第3話 こんにちは地獄の天使


フローラ

うちのレビューを日頃から読んで下さってる皆様には、私が「ルパンにまとわりつく無力なゲストヒロイン」を嫌う傾向になる事は、バレバレだと思う(笑)。なので、この回に登場するフローラも当然嫌いだと予想されるかもしれませんが……
自分でも不思議なことに、これが「嫌い」ではない。(特別好きなタイプでもないんですが・笑)

確かにリアルタイムで観ていた時は、ちょうどフローラと同世代であったために、ルパンと3日間も行動を共に出来た彼女を激しく羨ましいと思い、さらにはちょっぴり妬ましくすらあったのだけど(イタイ子丸出しだけど許して!笑)、当時からなぜか嫌いにはなれなかった。
フローラよりも、ルパンとイチャイチャ度MAXだったジェニーの方が憎らしかった(でも今ではジェニーはパースリで一番好きな女性ゲストなんだから、我ながら不思議なものだ)
この歳になって観てみると、いっそうフローラを嫌うことなんかできないと感じた。
…たった15歳で死んでいかねばならない少女は、やはり哀しみを誘う存在である。

また、作中のフローラの描かれ方が、好感が持てる大きな要因なのでは、と思う。
言いたくないけどテレスペヒロインのように、これみよがしに悲劇のヒロインを長々と演じることないし、30分ものだというせいもあって彼女の描写が比較的 あっさりしていた事がまずgood。そして、無力でクソ生意気なだけのツンデレ少女などではなく、フローラには嫌味のない純粋さがあり(世間知らず さ?)、それでいて単純に天使のような少女でもなく、死に際に「天国なんか退屈だもの」という切ない反抗を見せる等、魅力のあるゲストになっている。
さらには、ルパンが終始一貫してフローラを子供扱いしているところが、ルパンスキーとしては心地いい(笑)
というわけで、この作品の好感度はかなり高い。


前置きが長くなりましたが…。今回ルパンが狙うのは、地中海一帯を根城にする貿易商であり、その実世界中のブラックマーケットを仕切る死の商人・ハーストの残した、「エンゼルコレクション」である。
ハーストは世界中から天使の描かれた名画を大量に集めたのであった。
ハーストの館を、対岸のアジトから双眼鏡で覗いていたルパンが、「あれか、天使が住んでるってお城は?」と尋ねると、次元が頷き「天辺にある丸屋根の部屋だ」と具体的な場所まで答える。
ちょっと後のシーンでわかるのだが、この回エンゼルコレクションについて調べていたのは次元だったらしく、折りたたむタイプの(?)コンピューターらしきものにデータが集められている。

どうやって「天使の住む城」に潜入するのかと思いきや。なんと人間大砲!!(笑)
ルパンがちょっと不安そうに「ホントに大丈夫なんだろうな」と訊くと、次元は「ああ、ガキの頃に実験済みさ」とのお答え。なんでも次元は「人並みにサーカスが大好き」だとの事。
え、要するに、サーカスが好きだった次元は、その最大の見物だった人間大砲を、「ガキの頃に実験」していた、ということ? 自ら体験済み??
なんかすっごいハードな子供だな〜と、想像すると大笑いしてしまう^^。
ちなみに新ル148話では子供の頃の思い出として射的のエピソードが出てくるが、すでに子供の頃から「大砲」だの射撃が好きだったのは、いかにも次元らしいといったところか(両方脚本が金子裕だ!)

金子裕脚本といえば。とにかくこの回、どこの台詞もいちいち心憎いばかりで、すべて列挙したい誘惑に駆られるほど。
それほど気合の入ったキザな名台詞ではないものの、ちょっとした言い回しにも気が利いていて、どこもかしこもツボだらけ。特にルパンと次元のやり取りは相 変わらず最高。フローラとルパンメインで見てしまう回だろうが、そちらにもぜひご注目いただきたい(相棒関係スキーなもんで^^)

で、人間大砲として打ち出されたルパン、次元の目測が少し狂ったのか、わずかに屋根の上まで届かない。
しかし、絶妙な身のこなしで、何とかハーストの城の屋根にしがみつき、無事潜入に成功する。それを双眼鏡で見ていた次元は笑顔で一言、「さすがルパン、サーカスのスターになれるぜ」。(これもなんかツボー!)

