第9話 浮世絵ブルースはいかが


変装

以前は地味な印象を持っていた作品だったが、改めて観るとなかなか手堅く、頭脳戦の趣が強く、かなり好きな1作になっている。
一番嬉しいのは、不二子がかなり頭を使ってルパンに対していることである。
「写楽の浮世絵をルパンに盗ませる」という目的そのものは、いかにも新ル不二子らしいものなのだが(笑)、手段が「単なるおねだり」ではないところがいい。
ルパン相手に大芝居をうち一儲け企てる不二子は、とても好みだ^^

その不二子。二万五千人の中から(!)アラン・ブロンソンという男を見つけ出し、この大芝居の主役に据える。
アランの何が一番気に入ったかというと、「まったく売れてない」という箇所。
実力派の芝居バカで、かつ「顔が売れてない」というのは、ルパンに芝居を見破られないための必須条件だっだのだろう。
無名の名優と手を組み、不二子の芝居は幕を開けた。


ある日ルパンは、飛行機の中で隣り合わせた老人と知り合う。
…これがアラン・ブロンソン演じる「写楽三世」。(ルパンが名前を知るのはまだ先)
ルパンは「PLAY BOY」らしき雑誌を眺めて鼻の下を伸ばしていたが(笑)、隣の老人が浮世絵の本を読んでいることにすかさず気づくところはさすが。
「いい趣味してるねぇ」とルパンが声を掛けると、老人は突然心臓発作を起こす。
老人の為に水を持ってきてあげるルパンの様子はかなり親身である。まあ、隣の席に病気の人がいたら出来るだけ親切にしてあげようと思うのは人の情だけれど、ルパンのそうした面を見られると、ちょっと微笑ましい気持ちになる。
その後もタクシーを拾ってあげたり、結局はアパートまで送り届けてあげることになるのだから、相当な親切ぶり。
「浮世絵の魅力を解する老人」ということで、親近感を抱いたのかもしれない。元々新ル以降のルパンは老人に優しいし…そう考えると、不二子の写楽三世人物設定は、かなり的を射ていたわけだ。

この飛行機のシーンで個人的に気になるのは、二点。
老人が落とした浮世絵の本を眺めつつ、ルパンが「俺もいつかこんな絵をコレクションしてみたいねぇ」と言っている所。
ということは、この時点でルパンは浮世絵を所有していなかったか、あるいは「浮世絵」というものは持っていても、写楽クラスの作品は持っていなかったと考えられる。
後に55話56話「花吹雪 謎の五人衆」で北斎の作品を盗んでいること等を考えるに、どうやら浮世絵に興味を持ち続けていたようだ。
もう一点。ルパンが乗っていた飛行機は日本発ニューヨーク行。
新ルでは21話まで日本を舞台にした話はないのだが、この様子だとルパンは時々日本にも立ち寄っているらしい。
(この二点とも、新ル作品がある程度時系列順と仮定した上での話だが)

閑話休題。
わざわざ老人のアパートまで送って来ると、その部屋は写楽の浮世絵に溢れていた。
アメリカにいながらこれだけのレプリカを集めるとは大したものだと、ルパンは素直に感心するが、老人はそれはすべて本物だという。
そこへ、この芝居のプロデューサー兼出演者(笑)の不二子が登場。
こんなところで「偶然」ルパンと出会うことに驚いて見せたりして…ホントに役者だのう(笑)
ここで不二子が老人に呼びかけることによって、ルパンは彼が「写楽三世」だということを知る。

彼は、長いことルパン三世に会いたがっていたのだという。
というのも、写楽三世のライフワーク(笑)を完成させて欲しいからなのだとか。
彼は「ご先祖の腕比べ」として、真作とまるで遜色のない浮世絵を描き、世界中の写楽作品を自作とすり替え続けていた。
後は最後の一枚を残すだけなのだが、心臓病の悪化でままならない。そこでルパンにそれを託したい……とのことなのであった。


