第15話 名探偵空をゆく


クラシックミステリ風

さりげなく異色作だったりするこの作品。
というのも、CMが入るまでの前半に、たった一度もルパンたちが登場していないのだ。
まあ、ご存知の通り後から考えれば「登場」していないわけではなかったのだけれども、リアルタイムで見ていた時は(再放送だったかもしれないが)、かなりソワソワした記憶がある。「ルパン、いつ出てくるの?」という、いつもと違った期待感を覚えた。
本格ミステリ風のお膳立てされた場に、ルパンがいつ登場するのかという、独特のワクワク感が楽しめる。
また、ミステリが、特に「本格」と称されるミステリが大好きな私にとって、この話はある意味格別な味わいがあり、地味に愛情を注ぎ続けるお気に入り作品だったりする。

オーストリアの名門貴族・ガブリエル伯爵。ちょっと謎めいた車椅子の老人。今回この人物が、ルパンに挑戦してくる。
世界的な飛行船研究家であり、探偵小説マニアであるというこの人物。
かなり無理やりな設定なのだけど(笑)何となく、雰囲気十分のお人である。
ガブリエル家に伝わる秘宝「ドラキュラの涙」を「差し上げたい」からと、彼自らが作り上げた飛行船・ヘンデンブルグ号に、ルパンを招待するのだ。
そこに立会人として、イギリスの名探偵・シャーロック・ホームズ三世、アメリカからはフィリップ・アーチャー、日本から金田二耕助、そしてルパンの宿敵・銭形警部を呼び寄せる。

この挑戦状は、ルパンへの手紙として書いているものの、その後飛行船の出発式が大々的に執り行われ、テレビ中継されていたことから考えても、多分マスコミにも広く取り上げられるよう各所に送りつけたのではないか。
さらには、一般的に「名探偵」と言われている、競い甲斐(というより、ルパンにとっては出し抜き甲斐。笑)のある面々が揃い、その上銭形までやって来るとあっては、ルパンとしては絶対この挑戦に乗らずには置かないだろう。

ところで、このガブリエル伯爵、ルパンを捕らえるため「空飛ぶ檻」として、ヘンデンブルグ号を作り上げていたようだし、ラストではルパン逮捕を「ライフワーク」と言っているが、何か因縁でもある相手なのだろうか。
ガブリエル伯爵って、他の作品かなにかで有名な人??
彼の言動を見ていると、「ルパンを逮捕する」ことそのものよりも、「ゲルマン民族の優越性を世界に見せ付ける」ことが陰の大きな目的のような気もするが…
それにしても、新ルのドイツ系のキャラって、こんな人多いな(^^;出発式のアナウンサーもどさくさで「ハイルヒットラー」なんて言ってるし。

いよいよ飛行船が飛び立つ日。華々しい式が執り行われ、世界中の注目を浴びながら、探偵たち、そして銭形警部が到着する。
シャーロック・ホームズ三世は、虫眼鏡であちこち観察しつつ。
フィリップ・アーチャーは、酔払い運転しながら、女と別れを惜しみつつ(「さらば愛しき女よ」と言ってるのが楽しい^^)。
金田二耕助は、自転車でやって来、フケを飛ばして「犬神家より大きいや」と呟きつつ。
そして銭形は、自力で走って(笑)離陸スレスレに現れるのだった。
キャラの特徴を良く現した、いかにもな登場の仕方。
いまさら言うまでもないが、ホームズ三世は、コナン・ドリルの生んだ名探偵シャーロック・ホームズの三代目という設定、
アーチャーは、レイモンド・チャンドラー作のフィリップ・マーロウと、ロス・マクドナルド作リュウ・アーチャーの両ハードボイルド探偵をミックスしたキャラ、
金田二探偵は、もちろん横溝正史の生んだ名探偵金田一耕助のパロディ。
ヤボの極みを承知でさらに解説するなら、先にアーチャーが言った台詞「さらば愛しき人よ」はチャンドラーの代表作のタイトル。
こういう遊びが、とても楽しい(^^)

余談だが。ここに出てくるホームズ三世は、98話「ルパン一世の秘宝を探せ」に出てくるシャーロック・ホームズ三世とは、別人のようなルックスだ。
この話でヘマしたから、傍流に「三代目」を名乗る資格を取られたのか?(だったら次に襲名するのは四世になるのかしら??笑)
それとも、同時期に「三世」をそれぞれが自称している子孫が二人存在しているのだろうか。

さらに余談。ご承知の通り、この後ルパンたちは集められた名探偵に変装して、飛行船の中で行動することになるわけだが。
飛行船の中に、(ルパンらに)捕らわれた本物の名探偵がいたことから、このシーンで派手に登場して乗り込んだのは、名探偵当人たちであると考えられる。
(ルパンたちは、目立たぬよう先に飛行船の中に入り込んでいたのではないだろうか)
アーチャー登場シーンで、一瞬「おっ、次元のキスシーン発見!」と思ったのだが、女性とキスしてたのはアーチャー本人だったようだ(笑)