天使がいるはずの部屋に入ってみると、周囲は地獄のような不気味な絵ばかりが飾られている。ルパンが言うように「趣味悪い」部屋だった。
隠されている「天使」を探そうとルパンが部屋をうろつき始めるとそこに一人の少女が現れた。フローラである。
彼女は唐突に「やっと来てくれたのね!」と叫び、自分をここから連れ出してくれる人が来るのを待っていたのだと言う。相手が泥棒だと知っても、「私を盗みに来たのね」と物怖じしないにも程がある(笑)
……イキナリ初対面の人間、しかも泥棒にこんなこというなんて、普通に考えればややアブナイ少女といえなくもないが、ラスト付近でわかるそれまでの彼女の 人生、そしてこの時点で残されていた寿命を考えてみれば、何が何でもこの予期せぬ闖入者(ルパン)について行こうと必死になった気持ちも、わらかないでは ない。(むしろなんか切ないー;)

この時答えたルパンの「俺は女の子を待たせたりしない主義」と言う台詞も全編に渡って活きていて非常にナイス。
そう言いつつも、この時点ではきっぱりとフローラの強引な思い込みに「勘違い」だと言い切り、抱きつかれてもまったく動じず「どーなってんだ?」と淡々と している。そうそう、ルパンはこうでなくっちゃ!!(どんだけ美少女でも小娘如きにむやみにデレついたりしないのよ!笑)

二人のそんな様子を隠し監視カメラが捉えていた。監視者は何者かにフローラの部屋に侵入者があったことを伝える。
が、ルパンはカメラの存在にすぐ気付き、一発で撃ち抜く。カ、カッコイイv
そして去り際の台詞がまたまたいいのだ。「驚かして悪かったな。だがこれで、俺がアンタの待っていた王子様じゃねえってコトがわかっただろ?夢物語の続きはベッドで見な」。
ククーーッ!!ルパン、素敵すぎます(感涙)

ここでめげないのがフローラのすごいところ。窓から去ろうとするルパンの足にしがみついたり、後を追って屋根を登ったりの大冒険。
…想像するに、彼女の病のせいもあっただろうが、義母による監視カメラ付きの生活はほぼ監禁状態に等しかったのかもしれない。やっと開いた窓から出るチャンスを──たぶん、自由に遊べる人生最後のチャンスを、彼女は何としてでも逃したくなかったのだろう。
事情を知らないルパンはあくまで淡々としていて、一人グライダーで去っていこうとするのだが(名前を聞き、「今度会うときは待たせないようにしよう」と言 う台詞も粋v)、さすがに屋根から足を滑らせたフローラを見捨てることは出来ず、彼女をキャッチしたまま空中へと飛び立つことになってしまうのだった。

逃げていく二人の姿を見ていたのは、ハーストの16番目の妻であり、フローラの義母に当たるアニタである。
(作中、彼女の名前が出てくることはないが、パースリムック文庫版の資料に基づき、以下アニタと呼ぶことにする)
さすがブラックマーケットを支配していたハースト家だけあって、部下も物騒なのが揃っており、ルパンのハンググライダーにライフルを向ける。だが、アニタはフローラに当たったらどうすると、撃つのを止めさせる。彼女はしっかりと部下への支配権を掌握しているようだ。
アニタはフローラに情があるから止めたわけではなく、そもそもハーストと結婚した目的である時価数百億のエンゼルコレクションの在り処を知るのがフローラだけだから、なのだった。
これは、不二子の「コレクションは娘のために集めたという噂」という台詞や、末期のフローラの言葉、そしてアニタの強硬姿勢を見ての推測なのだが、ハース トは遺言書などの“正式な手続き”でエンゼルコレクションは一人娘のフローラに残し、真っ当な手段では妻の手に決して渡らないようにしておいたのではない か。アニタは、だからこそフローラを監禁さながらの生活をさせていたり、チャンスがあれば力づくでもコレクションの在り処を白状させようとしたのでは…と 想像してしまう。


