第54話 半七刑事 十年目の約束


観音像

三河半七という時代錯誤な刑事が登場するお話。
「三河半七」は岡本綺堂の『半七捕物帖』の主人公より取った名前だろう。(昔少しだけ読んだのだけど、ほぼ忘れてしまった。どんな雰囲気だったっけ?)
この作中での半七は、いまだに捕物帖に出てきそうなアナクロな刑事であり、義理人情に厚いのはいいけれど、それでミスばかりしてしまう役立たずとして、下町署の厄介者扱いされている人物だ。
この刑事と、ルパンが十年前にとある因縁があって……という話で、過去の回想だの、銭形が先輩を敬う姿勢だの、そういう細かい部分では好きな回なのだけれど、どうもラストだけはいまだにスカッと来ない。
その辺は追々書いていこうと思う。


ルパンの今回の狙いは、浅草浅草寺の開山千三百年記念式典で公開される予定の、秘仏・黄金の観音像である。
グライダーを飛ばし、アドバルーンで予告状を落下されるという派手な予告演出だ。

それを受けて、管轄の下町署では、銭形が観音像を守るためにこの事件を担当するのは、自分と半七刑事しかいないと、署長に直訴している。
銭形にとって半七は、「最も尊敬する先輩」なんだとか。
しかし署長の反応は芳しくない。が、銭形は相変わらず強引で、ルパン逮捕についてはICPOより全権委任されていると、押し切るのだった。
後のシーンで、下町署の刑事が銭形のことを「ICPOのエリート風を吹かせやがって」と妬み混じりに言っていたが、テリトリーに関していろいろとうるさい(らしい)日本の警察で、この手のゴリ押しをすれば、確かに嫌われるかもな…という気はする。
実際、現実世界でも日本警察からICPOに行く人物というのは、相当なエリート中のエリートだという事なので、今回はそういう設定が生きているのだろう。
忘れられがちだが、銭形はエリートなのである。エリートという言葉自体は、何となく彼に似合わないが、「ルパンの好敵手」でありうる能力の持ち主だという事は、忘れたくない(そして作り手にも忘れて欲しくない)ポイントである。


その半七、偶然上野駅付近でひったくりに遭遇し、得意の得物・十手で犯人を確保する。
そこまでは良かったのだが、犯人の安っぽいお涙頂戴の嘘に易々と騙され、取り逃がしてしまうのだった。
「十年前のことがなかったら」と、意味深な呟きをしつつ、犯人の逃げる姿を見送るしかない半七。

そのヘマを、下町署の刑事たちにこぞってバカにされる。縦社会の警察の中で、後輩たちからありえないほど露骨に見くびられているなんて、ちょっと切ない。
情にもろい事がこれほどあざ笑われる世の中、時代錯誤なまでに昔気質な半七にすれば、世知辛いにも程があると感じるだろう(確かにこんな甘くちゃ刑事は務まらないんだろうけど)。
しょぼくれてお茶をすする姿が黄昏ている^^;


一方、大々的に「挑戦状」を出してきたルパンを、次元は「ちょいと古すぎやしねえか」と茶化している。
48話で予告状を出して仕事をしたばかりだし、こういうやり方はルパンお馴染みなのに、今更古いも新しいもないだろうに(笑)
だからといって、当然次元は文句があるわけではなさそうだ。ただ観音様相手だから礼儀正しくしないとな」というルパンに、「ガラかよ」と突っ込むことは忘れない(この掛け合いがいいv)

反対に、五右ェ門は今回この仕事からは降りると言っている。「悪いが」とつけるあたり、だんだん五右ェ門の仲間意識が強くなっているようで興味深い。
彼が降りるのには訳があった。亡き「母上」が、熱心な観音信者だったからなのだ。
それを思い出してしまい、観音像を盗むという仕事に、どうしてもノれなくなったらしい。
母上のことを語る時の五右ェ門の口調が妙にしんみりしており、語尾の「ちまった」という珍しい言い方と相まって、何だか無性に忘れ難いシーンである。
次元曰く「幼馴染の観音さまにゃ、俺の心はお見通しってワケかい?」と言うと、「まあ、そんなところだ」と言って去っていく。
「幼馴染」という言葉をすんなり受け入れている辺り、子供の頃の五右ェ門は、母上と一緒に観音様に手を合わせたりしていたのかなあ、などと妄想が突っ走ってしまってどうしようもない。
14話の 「おばあちゃん」といい、今回の「母上」といい、新ルの五右ェ門には女性の親族の影がちらちらと見え隠れしていて、気になる。少なくとも思い出が残るほど の年齢までは、母上やおばあちゃんと一緒に暮らしていたらしいのに、どういう経緯で自然先生に弟子入りしたり、百地の愛弟子で殺し屋界のトップにまで登り つめたのか、やたらと生い立ちが気になってしまう今日この頃(いや、昔から気になってたけど!)。