上等のスコッチ

写楽という謎の絵師に関しては、多くの著作物が出ているので詳細は省略。(以前は「MEMO」というコーナーに写楽についての雑文がおいてあったんだけど、稚拙なので引っ込めました)
正体不明の写楽の子孫なんて…だとか、「三世」では年代が合わないとか、そういうことはここではどうでもいい。
(実在・架空を問わず有名人の子孫がいるのは「ルパン」界のお約束だし、また年代に関しては「写楽」を名乗る資格を得られたのがようやく三人目だとかいろいろとこじつけは出来るので)
重要なのは、不二子が実にたくみにルパンの心のツボをついているということなのだ。

なぜ「写楽三世」にしたかといえば、多分ルパンが三世だからではないか。ここでも親近感を抱かせようという意図が見える。
また、写楽三世が絵のすり替えを「ご先祖様との腕比べ」をやってきたという点も、ルパンの心に響くものがあったのではないだろうか。
写楽三世が、単なる絵師ではなく世界中の美術館ですり替えを続けてきた…ある意味「泥棒」であったことも、共感ポイントである。
不二子はルパンに、写楽三世の望みを叶えてあげてと頼みながら、「あなたも一流の泥棒ならわかるでしょ」とプライドと共感を刺激しているあたり、本当に上手いなと思ってしまう。

だからといって、そうすぐに請合うほどお人よしのルパンではない。
「タダってわけには〜」などと、いかにも泥棒チックな台詞を呟くが、そこは不二子のこと、すかさず色っぽい思わせぶりでルパンを惹きつける。
「全部あげちゃう」と言いながら頬にキスされたりすれば、ルパンはたちまちOKすることに。

写楽三世が最後にすり替え残した一枚は、五右エ門のご先祖様を描いた作品。
ルパンから、この仕事の話を聞いた五右エ門の目が光る。
ここでもまた、不二子の脚本センスの良さが際立つ。気難しい五右エ門を乗せるには、ご先祖様絡みの仕事にするのがもっとも望ましい。また老人に優しく情けに弱い五右エ門のこと、この不二子脚本はなかなかツボだったと思われる。
ルパンも「泥棒史上に残るすり替えの名人の最後の華」などと、うまいこと言って相棒を乗せようとする。
案の定、五右エ門は、話に乗ってくる。

一方、次元は仕事を請け負ったことと自体ではなく、「タダで」請け負ったことに文句があったようだ。
今回は「落っこち」といって、ルパンへの手助けを断るのだった。
それぞれのポリシーに基づいて、仕事に乗ったり降りたりする様子は、プロフェッショナル同士といった感が強くて心地よい(結局何だかんだいってルパンを助けてくれるわけだけど←それもイイ^^)

去っていこうとする次元に、ルパンはスコッチの瓶を放り投げる。
それは最高級のスコッチ。次元の顔が輝く(笑)
そのスコッチと引き換えに、ルパンは次元に写楽三世の看病をしているよう頼むのだった。
「看病〜〜?」とちょっとイヤそうではあるのだが、写楽三世宅への地図をポケットに忍ばせておくルパンの手回しの良さに、結局引き受けることになる。
最上級のスコッチと引き換えなら、看病くらいは相棒が引き受けるだろうことを、ルパンは承知していたのだろうv

というわけで、今回のお仕事はルパンと五右エ門という組み合わせ。
二人で美術館へ下見に行くが、そこにはなんと銭形が詰めていた。
特にルパン目当てで美術館の警備に当たっていたわけではなさそうだが、偶然ルパンに遭遇してしまうところが、銭形の執念のなせる技か(笑)
まさか銭形が監視カメラ越しに見ているとは知らないルパンと五右エ門、無防備にも素顔で写楽の絵を眺めていたのだった。
さっそく銭形は展示室から出てきたルパンを包囲。投げ網なんかでルパンを捕らえ、いつもの人海戦術でルパンを押しつぶし、警官らはルパンを殴りつけて逮捕しようとする。…が、お約束通り、ルパンは山となった警官の間をこっそりと這い出す。
五右エ門が絡まった網を一刀両断し、二人は外へと走り出す。(五右エ門の存在を忘れきったようなルパンへの一点集中攻撃が、惜しいというか銭形らしいというか…笑)
その後車に乗って逃げたかに見せかけ、銭形にカラッポの車を追わせ、その隙に二人は無事脱出する。
この時、騙されたと知った銭形の表情がGOOD。そのまま諦めたかのようにショーウィンドーに突っ込んでいく(笑)