あと三日

さて。結局ルパンはフローラ付きでアジトに戻ってきた。そしてそこで改めて次元からハーストと、その「幻のエンゼルコレクション」について説明を受ける。←ここでパソコンらしきものが登場(笑)
「俺に解けない謎はねえってんだよ」と強気のルパンだが、どうやらフローラの余分な重みで地中海に落ちたらしく、大きなクシャミをしていた。
フローラは傍のソファでぐっすりと眠っている(アジトのソファで、しかもルパンと次元のいる部屋で!いいな〜v←笑)
そんでもって、ここでの相棒同士のやりとりがたまらなくイイ。何度も見ちゃう。
要は、フローラについて説明するシーンなのだが、楽しそうな会話の中でされるので、ホンットに好きなシーン。
次元からロリコン呼ばわりされ、フローラが勝手についてきちまったんだ、とムクれるルパンも、それを思いきり笑い飛ばす次元もサイコー。
次元が「今度から背中に書いておくんだな、『18歳未満お断り』ってな」と言えば、「俺の人気は幅広いの」と答えるルパン。この「幅広い人気」が後半パート(銀行のシーン)で実際に証明されるのも面白い^^

夜の8時になると、昼から寝ていたフローラはさすがに目を覚ました。(ドクロが出てくる時計、可愛い^^)
そこへルパンが部屋に不気味な演出をした上で、怪しい格好で登場。投げナイフや、「地獄館」という言葉でフローラを脅かし、さらにはマジックハンドで彼女の服を剥ぎ取り、自らもパンツ一枚(+ネクタイ&サングラスという変態っぽい格好・爆)で迫る。
これはフローラ自ら、ここを出て行くように仕向けようというルパンの作戦らしかったが、思惑は大ハズレ。フローラはまたしても動じることなく、むしろ胸全開で(!)「好きにしてー」と逆にルパンに迫り返す始末。…フローラ、恐ろしい子!
ちなみにこの時のルパンのパンツはトリコロールカラー。初登場。6話でもう一度だけ見られます。ルパンツスキーの皆様はチェック、チェック(笑)

ここのシーンで面白いのは、「EXIT」とフローラのために示した出口から、結局ルパンが逃げ出すハメになるところなのだが、そこから出ると海へ真っ逆さまに落ちる仕組みになっていた事。
フローラを海に落とそうとしてたとは結構冷たい仕打ちだなと思うけれども、敢えてここまでの仕打ちをして、二度と安易に近寄って来たがらないようにさせる意図があったのかしらん(笑)
結果的には、「冗談はよせー」と慌てたルパンの方が海に落ち、下で待機していた五右ェ門の釣竿によって救助される。

そうそう、ここでの崖での次元と五右ェ門のやり取りもイイ感じ。ルパンの子供騙しのやり口を二人して地味に文句をつけてるわけだが、その中で五右ェ門が「15といえば、もう大人じゃ」と非常に「わかってる」感たっぷりの台詞を言うところがポイント高し。
五右ェ門にこそ、「大人になったねぇ」と言いたくなる1シーンだ(笑)。
(でもこんな悟ったような台詞を言ったそばから、5話でベルタの裸を見てしまったら動揺し、ビーチで汗まみれの修行をしちゃうところも可愛いんですが^^)
余談だが、この回の五右ェ門はやたらと語尾に「じゃ」をつけている。釣れたルパンに対しても「大物じゃ」だし。PARTIII初期では、何となく「〜じゃ」の回数が多いような印象がなくもないが、この回は特に耳に付く(気がする)。