飛行船の中で、探偵たちは好き勝手に過ごしている。
さすがに探偵たちの個性は強い(笑)…まあ、この時点ですでにルパンたちが入れ替わっていると考えていいだろうから、実際はルパンたちの演技なのだが。(正体を現すまでは、以下探偵名で呼ぶことにする)
静かに薀蓄を垂れるホームズ、酒びたりのアーチャー、フケ飛ばしまくりの金田二。ルパンたちが化けていると思うと、その様子も無性に可愛い^^
特に五右エ門。なかなかの名演技だと思う。

そんな探偵たちを、水虫の治療をしながら、不信感丸出しで眺める銭形。
唯一の国家権力を背負った警察官なわけだし、ルパン逮捕をライフワークにしているのは、他の誰でもなくこの銭形なわけだから、彼曰く「ヘッポコ探偵」なんかにルパンを捕まえることが出来るはずないと思っても当然かもしれない。


ドラキュラの涙

やがて食事の時間に。四人が囲むテーブルも豪華そう。
食事内容もかなり豊かな感じだし、食器もゴージャス。
だがそこに、招待主のガブリエル伯爵の姿は見えない。それを不審に思った頃。
突然の停電。ガブリエルの声だけが聞こえてくる……
そんな中、アーチャーは素早く声の発信元を見抜き、拳銃で撃ってみせる。声は、鹿の剥製の頭部に隠されたマイクから流れてきていたのだった。
それが名探偵たちへの腕試しだったのか。ようやく、ガブリエル伯爵が、執事と共に姿を現す。

さらにガブリエルは、ルパンをおびき寄せるための「ドラキュラの涙」のありかも、探偵たちに当てさせる。
どれだけギャラを払ってるのか知らないが、かなり酔狂なご老人である(笑)探偵小説マニアというだけあって、こういうことが好きでならないのだろう。
探偵もちゃんと伯爵の軽い挑戦を受けて立つ。
ホームズの「木の葉を隠すには森」という言葉から、見事金田二が「ドラキュラの涙」の場所を当ててみせた。
隠してあったのは、ガブリエル伯爵の右目。
義眼の部分に、宝石をはめ込み、偏光ガラスを使用したモノクルで隠していたのだった。
さらには、夜12時になると、特殊プラスチックのまぶたが自動的に下りてきて、開かなくなるのだとか(!)
要するに、ルパンは夜の12時までに、それを盗まなくてはならないというわけなのだった。
この時点で、あと三時間!
…こんな具合にタイムリミットが設けられているシチュエーションて、不思議なほどワクワクしてしまう(しませんか?笑)
余談だが。目の部分に宝石をはめ込み隠すというのは、旧ル14話でも同様のトリックが使われている。

こうした状況にあるというのに、その後も穏やかな時間が過ぎていく。
ホームズがバイオリンを奏で、その音色にガブリエル伯爵はウットリと聞き入っている。少し、居眠りすらしてしまうほど、穏やかで気持ちのいい演奏らしい。
アーチャーが「もっとジャズっぽいの」と茶々を入れると我に返り、「お静かに!」と嗜めるほど、彼の演奏がかなり気に入っていたようだ。

ホームズの正体はルパンなわけだから、バイオリンを演奏しているのも当然ルパンな訳で。
やはり彼はバイオリンが相当上手に弾けるのだ(惚v←笑)。79話「ルパン葬送曲」のラストでも弾いていたし、これは間違いないところだろう。
普段はクラシックなんか興味ないみたいな顔しつつ、いざとなるとバイオリンもサラッと弾いて見せてくれるルパン、本当にカッコイイんだからvv

…えー。このシーンでの注目は、ホームズと、伯爵の執事のアイコンタクトだろう。
話の筋を知らずに見ていると、うっかり忘れてしまうかもしれないシーンだが、ここはきちんと伏線になっている。

12時まであと三十分まで迫った時。バイオリン演奏に退屈そうな銭形が、雷の轟く窓の外を見ていると…
空に現れたのは、いくつもの気球。そこに書かれた文字は、「ルパン三世参上」。
カ、カッコイイ〜〜vv BGMのタイミングもあって、やたらと高揚感の高まるシーンである(私の。笑)

