけた、博物館の警備の盲点とは、黄金のマスクが乗っている台が、しっかりと床に固定されていないことであった。
昼間、アラブ人の清掃員に変装したルパンは、こっそりと台の下に「仕掛け」を施しておく。
その夜、ルパンは博物館の天井をくりぬく。黄金マスクの真上を。
ルパンの仕掛けは、時限装置付きの風船のようなもので、時間が来ると台座から風船が膨らみ、黄金のマスクは台座ごと浮かんでくる。それを、天井に穴を開けて待ち受けるルパンが受け取る。
さらに、ヘリコプターで待機していた不二子がロープを下ろし、ルパンは無事黄金のマスクを盗み遂せたのであった。
急に上昇した不二子のヘリに向かって文句を言ったルパンだが、マスクに対して「ま、お前となら落ちてもいいか」と語りかけている。かなり、黄金のマスクに魅せられている様子が見られる。

アジトに帰って来たルパンと不二子は、当然ご機嫌。世界に名だたるツタンカーメンのマスクを手に入れたのだから、その気持ちは分かるような気がするが。
が、次元と五右エ門は相変わらず気が乗らない雰囲気だ。
調子に乗ったルパンは、ツタンカーメンが「俺に似てないか?」などと言いつつ、ついにマスクを被ってしまう。

呪い。幻聴を聞き、見えないはずのヒエログリフを見、服を脱いで踊り狂う。いつものルパンらしさは、ない。
慌てた次元がルパンを取り押さえようとするが、弾き飛ばされてしまう。
ルパンの隙を見つけ、五右エ門がどうにか気絶させルパンからマスクをはぎ取るが、その時すでにルパンはファラオの呪いに憑かれていた。
呪われたルパンの顔は、結構今見てもコワイ(笑)。

どうにかルパンを寝かしつけたらしき3人は途方にくれる。
次元は、ツタンカーメンの呪いについての記事を不二子に見せ、ルパンがそれにとりつかれた可能性を暗示する。五右エ門も、あのマスクを個人で持つことは不可能だ、と言う。
最初、不二子は「そんな迷信!」という、いかにも信じていなそうな態度であった。
信じていないというよりも、信じたくないという方が近いような気もする。
呪いというモノを信じたくない、というより、信じてしまえばマスクを手放さざるを得なくなるから……と考えたら、不二子をあまりにも欲張り扱いしすぎだろうか?(笑)
マスクを返すしかない、という次元に対し、不二子は最初は「無理よ」とはねつける。ルパンが片時も離そうとしないかららしいが。
次元たちがそんな話し合いをしている隙に、ルパンは部屋を抜け出してしまう。……黄金マスクと共に。

ルパンの向かった先はピラミッドだった。
頂上にまで上ったルパンは、すっかりツタンカーメンと化していた。ピラミッド周辺に集まった人々に対し(その人々がルパンには過去のエジプト人民に見えているのだが)ファラオとしての台詞を語りかけている。
こんな時、「呪われた男のやることはわからねぇ」と、次元は呑気にも聞こえるような台詞を呟いているのが結構笑える。
ちょうどその時、銭形がルパンを追ってエジプトにやって来た。
直通便がないことにもめげず、空港で赤軍に間違われたことにもめげず、イスラエルからエジプトまで執念で乗り込んできたらしい。
ルパンの様子がおかしいことにも、あまり気付かず銭形はどんどんピラミッドを登っていく。
ルパンの演説に対して「俺がお前を二度と彷徨えないようにしてやる」と呟きつつ…(笑)。
もしかして、最も「呪い」などにびくともしないのは銭形警部なのかもしれない。

そんな時、ルパンが突然宙に浮く。(ちなみに、このシーンで次元の「だから漫画はイヤ」という、かなりメタな台詞が聞けるので注目(笑))
が、それは呪いのせいなどではなく、不二子の仕業、らしい。ルパンの背には透明な、小型のグライダー(?)のようなものがつけられていたのだ。
不二子の車からつながったロープ、それを引っ張ることでルパンは宙に浮いたのだ。
それにしても、いつそんなものを取り付けたのだろう??もともとルパンがつけていたとはどうしても思えないのだが…?