ああ、美味しいシーンばかりでちっとも話が進みゃしない。失礼。
翌日、ビーチにいた不二子の水着を脱がせようとするルパン。寝たふりしていた不二子だったが、ビキニの下へ手が伸びると「そこまでよ」とストップをかける(突きつけたのが実は水鉄砲だったってのがまたイイんだよなぁv)。
不二子もルパンがエンゼルコレクションを狙っていると知っているようで、「プレゼントしてくれたら、ずっと寝たふりしててもいいけど?」とちゃっかりおねだり。
コレクションと引き換えなら…という不二子の申し出に、すっかり乗り気になったルパン。俄然張り切ってキスを迫ろうとするのだが、そこへフローラがやって来る。
不二子はフローラのこともすっかり承知しているようで、「彼女ならコレクションのありかを知ってるかもね」と余裕の態度だ。
むしろルパンの方が若干ヘドモドしており(笑)、去り際に「そうよね、あんな小娘を相手にするようじゃ、ルパンもおしまいだものね」と不二子に言われてしまう。
水着のままバイクで去っていくところといい、フローラを小娘呼ばわりして悠然としているところといい、このシーンの不二子はカッコイイ。おねだりしているだけなのに、ベタつかず毅然としているせいで、ちっとも図々しい欲張り女という印象がないのが素晴らしい。

……またもや余談だが、ルパンと他の女が関わってる際、不二子の態度が、相手の年齢や容姿、属性等も関係しているのだろうが、「ルパンとの関係の深さ(気持ちの、ではない)」によって、違っているのが非常に興味深い。
この回のフローラは、コレクションに関係していなければ眼中にない感じ。15話のローリーに対しては、「ルパンが下心を持っているレベル」だったのでまだ余裕があり(多少イジワルしてるけど^^)、相当ないちゃつきがあった18話のジェニーに対しては、「女の子の趣味が落ちたわねぇ」と露骨に嫌味を言っている。不二子の女心レーダーはすごいと思う(笑)

不二子が去った後、フローラはああいうのが趣味なの、といった不満そうな顔を見せる。小娘のクセに不二子と張り合おうとでもいうのか、ルパンにシナをつくってみせたりし、不二子のことは明らかに「あんなオバサン」とでもいいたげである。
そう、確かに15の「小娘」にとっては、どんなに美人であっても自分よりも相当年上の女性なら「オバサン」扱いしたくなる気持ちはよくわかる。
でもルパンの答えは「果実はよーく熟してから食べるもの」。さすがルパン、わかってらっしゃる!!バナナも腐りかけが一番美味しいしねv(←アラフォーの1意見・大笑)
まだまだ固くて青い実のフローラとしては「フン」とそっぽ向くしかない。そしてまたまた哀しいことに、自分が決して「熟すことがない」と知っている彼女、どんな気持ちでルパンの言葉を聞いたのだろうか。

そんなやり取りの最中。海から大勢の怪しい男たちがルパンとフローラを襲う。多数の銛が打ち込まれ、あわやフローラは浚われるところだった。
しかしルパンが木切れをブーメランにして攻撃し、何とか彼女を助け、その場から逃げ出すことに成功した。
ちなみに、襲撃してきたのは、案の定アニタの手下たちである。ルパンと逃げているフローラを、コレクションを横取りされる前に取り戻す魂胆なのだった。

車中でのフローラはかなり苦しげ。気丈にも「久しぶりに走ったから心臓が驚いただけ」としか言わないが…
それとは別に、あの襲撃は、敵に襲われることなんかしょっちゅうのルパンに巻き添えを食ったわけでなく、自分を狙ったものだと気付くフローラ。ルパンは心当たりがあるのか尋ねるが、直接的には答えない。
そして胸に下げたペンダントを握り締め、「あと三日……」と呟くフローラ。「何が三日なんだ?」というルパンの問いにも答えず、急にふっきったような笑顔を見せた彼女は、「あと三日付き合ってくれたら、エンゼルコレクションの在り処を教える」と言い出す。
するとルパンは、話に乗り、フローラと三日間の冒険に乗り出すのだった。