いよいよルパンの登場とあって、一同はより安全な伯爵の書斎へと移動。
さらに伯爵は、鉄仮面をかぶってルパンを待ち受ける。これを脱がさないことには、どうやっても「ドラキュラの涙」は取れないというわけだ。
……結果的に、探偵たちがルパン一味だったから何をしても同じだったとは思うが、でももしも、あの気球と共にルパンが侵入してきたのだとしたら、こんな風 に鉄仮面なんかを被っちゃったら、せっかく目の中という意外(?)なところに宝石を隠しているのに「ここだよー」と大騒ぎして知らせるようなモノでは。
と思ったが、この場合宝石を守ることが目的でなく、ルパン逮捕のためにしつらえた舞台なのだから、これでいいというわけか。(←自己解決)

ついに、時計の針が十二時を指した。
その時、室内の電気が消え、同時に銃声が響くのだった。
ああ、ベタだけど本格チックなノリが美味しい(笑)

ようやく電気がつけられると、伯爵は額から血を流して死んでいた。右目の宝石は奪われ、空洞と化していた。
扉のところに立っていたという銭形の証言から、外部からの侵入者はなし。
銭形は、拳銃を突きつけて犯人を見つけ出そうとする。
まず疑われたのが、アーチャー。伯爵登場時に、見事なガンさばきを披露していたから、銭形がそう考えるのももっともな話。
だが、「拳銃ならあんたも持っている」とアーチャー。
「わしは警官だぞ」との反論に、「あくどい警官なんかいくらでもいる」と言い返され、またホームズや金田二も「最も意外な人物が犯人ということはよくある」などと銭形に疑いの目を向けてみせる。
これ、ルパンたちが演じてると思うと、ホントおかしい(^^)三人で、わざと銭形を追いつめて遊んでたんだろうな、なんて。

だが、伯爵は死んでなどいなかった。よく観察してみれば、血だと思われたのはケチャップ。
伯爵も本物ではなく、精巧に作られた人形に過ぎなかった。
…ところで、新ルではよく血糊でなく、ケチャップが使われている。この頃は血の代わりにケチャップの方が、イメージしやすかったのだろうか。

本物の伯爵はといえば、当然ちゃんと生きている。なんと、床がどんでん返しになっており、人形のいたところをくるりとひっくり返せばその裏から、車椅子に乗った本物が登場してきたのであった。(この間、本物はずっと逆さ吊り状態だったのかしら??)
そして、今のシーンはすべてビデオに録画してあると言って、犯人を映したそれを再生してみせる。

拳銃で暗闇を作り出したのは、アーチャー。その瞬間、伯爵は人形と入れ替わる。
それを知らずに金田二が、刀で鉄仮面を斬り、さらにホームズがレンズを割って右目から「ドラキュラの涙」を手に入れた……
その間ウロウロしていたのは銭形だけで(ビデオで落ち着きなくチャカチャカ動いてる銭形が可愛い^^)、三人とも犯人なのだった。
それも当たり前。三人の探偵の正体は、ルパン・次元・五右エ門なのだから。
ここに来てやっとルパンたちの素顔が画面に現れた。待ってました〜(笑)

密室の中の犯罪、しかも全員が共犯…と、やはりこの話はミステリ好きには美味しい。
今となってはよくあるパターンとはいえ、当時アニメでこういう雰囲気のあるものは、少なかったように思う(私の見ていたアニメはごく限られたものであったが)


ルパン登場

ルパンたちがたった今手に入れた「ドラキュラの涙」は、人形に仕掛けられた贋物だった。
そう余裕で考えていた伯爵だったが、ルパンはそんなに甘くない。
「もう一人誰か忘れちゃいませんか?」と、不二子の存在を暗示する。
「どうしても離れたくないっていうモンだから」というホントか嘘かわからないルパンのノロケが可愛い(笑)…っていうのは余談で。
実は不二子は、伯爵にいつも付ききりの執事、彼に化けて潜入していたのだった。
ルパンのバイオリン演奏に伯爵がうとうとしていた隙に、執事に化けた不二子が、そっと右目から本物を奪い取り、すでに飛行船の外に持ち去ってしまっていたのだった。
「確かに預かったわよ」という不二子の言葉から、特に裏切る様子は感じられず、この回はルパンの味方として行動しているようだ。
12時がタイムリミットではあるが、ちょうどその時間に盗む義理もない、というわけで、伯爵の油断した隙をついたルパンなのだった。

同時に、すでに盗みは完了していたにも関わらず、わざわざ12時ジャストにこうした行動を取ってみせたのは、「せっかくのあんたの趣向に付き合わなきゃ悪いと思っ」たからなのだった。カッコイイ〜^^
次元の「俺たちは心優しき悪党だからな」という台詞もイイv