一方次元の方はといえば。写楽三世が苦しみだしたとルパンにSOSするものの、どうしてもらうこともできず、かなり困った様子。
苦しみながらも写楽三世は「最後の一枚を」とすがりつき、ますます次元を困惑させる。←この困った様子がちょっと可愛い(不謹慎)
この時の発作で(芝居なんだけど)、写楽三世は水だと間違って次元のスコッチを一気飲みしてしまう。
…まっさかぁというシチュエーションではあるのだが(疑いを持つならこの時だったか?笑)実際、こんな場面に立ち会っていたら、疑うよりもオロオロしてしまうかもしれない。


一枚上手

ルパンを逃がしたものの、狙いが分った銭形は、美術館でひたすら待ち受ける。
「どんなことがあっても、最後までやり遂げるお前のことだからな」と、ルパンが諦めないことを知り尽くしている銭形の独白が渋いv
実際、ルパンたちは諦めるはずもなく、着々と準備を進めていた。
…ちなみにココでようやく次元もこの仕事にのることに。
「おや、次元ちゃんまだ俺たちの周りをウロチョロしてたの?」というルパンの台詞といい、それを受けての次元の「ハッハッハ」という笑いといい、たまらなく好き。個人的には、このシーンがニヤリポイントだったりする。
写楽三世の凄まじい執念を見せ付けられて、次元もすり替えに一枚かもうという気になったのだとか。
一番どーでもよさそうだった次元ですら、手を貸してやろうという気にさせるのだから、アラン・ブロンソンの演技は本当に真に迫っていたのだろう。

さてすり替える作戦の第一弾として。まずは不二子がハデ〜な赤毛の女性に変装し、美術館へ赴く。
そして絵に発信機を取り付けるのだった。
監視カメラ越しに、見ているであろう銭形に色っぽいウィンクを投げかけてからかう余裕の不二子。
銭形がついデレッとして帽子をパタパタされるところが可愛い(笑)すぐに「いかん!」と気を引き締めるところが、さすがだが。しかし彼女が不二子であることには、気づかず終いであった。

その間に、ますます写楽三世の具合は悪くなる。すでに「昏睡状態」に陥っている。
次元は一人「あのスコッチがいけなかったかな」と気に病んでいる。ちょっと気の毒〜;;
「スコッチ」というアイテムは、ルパンが次元に渡したものだから、当然不二子の脚本にはなかったはず。ということは、アランのアドリブでスコッチ一気飲みをし、昏睡状態→死という脚本を自然に見せようとしたのかもしれない。なかなかの役者根性だ。

そしていよいよすり替えの日。
美術品は次の展示会場へ運ばれるため、飛行機にすべて積み込まれる。
ルパンと不二子はパイロットとスチュワーデスに変装して機内に。次元と五右エ門は外で待機。
スチュワーデス不二子の押すワゴンを上手く利用して、絵画を積んだ機体後方まで往復、途中音を立ててバレそうになるが、ルパンはどうにか浮世絵のすり替えに成功する。

その時突然、国籍不明機のからの攻撃が!!銭形を初めとした警官らはパラシュートをつけて脱出をはかる……のだが。
実際、飛行機はまだ格納庫の中にあり、飛んでなどいない。むろん攻撃などされるはずもない。映写機などの小道具で錯覚させていただけだったのだ。
まんまと騙された銭形は悔しがるも、その頃ルパンたち四人はすでに去った後だった。
後に銭形は絵画を調べるが、異常なしとの結果が出て、ルパンの行動理由に頭をひねることになる。この贋作は、非常に良い出来のようだ。