まず手始めに、田舎の銀行を襲撃。
ルパンとしては、こんなチャチな仕事がルパン三世の仕業だとバレたくなかったのだろう。一応ハンカチで顔下半分を隠して銀行に押し入るのだが、フローラが「ルパン三世」の名前を出してしまう。
すると、銀行職員は大喜び。ルパンに襲撃されることは、すでに銀行の名誉になっているらしい。ルパンも自ら「アイドルしてっから」と言う。まるで新ル143「マイアミ銀行襲撃記念日」のようなノリだ^^
「これでこの支店も潰れなくて済む」と嬉々として金庫を差し出す職員。さらには、地元の老人たちからも持ち合わせのお金が渡される。まったくスリルの欠片もない「仕事」に、ルパンは「だからイヤだって言ったんだ」とボヤく。
挙句の果てには銀行前でみんなで記念写真を撮る始末。駆けつけた警官すらも、一緒に撮影するって…どんだけ?(笑)
やはりフランスでは特にルパンのネームバリューと人気は凄いものがあるのかもしれない。

銀行強盗の記事を読んだ銭形は、ルパンのショボい仕事が信じられず怒りまくっている。この「田舎銀行」に何か秘密でも、などと勘ぐる程。
しかし銀行に秘密などなく、金庫には村人の年金・子供貯金などの合計わずか(日本円にして)33万8363円があっただけである。
すると銭形は、ちょうど自分の月給と同額だと言い、「ルパンめ、ワシの月給を返せ!」と怒鳴り散らす。この唐突な怒りよう、もしかしたら、銭形への当てつけにわざと月給と同額の預貯金しかない銀行を襲ったとでも考えたのだろうか(笑)。
それにしても銭形が33万強しか給料を貰っていないとは。これだけ世界中を飛び回っているハードワークを考えると、安いよなぁと思ってしまう。公務員だから仕方ないのかしら。

続いてルパンとフローラは、街の雑貨屋から食料品を強奪するが、追いかけてきた店の主人は、取り返そうとするどころか、ルパンのサインを欲しがる有様(私もこのサイン、欲しい!)。
ルパンとしては、フローラみたいな素人の少女を危険な目に遭わせるわけにいかず、適当な「泥棒ごっこ」に付き合ってるだけだろうが、「こんなことしてちゃ俺の名も廃るってもんだよ」とちょっぴりトホホな様子。
でもフローラは生まれてはじめての冒険が楽しそうで、もっと大きな仕事をしましょうよと、すっかりその気になっている。いい加減ルパンはイヤそうだが、「三日間」は付き合う約束になっているのだから、と残りの一日も共に過ごすことにする。
「でもどうして三日間なんだ?」という問いに、相変わらずフローラはまるで答えようとはしないまま。

またまた余談で恐縮だが、フローラもかなりお召し替えをするゲストキャラだという事に気付いた。パースリ前半はゲストの衣装替えが多い印象だが(アラン長官ですら、警官服・私服・ガウンと3パターンもある!)、フローラもシーンによって結構変わる。
基本は最初のピンク系ドレス、それが破られた時の下着姿、赤いビキニ、そしてルパンと三日間過ごす時のパンツルックの4パターンだが、パンツルックの際にジャケットを脱ぎ着したり、帽子をかぶったりするので、衣装が良く変わるなぁという印象を受ける。


天使は天国へ

次の仕事は、ギャング組織の賭博船から売上金を奪う事に決定。ルパンはフローラをボートに乗せ、先に乗り込んで合図を待つよう指示を出す。
ボートに乗り込んだフローラは、いつも身につけていたペンダントを「これ、持っていて」とルパンに投げ渡す。それを「私の命。大事にしてね」と明るく言い、フローラは豪華ヨットへ潜入すべく遠ざかっていった。「ルパン、待ってるわ」と言い残して。
それを見送るルパンは小声で「あばよ、フローラ」。