目的を達し、ガブリエル伯爵の挑戦に勝ったルパンたちは、ここで立ち去ろうとする。
しかし、そう簡単にはいかなかった。五右エ門が一度は飛行船の窓を斬ったものの、その直後下りてきた特殊スチールは、斬鉄剣でも次元のマグナムでも歯が立たないのだった。
まさに脱出不可能な「空飛ぶ檻」に閉じ込められたルパンたち。
ガブリエル伯爵一人脱出していき、飛行船は自動操縦で、グリーンランドに向かうことになってしまった。
そこには、FBIと世界中のマスコミが待機し、ルパン逮捕の瞬間を待ち受けているのだった。

「寒い国にご招待か」と、五右エ門の口調はちょっと嫌そう。
「だから年寄りをなめちゃいけないってこったな」と、案外年寄りに敬意を払うことを知っている次元らしい言葉。(このシーンを見ると、なぜか原作の「俺の心はいつもシルバーシートさ」という台詞が思い出される。笑)
ルパンと次元で、一生懸命自動操縦を解除しようと試みるが、下手にいじると爆破してしまうため、それも不可能なのだった。

「諦めろ」と銭形はいかにも嬉しそう。降りる時は、「お手手つないでやっから」と、手錠を掛ける気満々だった。
銭形側で発言するなら、どうせ脱出不可能だからと、ルパンたちが自由に動くに任せていたのが、敗因だろう。
ただ、同等の使い手三人が相手では、銭形でも一気に彼らを縛り上げることは難しいと判断したからか。

その時、本物の執事が酒を持って現れる。不二子が入れ替わる際縛られていたままだったのを、銭形が発見し助け出してやったのだ。
「監獄に乾杯」なんて余裕をかます銭形を特に相手にすることもなく、執事の姿を見て、ひらめくルパン。
半裸で縛ってあった本物の探偵の元へ行き、ルパンは「ご苦労さん」と意味ありげに声を掛けるのだった……


ついに飛行船は、グリーンランドに到着した。一面、氷の大地。
そこに、FBIとマスコミが待機。着陸すると同時に、早速FBIがルパン逮捕に向かう。
世紀の瞬間に、マスコミは大騒ぎ。
手錠を掛けられ、出てくる三人。名探偵たちに変装したままの姿で出てきたルパンたちに、「彼らも素顔を晒す勇気がないのでしょうか」などと言っている。
ガブリエル伯爵は、ついにルパンを逮捕したと感極まって男泣き。アナウンサーももらい泣き。

そんな中、飛行船の窓から、手錠を掛けられた銭形が叫ぶ。「あれは本物だ!」と。
ルパンたちの変装だと思われていたのは、本物の名探偵たち。ルパンらは、FBIの捜査官と入れ替わり、探偵と共に外へ出てきたのだった。
それがわかった時は、すでに遅し。ルパンたちを乗せたFBIの車は、走り去っていたところだった。

名探偵たちに、「ご協力感謝しますよ」と言うルパン。
彼らは、飛行船に乗り込んでからずっと縛り上げられていたのでは「名探偵」としての名誉に関わるので、ルパンたちと一緒に姿を消すことを選んだのだった。
彼らの見栄っ張りな面を見抜き巧妙につついた、ルパンの洞察力と交渉術の賜物だと思いたい←どこまでもルパンスキー視点(笑)
ちなみに。FBIに変装した名残で、この時五右エ門のスーツ&コート姿が拝める(ルパンと次元もだが^^)
五右エ門のスーツ姿はかなりレア。コート付きとなるともっとかも。多分、「ファイルM123を奪え」の四人銭形以来。以後は殆ど見当たらない。


そして、ルパンは脱出時にヘンデンブルグ号に仕掛けておいた爆弾を爆発させる。
飛行船内につながれていた銭形が開放され、船上で怒鳴っていることから、中にいたFBIも解き放たれ船外に出る時間の余裕はあっただろう。むやみに人を殺めることを好むルパンではないから、その辺はきっと考慮したはずだ。
だが、その爆発の威力はなかなかのもの。
爆風に吹き飛ばされ、ボロボロになる銭形はお尻丸見え!(笑)
当然ガブリエル伯爵の心血注いだ飛行船は、派手に焼け落ちていく。マスコミなど周囲の人間は大慌てだ。

確かに素人のくせにルパンに挑戦してきたガブリエル伯爵は、身の程知らずの老人だったかもしれないが、特に目を覆うような卑劣なことをしたってほどでもないし、何も飛行船を爆発させることもないのに??と最初のうちは思ったこともあった。
しかし、やはりこれでいいのだろう、と思う。
ガブリエル伯爵当人へ意趣返ししたというよりも、マスコミを通じて全世界に対し、ルパンは「安易に挑戦などしてくるなら、こういう目にあっちゃうよ」ということをアピールしたのではないか。
ルパンを甘く見ること、そして安易に敵対的に近づくことは、やはり慎むべきなのだ。
ルパン三世とは、そういう男なのである。


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