というわけで、今回は不二子もいないし、ルパンと次元の二人だけで仕事をする事になるのである。


義理と人情

さてさて。その頃半七宅に銭形がお邪魔し、誰かの位牌に頭を下げている(半七はヤモメっぽいので、亡くなった奥さんだろうか??)
またしても義理堅く、ルパンの警備担当にしてくれたことに篤く礼を言う半七。尊敬する先輩から頭を下げられ、ちょっと戸惑気味の銭形の態度が新鮮に感じる。
いつもどこの国へ行っても、基本的に権力者や上官にすらあまりペコペコしない銭形(時として無茶なことすらする)を多く見ているからだろうか。

どうも、半七もルパンを逮捕することを宿願としている刑事であるらしい。
ここで、半七が呟いていた「十年前」の出来事が語られる。
十年前、銀行を襲ったルパンの乗ったセスナが、冬の谷川岳に墜落した。半七は執念でそれを追った。
しかし、危うく谷底へ転落しそうになる半七。若き日のルパンは、最初「その十手を捨てたら助けてやってもいいぜ」と条件を出していたが、何だかんだいって 彼を見捨てることはできかった。断固十手を捨てることを拒否した半七の、頑固さというか、己の魂である十手を捨てるなら死んだほうがマシという、不器用な までの…ある種の誇り高さが、ルパンを動かしたのではないか。(元々、ルパンは警官を殺さない主義ではあるが)
足がすでに凍傷になりかかっており、気絶している半七と、大きなリュックいっぱいに詰まった、奪ったばかりの現金。それを見比べ、最終的に半七の命を取るのだ。かさばる現金はすべて捨て、リュックの中に半七を入れ、ふもとまでルパンが運んでくれたのだった……

この回想シーンで意外だったり、気になるのは、まず十年前のルパンがリーゼントしている点(爆)。
新ルにおいては、「若い頃のルパン」はほぼリーゼントスタイルが定番デザインのようで、50、51話や92話でも回想シーンにその姿が登場する(微妙にリーゼントの形や髪色が違うが)
また、「半七のダンナ」とルパンが呼んでいる点。この呼び方からして、ずいぶん馴染みの刑事のような雰囲気だ。
もしかしたら、銭形よりも先にルパンを追っていたのは半七、という設定なのだろうか?(勿論この回だけの設定だろうけれど)
だからあれほど、銭形が半七を尊敬し、「先輩、先輩」と立てているのかもしれない。


とまあ、こうした過去があって以来、半七の足はリューマチを患うようになってしまった。
そのせいでヘマをし、邪魔者扱いされ続けて来たが、ルパン逮捕という大仕事を成し遂げれば、そいつらのハナを明かしてやれる。
「老いた刑事の執念」と目を光らせ、ルパン逮捕に燃える半七。どちらかというと、ルパンに対する執念というよりは、自分を見下し邪魔にしてきた同じ刑事たちに対する対抗心のようにも見えるが…
銭形は立ち去り際、半七の気持ちが良くわかる、と噛みしめるように言うのだった。


ルパンが予告してきた黄金の観音像が開帳される日も近い。そろそろ作戦を立てねばならないと、銭形は半七を促すのだが、相変わらずこの牢刑事はのんびりしており、茶柱が立ったと喜んでいる。
この縁起担ぎもいかにも昔気質っぽいが、ルパン逮捕には半七以上に執念を燃やしている銭形、あまりののんびりさ加減、時代錯誤加減に、苛々して煙草を4本同時に吹かす程(しかもその一本が靴の中に入ってしまって大騒動;)
これだけ尊敬してくれている銭形ですら苛々させるのだから、やっぱり半七は今の時代には合わない刑事なのだろう。

二人がそうやってあれこれやっていると、隣の留置所から酔っ払いの声が聞こえてくる。
最初はまるで気にかけなかった銭形だが、やがてそれがルパンだという事に気づき、驚愕する。
ルパンは、警察側の作戦を知るために下町署に盗聴器をしかけようと、真昼間っから酔っ払いとしてわざと留置所に入っていたのである。
次元はそれを傍受するトラックの中で待機中。
留置所に入り、うまく盗聴器をしかけられたのはいいが、どうやって出てくるつもりなのか、心配している。