しかしそのボートはギャングの賭博船などではなく、ハーストの組織の密輸船だったのだ。
フローラが身内のアニタから付けねらわれているとは知らないルパンは、彼女を自分の家の船に帰したことで、ようやく肩の荷を降ろしたといった気分だったことだろう。
次元は案外いいコンビだったと茶化すが、「ガキの相手はもうごめんだっての」とルパンはすっかり疲れた様子。(←こういうスタンスなのがイイ^^)

その時、彼女のペンダントを回していたルパンの指先からそれが外れ、後部座席の五右ェ門の方へ飛んでいく。その弾みでペンダントの中から、何かが出てくる。マイクロフィルムであった。
次元が車のライトで照らして拡大鏡で見てみると、レントゲン写真と「不治の病で余命三ヶ月」との診断書が入っていた。
そしてその診断書の日付は、ちょうど三ヶ月前の今日だったのだ……

フローラはどういう思いでこのペンダントを渡したのだろうか。
ルパンが自分を追い払った事に気付いていて、だから三日間のお礼に、約束通りエンゼルコレクションのカギとなるペンダントを渡したとも考えられるし、変に勘ぐるならルパンに「三日間」と言った謎──彼女の余命について──を解いてほしいと思ったとも考えられるけれども。
あの時点で世慣れてないフローラがルパンが追い払ったと気付いているだろうか、というのは個人的には疑問である。
フローラは本当に「賭博船の売上金」をルパンと奪う気でヨットに乗り込みに行ったのだが、もはや自分がいつ死んでもおかしくない時期に来ていると知ってい るから、少しの間離れる間ですら「これでお別れになるかもしれない」と考えたのではないか。なので、ペンダントを渡しておいた、ような気が私にはする。

フローラの言った「三日間」の意味がようやくわかったルパンだったが、そこへアニタの部下たちがヘリで襲い掛かってきた。
当然車で逃げる三人だが、その時の様子もまたまた最高。「たまには避けたらどうだ!」と怒鳴る次元に、慌てながらもルパンは「なぁに、風通し良くしねえとカビはえちゃうでしょうが」と軽口で返す。ステキすぎ。
そしてトンネルの中へ走りこむと、ヘリもそこへ追って入ってくる。高度を下げたヘリが相手となれば、いよいよ五右ェ門の出番である。
いつものすご技でヘリを斬り、あっという間に無力化させてしまう。ここで一句「ヘリコプター、羽根がなければタダの鉄くず。字あまり」(by石川五右ェ門)
ルパンと次元も「やんややんや」と楽しげに大喝采だ。ああ〜和むわ〜(笑)


しかし和んでいる場合ではない。船に乗り込んだフローラは、ついにアニタに捕まってしまうのだ。
縛れ上げられた上に銃を突きつけられ、コレクションの在り処を白状するよう、義母に迫られるが、死ぬのなんか怖くないとフローラはあくまで突っぱねる。
どうやっても彼女が白状しないと知り、見切りをつけたアニタはフローラに発砲しようとする。「では私がコレクションを見つけるのをあの世で見ているといいわ」。げに恐ろしきは女の欲望と執念。

そこへ、ルパン颯爽登場!!アニタの握っていた銃を撃ち飛ばす。そして「待たせたか?フローラ」と一言。
フローラは、「きっと来てくれると思ってた!」と大喜びで向かえ、それに答えて「俺は女の子との約束は必ず守るんだ」。
もうーーカッコよすぎる、好きにして!!(笑)

アニタが部下たちを呼び寄せ、二人を殺そうとすると、天窓から次元がアシスト。部下たちの武器を次々にマグナムで弾き飛ばす。「人のデートの邪魔するのは野暮だぜ」。まったくいちいち、言う事がニクイっv
そしてルパンとフローラは船の一室から逃げ出し、外へと向かう。ここでルパンが部下たちを軽く叩きのめしていて、強いのも何気にツボ。