何はともあれ、銭形はさすがにすぐそのトリックに気付き、見事彼の銃はルパンの「翼」を撃ち抜く。
落ちてきたルパンを次元と五右エ門が受け止め、不二子が車を返して彼らを乗せ、警察の車を振り切って逃げるシーンは迫力がある。
余談だが、新ルオープニングの砂漠のシーンは、この話をイメージしているのだろうか。


ルパンと不二子

「日は昇り、日は沈む……」
船上からナイル河に沈んでいく夕日を眺めつつ、次元・五右エ門・不二子が交わす会話は、すべてが印象的である。
「呪い」というあまりにも超絶的なモノを目の当たりにし、人間の無力さを感じてしまったのかもしれない。

ルパンは相変わらずとり憑かれたままだが、船が王家の谷へ向かっていると知り、ようやく安心して眠った。
不二子は、そんなルパンをとても見ていられないと言う。
「あたし、あんなルパンを見たのは初めてよ。まるで生まれたばかりの赤ん坊みたいに、あたしの腕にしがみついちゃって……あんな弱々しいルパン……」
そう言って、不二子は俯く。そんな不二子に次元は「やっぱりお前はルパンのことを…」と言いかけるのだが、不二子は「勘違いしないで」と突っぱねる。
だが。
やっぱり不二子はルパンを思っているのだ!と、ヒシヒシ伝わってくる名シーンである。
「あたしはただ、いつものルパンに戻って欲しいだけよ。世紀の怪盗・ルパン三世に」。
彼女は誰よりもきっと、ルパン三世を、不敵な怪盗を愛しているのだろう。
そんな不二子の想いを知った次元は、黄金マスクを返してきてという不二子に対し、明るい視線を向け「ルパンを頼んだぜ」と言うのだった。
次元は、大切な相棒を不二子に頼んだ。いつも「あの女」だとか「女狐」だとか言っていた不二子に。
それだけその時の不二子が、ルパンを真剣に想っていて、信頼に足るものであった何よりの証拠のように見える。
あの欲深い不二子が、自分から黄金のマスクを手放すと言っていることからも、その真剣さがわかるというものである。

こんな名シーンに、どうしようもないことをつい考えてしまうのだが……
「生まれたばかりの赤ん坊みたい」になってしまったルパンって、見てみたくないですか?可愛いッ!…失礼。ルパンスキーの他愛のない夢でした(笑)。

次元と五右エ門が黄金マスクを返しに言っている間、王家の谷の付近のホテルで、不二子はルパンに付き添う。
ベッドに手錠でつながれながら、うわ言を呟いて暴れるルパン。不二子の言葉も全然届いていない。ルパンはまだ呪われ続けているのだった。
ツタンカーメンとして、どうしてもマスクのあった王家の谷へ行きたがっていた。
そんな時、またまた現れた銭形警部。ホテルのフロントで不二子と鉢合わせしてしまう。
不二子は「まずい時にまずい男」というが、その通り(笑)。ルパンが呪われているなどとまったく信じようともせず、銭形はルパンの部屋へ乗り込む。

だが、そこにルパンの姿はなかった。
手錠から強引に手を抜いたため、そこには血の跡が残されていた。
いつものルパンなら「手袋を脱ぐように」手錠など外してしまえるのに……。
それを見て、初めて銭形は不二子の言葉に耳を傾けるようになるのだが、どうも半信半疑の様子。(当然の反応だが)
動揺していたのか、不二子はつい銭形にルパンが向かったはずの場所(王家の谷)について口を滑らせてしまう。この時の銭さんの嬉しそうな顔(^^;!
銭形も、そして不二子もルパンを追って王家の谷へ向かう。
ちなみに銭形は、最後までルパンを見つけられないまま、谷を彷徨うことになる(笑)。

そして夜が明ける頃。ようやく次元と五右エ門は黄金マスクを博物館に返し終えた。
その時、五右エ門の斬鉄剣から死相が消えた……

ルパンを見つけられずに、途中で力尽きていた不二子。(ルパン、と砂に書いて倒れている辺りが、何となく泣かせる^^)
そこへ現れたのは、いつも通りの、ルパン三世であった。呪いが、ようやく解けたのだ。
思わずルパンの頬っぺたをつねる不二子が可愛い。
「三千年の夢から覚めた気分だよ」と、呟くルパン。呪いにかかっている間のことを、彼のようなリアリストはどのように感じ認識していたのか。その間の出来事を覚えているのだろうか……。

せっかく手に入れた獲物を返し、結局「合理的」な解決もしないまま、ルパンはどうにかツタンカーメンの呪いから解放された。
「骨折り損のくたびれもうけ」オチの話は多々あるが、こうしたパターンはきわめて稀である。
そして不二子のルパンに対する気持ちがわかる、貴重な話でもある。


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