最初は「まさか」と言った態度だった銭形だが、留置所にいるのが紛れもなく本物のルパンだと知ると、早速ICPOに連絡を入れようとする。
が、半七はそれを止める。
「これが本物のルパンだと思うか?」と、銭形に疑惑を吹き込んでいく。
半七が誘導するように、ルパンの顔がどんどん「鼻の穴の大きい軽薄なヤツ」「間の抜けた垂れ目」「青っ洟を垂らしたバカ面」等等に変化していく様がスゴ イ。さすが変装の名人、素顔だけでも自在に顔の筋肉を動かして、ある程度人相を変えられるようだ。←こんなギャグシーンでもルパン贔屓な見方(笑)
結局、銭形は半七が「こんなヤツがルパンであるはずがない」という意見を尊重し、よく似ている…と呟きながらも、彼を解放するのであった。

これで半七は、ようやく十年前の借りを返したのだ。あくまでも義理人情に厚い半七刑事なのだった。
しかしこれで、ルパンとの間に貸し借りはなし。
半七は留置所の窓から、ルパンが乗り込んだトラックのナンバーをしかと睨みつけている。


捕物帖

いよいよ観音像の置かれている宝物殿を下見に行く銭形と半七。
仁王よりも怖い顔、などと言われても、「口が悪いですなぁ」と笑ってる銭形、よっぽど半七を尊敬しているのだろう。
その後も、観音様の入った箱の封印が解かれていないことを確認しただけで、半七の慧眼ぶりを褒めており、ここまでくると「ヨイショしすぎなのでは?」とも思うが、銭形のことだから、今まで邪険にされてきた半七に自信をつけさせようとしていたのかもしれない。
案の定、下町署の刑事は、半七をバカにした発言をするのだが、それに対して銭形が一喝する。
ICPOの威光は相当なものらしく、イジワルそうな刑事ですらタジタジになっている。

銭形に撃退された刑事は、署長に対して不満をぶつける。「あんな頼りない二人にどうしてルパン逮捕を任せたりしたのか」と。
署長には、思惑があった。
ルパンは盗みの天才。だからどうやっても盗まれてしまうと、この署長は最初から諦めていたのだ。むしろ、本気で守る気などなかったのかもしれない。
盗まれれば誰かが責任を取らなくてはならなくなる。その責任を、邪魔な二人にすべてかぶせてしまおう、という腹なのだ。
自分の身を守ること、そして目障りな人物を排除すること……ルパンを利用して、署長はそなにことを企んでいたのであった。
その企みは、留置所に仕掛けた盗聴器を通じて、ルパンの耳に届いている。

さらには、ルパンは敢えてその話を、半七に聞かせる。
銭形と別れ、一人帰路につく半七の前に、例のルパンのトラックが止まっていたのだ。すかさず十手を取り出し、中にいると思われたルパンを捕らえようとするのだが……
そこは無人。録音された署長の声だけが流れているのだった。


いよいよ予告日当日。
警備作戦も進められていた。二体の仁王像が、観音像の両脇を飾ることになる。
だが、相変わらず署長と、その部下はやる気なしで、むしろリューマチ病みの半七と、「ICPOのエリート風吹かせる」銭形を放り出すことだけを望んでいる口ぶりである。

一方、ルパンは寺の住職と入れ替わり、観音像に近づく作戦だ。
この時次元が「おいルパン、お主の眉毛、落ちかかってるぞ」と注意するシーンがあり、何気にお気に入りポイント。
次元が五右ェ門のように「お主」という二人称を使うのが、個人的にツボにハマる。
きちり眉毛も直して、いざ出発。

ルパンはきちんと住職らしい態度を維持し、ついに寺の宝物殿へと入る。あまり日本文化……というより、宗教的な面に疎そうなルパンが、住職として式典を務 められるのか何となく心配だったのだが、その辺は抜かりなしだったようだ。(縛り上げた本物から、事細かく聞いたのかしら?)
ついに観音像の前まで来て、封印を解く瞬間が来た。

すると、それを阻止する声が轟く。半七の声だ。
ばれていたと知るや、ルパンは仕掛け済みの蝋燭を、スイッチ一つですべて消してしまう。堂内は暗闇に覆われた。
その瞬間、箱に入ったままの観音像を、何者かが摩り替えた。
そのすり替えが終わった後、ルパンがそれを取り上げる。

ライトがともされると、仁王像がルパンを羽交い絞めにしていた。
両脇の仁王像は、半七、銭形の変装だったのである。銭形が「半七先輩と俺が仁王に化けていたとは、観音様でも気づくめえ」という台詞が時代劇チックで好き^^
「きったねーの、変装なんかしやがって」と、お株を奪われた形のルパンの反論も可愛い(笑)