船の中を走っていると、密輸される大量の武器庫を発見する。その下に油が流れているのを見ると、ルパンは「フローラには似合わない」としてワルサーを発射、その部屋は瞬く間に炎に包まれる。
その混乱の中、さらに走り続ける二人だったが、ついにフローラが倒れこむ。
ルパンの腕の中でついにフローラは打ち明ける。自分の命がそろそろ終わりだという事を。もちろん機械で測ったかのように、「余命三ヶ月」と宣告されてから ピタリと三ヵ月後のその日に死ぬわけでは(普通)ないのだが、15歳の少女にとってはまさに今日が「その日」だったのだろう。
そして父ハーストから言い残された言葉をルパンに伝える。
悪党だった父ハーストだが、娘のことは大事に思っていたらしく、娘だけは天国へ行けるよう、エンゼルコレクションを残したのだ。「天使がついてるから天国へ行ける」と言い残したのだという。

しかしフローラは、それに反発していたのだ。天国なんて退屈だもの、と。
私はこれを、ワガママだとはちっとも感じない。何不自由なく暮らしてはいたものの、父は亡くなり、義母は財産目当ての恐ろしい女、そして不治の病のために毎日塔の上に閉じ込められ、着実に迫ってくる死と向かい合っていなければならない日々。
あの部屋には、実は天使たちが隠され、守られていたのだとしても……そんな「天国」から逃げ出したい気持ちはきっと当然のことだろう。
人生は退屈の連続だった、とわずか15歳でそんな言葉が出てきてしまうのも非常に気の毒。
ルパンが「年寄りみたいなこというな」と言いたくなるのもよくわかる。

そんな話をしている時、ルパンの背後からアニタが迫っていた。銃を構え、発砲するアニタ、それに気付き、フローラは身をもってルパンを庇った。
その瞬間、船に爆発が起こり、次々と広がっていった。その爆風に巻き込まれ、アニタも倒れた。

ルパンを助けたフローラは、満足げに微笑み、静かに息を引き取った。
本当に自分で思っていたように、余命を宣告されてから三ヶ月目のその日に。
ハーストの船は完全に火に包まれる光景を、ルパンと次元はモーターボートで逃れて見守っていた。ルパンの腕には、もちろんフローラが。
彼女についていろいろと感じることが多かったのだろう、物思いにふけるルパン。それをちらりと横目で見た後、次元が無言で帽子のつばを引き下げるところが非常に良い!!


そして、ついにエンゼルコレクションが姿を見せる時がやってきた。隠されていたのは、あの地獄絵ばかりのフローラの部屋である。
フローラのペンダントにはサーモスタットが仕掛けられており、彼女の体温を感知しなくなり、ある程度の時間が過ぎると、銅版でできた地獄絵が溶け出し、その後ろから天使の絵画が現れるようになっていたのだ。

塔から出てきたルパンと次元を、不二子が待っていて「エンゼルコレクションはどうなったの?」と声を掛けてくる。が、ルパンは「天使は天国へ行っちまった よ」とだけ言うと、風通しのよくなった例の車で去って行ってしまった。事情を知らない不二子は「どうなってんの?」とキョトンとするばかりだ。
今回はいくら不二子といえども、エンゼルコレクションを渡す気になどルパンにはなれなかったのだ。
塔のてっぺんの部屋で、フローラは永遠の眠りについていた。たくさんの花と、天使たちに囲まれて。
「何といおうと、お前に地獄は似合わないぜ」とのルパンの台詞が効いている。
退屈な天国を嫌い、わざとルパンと強盗など悪い事に手を染めてみても、ルパンを咄嗟に庇うその心根は、どうしたって地獄へいく少女のものではない。

そして、走る車の中からペンダントを海へ投げ捨てるルパン。一度ボートに乗り込ませる時にコッソリ呟いた「あばよ」を思い出したのか、今度「フローラの命」であったペンダントと別れる時、「今度こそ本当に、あばよフローラ」と告げる。
敢えて我関せず的な態度を取って助手席で寝たような格好をしてる次元も、過度に重々しくならない絶妙な調子で「あばよ」というルパンも、どちらも本当にカッコイイ。
ラストの音楽と相まって、いつまでも余韻に浸りたい一作である。


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