余談だが、同じ飛行機内での盗みということで、どうもゴッチャになりがちなのが、12話。
12話の方は、次元のつけっ鼻の回と覚えておこう。
ちなみに、12話ではスチュワーデス不二子に「色目を使」った銭形だが、この回では「おなかが…」と誤魔化した不二子に、「大丈夫かい、手伝ってあげようか」ととても親切な態度を見せている。

さて。こうしてせっかく絵をすり替えて、本物を持ってきたルパンたちだったが、すでに写楽三世は死んでいた。
すべての作品(ルパンら三人は本物と信じている贋作群+ルパンが今回持ってきた本物一枚)を写楽三世と共に、葬る。
三人は酒を飲みながら、「土に帰る運命か」などとちょっとしんみり。
この時点では時価数十億の価値があると思っていた浮世絵コレクションを、写楽と共に葬ってしまうのだから、ルパンたちはやはり粋だ。(次元が「ちょっと勿体無い」と思う気持ち、非常によくわかる!)
姿の見えない不二子を、ルパンは気にするのだが、五右エ門に「懇意にしていた写楽三世が死んだのだから、一人にしておいたほうがいい」と言われると、さすがのルパンも素直に頷く。二人とも優しい。
「全部あげちゃう」という約束も、こういう場ではさすがに持ち出せないわけだから、不二子の計算高さに恐れ入る。

だが、その時絵に仕掛けたままにしてあった発信機が、再び動き始める!墓の下にある絵についている発信機、決して動くはずのないものが……。ルパンらは発信機が示すポイントへと急いだ。
外すのを忘れていたのは単なるルパンの「うっかり」なのだが、これが今回すべてのカラクリを暴くキッカケとなったのだから、何が幸いするかわからないものだ。
墓から抜け出し、絵を持って不二子の元へ向かうアランの前に、ルパンたちが姿を現す…

不二子は誰かと電話で、早くも写楽の浮世絵の取引をしていた。
そして約束通りアランに報酬の一万ドルを支払う。これで、不二子は当然、完全にお芝居は成功したと思い込んでいただろう。
が。その報酬を受け取ったのは、ルパンの変装。これはルパンたちの「ギャラ」といったところか。
次元は俺たち相手に芝居をうつなんて十年早いと言っているが、途中からしっかり騙されていたのだから、やや強がりかも(笑)
ルパンは「女の細腕であれだけやれりゃ上等さ」と不二子に彼なりの評価を与えている。

絵の取引へ向かうのか、車を走らせる不二子。するとバックミラーの中に、浮世絵凧(笑)と、ルパンのメッセージ垂れ幕を発見。
作戦が、失敗したことを悟る。
トランクからは本物のアランが縛り上げられた格好で出てきたことで、彼がルパンに口を割ったことも判明。不二子は「どうしてあなたが売れないのかわかったわ!」などとおかんむり。アラン、結構いい役者なのに、ちょっと八つ当たり気味。
そうまでいっちゃ酷というもので(笑)、ルパン自身が最後に見得切って言ってる通り「役者が違う」のだし、ルパンたち三人にとり囲まれてとぼけ続けられる人間は、そういないだろう。

ここで、ルパンは本物の写楽作「石川五右衛門」を黙って手に入れて済ますこともできたのに、あえて(挑戦的に!)不二子に偽の浮世絵コレクションを返すことで、すべてお見通しだよと伝えるところが、ちょっと「ルパン対不二子」感を強めていて、面白い。
ルパンにとっては、可愛いけれど油断ならないライバル的な面を持っている不二子というのは、やはり魅力的だ。
また、ものすごく勘ぐるのならば、不二子に贋物をつかませて知らん顔していると、その後彼女がその絵を取引する際に不都合が起きる可能性が高いから(不二 子の場合物騒な人間と取引してそうだし^^;)、事前にルパンが勝利宣言することで、その危険を回避させてあげたのかしら、とか。
これも愛?(←完全妄想)

どうでもいいことだけど、ラストで歌舞伎調なルパンにかかる「三代目!」というかけ声…ものすご〜くツボである(笑)
いいわ〜、「三代目」という響きv


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