銭形は手錠を掛けようとするが、半七は自分の流儀である縄でルパンを縛り上げる。
それに対し、またもや文句をつける下町署の刑事だが、以前と同様に銭形に「青二才」呼ばわりされ、黙らされてしまう。
……実際、刑事が犯人をロープで縛るのってダメなんでしたよね?というのは、この場合野暮な突っ込みというものだろう。

だが、それすらもルパンは計算済みだったらしい。仁王像が二人の変装だということまでは知らなかったかもしれないが、何らかの罠があることは予測しているのだろう。
ルパンがロープで縛られるとすぐに、「お手柄でございました!」と一人の制服警官がやって来て、ルパンを移送する半七から、観音像の箱を預かるのだ。
これは次元の変装。相変わらず、どこの警官制服も似合う次元(だが、日本の警官に変装したのは旧ル以来初)。

堂内から出てくると、ルパンし突然笑い出す。今の警官が自分の仲間の次元だと気づかないなんて、半七もヤキが回ったと。
そして、至極簡単にロープを解いてしまうと、驚くほどの身の軽さで、寺の屋根へと登るのだ(ここ、すごくカッコイイ!!)
ルパンは「十年目の勝負、俺の勝ちのようだな」と笑うが、半七はまだ諦めていない。十手を巧みに使い、老刑事と言われる年だというのに、彼も屋根まで登って見せるのだ。お見事!

ここから、まさに捕物帖の世界に突入。
画面は、普段のルパンたちの姿ではなく、時代劇の登場人物のように、マゲの和装になるのだ。半七、銭形は岡っ引き風、ルパンは江戸時代の怪盗風に。
半七の十手攻撃を避けながら、ルパンはとても楽しそうだ。時代錯誤の半七のやり方を、面白がっていたのだろう。
一度は半七の縄に腕を取られたルパン、「こんな楽しい戦いは久しぶりだぜ」とも言っている。
捕物帖風の画面の間、ルパンの喋り方が時代劇っぽくなっているのが聞き所。山田さんの名調子、大好きv

だが、その捕物も長くは続かなかった。今回は銭形もあっさりと撃退し、次々と下っ端どもを片付け、半七一人になると、ルパンはいよいよ去ろうとする。半七は「そんなに慌てて逃げなくても」と引き止めるが、待ってくれるはずもなく(そりゃそうだ)。
「さらば、古きよき時代」と言って、花やしきに隠しておいた巨大ラジコン飛行機を呼び寄せ、それに乗って去っていくのだった。
(ラジコン飛行機の登場に驚いた銭形たちに、「ルパンに不可能はない」と言うルパンもステキv)


しかし。話はこれでは終わらないのだ。
暗闇の中で観音像の入った箱を摩り替えていたのは、半七だったのだ。
すでに警察を退職し、両手に花で金髪美女たちとサーフィンを楽しむ半七。その背中には、本物の観音像が背負われている。
ルパンに観音像が盗まれ、しかも逃げられた責任は銭形一人がかぶりそうになるものの、半七から送られてきた、例の署長の企みが録音されたテープによって、銭形は形勢逆転でき、警察を辞めさせられることはなかったが……

何となく、この結末だけはいまだにしっくりこないのだ。
確かに、今まで身を粉にして警察のため、日本の治安のために働いてきた半七からすれば、上司の保身に利用され、詰め腹を切らされる企みがなされていたことに、相当失望したのだろう。世知辛い日本から、離れたくなる気持ちもわかる。
だからといって、本物の観音像を自分の手に入れてしまうというのはどうなのか?
何としてでもルパンに負けたくなかった気持ちもよくわかる。決着をつけつられる最後のチャンスだったのだから、観音像が絶対にルパンの手に入るのだけは阻止したい。そういう意味で摩り替えていたのだと思っていたのに…
結局、自分の懐に観音像を入れて、海外で豪遊してしまっては、“昔気質の刑事”半七というキャラクターが、根本から崩れてしまうような気がするのだ。結局最後は自分も泥棒になってしまって良かったのだろうか??

ルパンに一矢報いるのは良い。次元に「やるんだねえ、イマドキの年よりは!」とボヤかせるのも、特にイヤなラストではない。
だが、観音像をネコババしたりせずに、後から陰謀録音テープと一緒に、観音像も送り返してくれば、スッキリできたのになぁと、個人的にここだけがとても残念なのであった。


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